Raindrops fall on my head


10


「――っ」
 驚いて息を飲む間にも、士翼号のまわりに青い光が集まって来る。それは、破壊されつくしたようなコックピット内をも、蒼白く照らし出して行った。
 これが、託された最後のチャンスなのだと思えた。自分自身には、士翼号を動かすだけの力はすでに残っていない。絶え間なく襲いかかる痛みにかすむ視界は、青い光以外は何も映し出さなかった。降っているはずの雨すらも、わからなくなっている。それでも、士翼号は、両手の先端に青い光を集め続けていた。
 やがて、それは大きな丸い玉となる。


「狩谷――。私も……同じ……なのだ。すべてを恨み、滅びればいいと……、思ったことが……ある。竜もHEROも……関係…ない。すべては、人の想いが産んだもの……。そして、人だからこそ――」
 ――わかり合えることもきっとある。


 この想いが、どうか狩谷に伝わるようにと、願ったとき――、光の渦が竜に向かって放たれ、暗闇の中で青い閃光が煌めいた。すべての想いを浄化するようなその輝きが生まれたのを合図にするがごとく、士翼号が再び大地に崩れ落ちる。その瞬間、それまで伝わっていた振動が完全に消えていた。
「感謝……を」
 つぶやくことができたのか、それとも脳裏に言葉が浮かんだだけだったのか、朦朧としていて判別できない。そのまま、沈んで行く意識に合わせて、ゆっくりと目を閉じる。


 壊れたコックピットの中へ降り注ぐ雨が、なぜか暖かいような気がした――。






*****






 ふと気がつくと、どこかで寝かされているようだった。目を開けようとして、それができないことに気づく。どうやら、包帯でもまかれているらしい。わずかに身動きをすれば、軋むような痛みを感じた。それでも、左手だけはどうにか動かすことができる。
 いったいここがどこかなのか、まったくわからない。狩谷がどうなったのかさえも――。
「気がついたのか?」
 突然、耳元で声がした。返事をしようにも、口を満足に動かすことができない。すると、大きな手がそっと左手を包み込んで来た。
 そして、ダイレクトに意識が伝わる。
『無理に話さなくてもいい。ここは病院だ』
『病院?』
『ああ。尚敬高校のすぐそばだ』
 言われて、竜との戦闘のことを思い出した。
『か、狩谷はどうした? 竜は?』
『狩谷は無事だ。竜はもういない。よくやったな』
 伝わってくる想いは、優しくいたわるような響きを持っていた。
『そうか、よかった。狩谷が無事ならそれでいい』
 ほっとして応えると、相手の声が怒りを含んだものにいきなり変わった。
『狩谷が無事なら……か。自分のことは考えないのか!?』
 竜を消すことができて、それでよいはずなのに、不機嫌そのもののような響きを伝えられると、ついそれに反発したくなってしまう。
『あの場合は、仕方がない。他にどうしようもないではないかっ。そ、それにだな、だいいち、おまえこそ、怪我をしただろう?』
『怪我?』
『ガラスの破片で切ったではないかっ。その手当てはどうした? したのか? しておらぬだろう!?』
 戻って来た返事は、それが取るに足らないことであるかのような色を添えていた。
『あのぐらい、別になんともない』
『――っ。なんともないだなんてことが、あるかっ!? あんなに血を流していたくせにっ』
 再び逢えたなら、言いたいことがあったはずなのに、すでにそれどころではなくなっている。
『俺のことは、心配いらない』
『勝手だっ。そんな勝手な言い草があるか!? もうよい、そんな男は願い下げだ。今日限り、恋人面はやめてもらおう』
 こうなると、売り言葉に買い言葉というものに近かったが、止めることができなかった。しかし、銀河の返事はあっさりとしていた。
『断る。言ったはずだ、離す気はないと』
 言われて、心臓が跳ね上がる。
『――っ。な、な、何を、い、言ってるんだっ。私は嫌だと、そう――』
 伝えかけた言葉を打ち消しにかかるかのようにして、穏やかな響きが戻って来た。
『ふ……っ。こうして手を繋いでいるかぎり、嘘は言えない。愛している……、おまえが想ってくれているのと同じように――』
『ひ、卑怯ものっ。心を読むなっ』
 いくら訴えようとも、左手をぐっと握り締められていては、どうしようもない。結晶体を通じて、抱える想いがそのまま伝わってしまう。
『なんとでも呼べ。俺はずっとおまえのそばにいる』
「う――っ」
 言葉に詰まりながら、それでも何かを言おうとして開きかけた口元へ、暖かいものが触れる。



『銀……河……』
 そっと呼びかけたつもりの想いに対して返されたのは、優しく髪の毛を梳く手だった。
「少し眠るといい。目が覚めたら、渡すものがあるから――」
 静かなその声に誘われて、ゆるやかな睡魔が訪れる。
 そうして、もう一度目覚めたときには、今度こそ謝ろうと思いつつ、眠りについた――。




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