いつか、君はHEROになる


 5月に入ってからは、クラスメートたちがいったいどういう動きをしていたのか、まったく把握していない。
 毎朝、ハンガーに飛んで行き、装備調整。なぜなら、3挺になったN.E.Pの配備が――、絶句ものなんである。2番機1挺、3番機1挺、そして、最後の1挺がハンガーに捨て置かれている……。
 N.E.Pが3挺になってからの、毎朝の滝川の装備は次のとおりだった。


両手:NEP
右肩:展開式増加装甲
左肩:展開式増加装甲
後腰:超硬度大太刀
右脚:装備なし
左脚:装備なし


 ジャイアントアサルトは装備せず、しかし、相変わらず、楯が好き。




 これを2番機の両手で1挺、それから左右の肩に1挺ずつ、装備しなおさなければならない。以前同様、やはり、朝起きるなりの殴り込み――本来これは司令の特権である――を、かけるわけにはいかない。これができれば、毎日確実に戦闘をこなすことができるにもかかわらず、それができないのだ、この装備調整のおかげで。
 3挺になったとき、1番機がこれを勝手に装備するというのなら、各自1つずつという理由でもあるのかと思えるが、そうではない。1番機――未央ちゃん――は、絶対にN.E.Pを装備しない。たとえ、ハンガーにストックされていても。
 もちろん、それが、1番機は重装甲だからという理由なのだとは、考えにくい。4月30日の時点で、人類劣勢であるから、たとえその後の10日間に状況が逆転しても、熊本撤退戦が必ず起こる。つまり、5月3日には最後の荷物としての士翼号が配備されている――人類側の戦況を有利に切り替えるために、これを捨てずにそのまま未央ちゃんが搭乗した。
 結局、最後の最後まで、なぜ、3番機がN.E.Pに固執するのか(されるのか……なんだろうか)は、わからないままだった。
 そうして、朝、装備調整した後、すぐに「一日の終了」を選ぶ。学園モードなど、知ったことか、時間がないんだ〜状態である。だいたい、へたに小隊内をうろついて、もしも万が一、この期に及んで争奪戦でも起きたりしたら、目も当てられないではないか。
 「終了」をしようとしたとき、戦闘が起こらなければ、その日は装備をいじっただけで終ってしまうわけだが、今さら誰かと会話するとか、親しくなるとか……、そんなことは言っていられない。すべては、もうどうでもいい、ともかく、滝川の絢爛舞踏である。それがループの目的だ。





 そうして、運命の選択の日が来た。
 5月5日の戦闘が終り、翌6日の朝、ハンガーにある各自の成績表を確認したところ、滝川の撃墜数は262だった。その日と翌7日に戦闘。結果として、5月8日の朝、滝川の撃墜数は293。そして――、この日は戦闘が起こらなかったのだ。
 5月に入ってからこなした、N.E.P3挺装備の戦いは、確実に戦況をひっくり返していた。すでに、人類の圧倒的優勢というメッセージが出ている。つまり、この土壇場へ来て、戦闘が起こりにくくなっていた。
 その状態で、9日の朝が来た。


――八代戦区に殴り込みをかけますか?


 システムが聞いてくる。ここで、イエスを選んだ場合、滝川は1挺しかN.E.Pを持っていない状態で戦闘に参加することになる。
 戦闘があるかないか、ある場合にはいったい何時に起こるのか――は、前日のデータをセーブするときに決定されているから、この日に戦闘はない……と、すでに決まっている可能性があった。その場合には、このシステムの問いかけにノーと応えてハンガーへ行くことにより、戦闘は起こらず、1日がただ終ってしまう。
 しかし――、司令であるからこその特権を使えば、設定されていない戦闘でも起こすことができるのだ、こちらからの殴り込みによって。
 あと、たった7体……。善行だったら、間違いなく、1挺のN.E.Pでも楽勝でこなすだろう。でも、滝川は、ナーガを1体撃墜しただけという、輝かしい戦績を持っている。たとえ攻撃のみの誘導をしても、勝手に前方移動をしてしまうことがあるのだ。
 これは、しっかり検証したことではなく、あくまでも、滝川の行動を眺めての推測に過ぎないが、滝川は、N.E.Pにも射線が存在すると思っているのではないだろうか。
 攻撃ポイントを指定したとき、それが平野部ならば、そのままN.E.Pをぶちかますが、市街戦の場合、その攻撃ポイントが障害物の陰にならない位置まで、勝手に出て行ってしまうのだ。これでは、ジャイアントアサルトを使った攻撃方法と、変わらない。実は、ナーガ1体を撃墜したときも、市街戦であった。
 これを深く考えると、N.E.Pの価値がわからない人間に、それを持たせているという、底なし沼を覗いた気分になるので、検証はパスしたい。




 それはともかく、いったいどうするか……?
 これは、1つの賭けだった。
 もしも、この日に戦闘が設定されていなければ、いくら装備調整をしようとも、元から本日の撃墜数は0である。N.E.P1挺で7体は稼げないかもしれない(という可能性が、滝川の戦闘にはある)が、0よりはまだ増しだ。
 考えた末、撃って出ることにした。


 そして、戦闘が始まり、その第1ターン――。


 ――歌を歌いますか?


 当然、歌う。当たり前だ。
 N.E.P主体で戦闘をすると、実は、第2ターンの始まりの段階までに歌を歌い始めなければ、効果がない。この歌は、歌い始めてから3ターン目にならないと、ガンパレード状態にならないわけだが、その頃には残った敵は全部撤退しているのが常だから。
 これは、天の配剤だと思えた。

 そうして、滝川がN.E.Pを放つ。その撃墜数8……。

 幻獣が撤退し始めたところへ増援が来て、それも撤退しようとしたあたりで、ようやく全員ガンパレード状態。後は、滝川の好きなようにやればいい。
 5月9日の戦闘はこうして終った――。




 翌5月10日の朝、滝川の撃墜表を眺める。307。そして、HR開始。


 ――累積敵撃破数が300を越えたので、滝川が絢爛舞踏章を得ました


 昼休み、滝川に話しかけようと画面移動――もうこれも解禁だ――したとたん、「熊本撤退戦開始」。なんと、無粋なことか。結局、絢爛舞踏を取得してどうだったのかを、しゃべっていないぞっ。まあ、特別なメッセージはないのだろうが……。




 5月10日時点での、滝川の取得技能は、次のとおり。結局……、最後まで、戦車技能を取得することはなかった。
 
 飛行3 班長1 事務2 医療2 開発1 情報3 誘導3 同調3 軍楽3 話術1 白兵2 狙撃2 天才1






 熊本撤退戦が終ると表示される会話――。このとき、滝川には、もともとセリフがある。今までは、それは実態を伴わない言葉だった。でも……。


「じゃあな、相棒。お前くらい座り心地のいい機体はなかったぜ」


 そうだな、滝川。今度のループでは、君にはこのセリフがよく似合う。
 夢はエースパイロットと言いながら、たいていのループではパイロットにすらなれない、滝川陽平――。彼はHEROになったのだ。



――どこかのだれかの未来のために



(了)




 ――OVERSによる感想
 「滝川陽平、HERO化計画」は、決して、他に恋人がいる女性キャラでやるものではない。余分な苦労が、増えてしまう。
 以上。


<歴史的補講>
滝川洋平……黒い月遠征軍の戦士として、最後の戦いに参加
芝村 舞……戦後再建された軍に復帰、将軍となる
来須銀河……戦後、再度軍に志願。第4次防衛戦争に参加

Aランクで終了。



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