いつか、君はHEROになる





 ところで、問題の日の前日である20日は、来須にも滝川にも一切近づかず、一人で運動力の訓練などをして過ごしていたのだが――ショックのあまり、ループの目的もほったらかしである――、このときは、滝川にとって、近来まれにみる技能取得日よりであったようだ。3月20日の深夜、滝川帰宅後に確認したところ――。


 飛行2、情報2、誘導1、同調2、軍楽1、話術1、白兵1、狙撃2


 飛行が1レベル上昇した他、軍楽、話術といった、舞が持っていないものを滝川はどうやってか、ともかく、1人で勝手に取得していた。眺めて呆然とする。来須に浮気されてまでやっていた今までの行動は、いったいなんだったのか? 
 滝川は、指図されることをとても嫌う。訓練や仕事の指図をして、その提案が通ったことがない。時間帯も考え、こちらが昇進してから試しても、これは駄目だった。ものすごい剣幕で怒ってしまい、戻って来る返事は、「うるせーっ」なのだ。
 もしも、滝川が訓練や仕事への指図を受け入れるのだったら、実は、これほど楽なことはない。OVERS@芝村舞は、最初からこの会話コマンドを持っているから、それこそ、口先だけで、滝川のパラメータ上昇を図ることができるはずだ。が、それが不可能であれば、身体を張るしかないと思って、続けて来た日々は無意味なものだったのか……? 滝川の前で、芝村的演説だけ繰り返していれば、それでよかったのだろうか? 思いっきり、気力の萎える展開である。
 そうして、3月21日の日曜日が始まる。




 朝、尚敬高校の前には来須が立っていた。往来のど真ん中である。近づくべきなのか、逃げ出すべきなのか、戸惑っていると、来須はそばにやってきた。そして、いきなり投げつけられる舞の手作り弁当――。
 喜んで受け取るべきなのだろうか……? もう、何がなんだかよくわからない。この動作は、来須の好意から来ていることは承知していても、状況が状況なだけに、勘ぐりたくもなる。が、あくまでもこれは好意であるはずだ、来須にとっては。たとえそれが、恋人からの差し入れを突っ返すような状況であっても――。と考えて、快諾して受け取ることにする。
 そうしているうちに、画面端にヨーコさんが現われた。が、その場から一歩も動かない。ずっとそこにいるのだ。画面からいなくなりもしないし、来須と二人でいるところへ近づいて来ることもない。時間は、刻一刻と過ぎて行ったが、この状況に変化はなかった。
 この間、何人ものクラスメートや先生たちが通りかかり、あるものは素通り、また、あるものはしばしの時間、立ち話をしかけていった。しかし、来須がヨーコさんと二人でいなくなるという現象は起こらない。



 不自然極まりない、この状況。ともかく、画面端から一歩も動かないでいるなんて、どう考えても変である。ここで、追認プレイをやることを決意した。ただし、リセットしないことを信条にしているから、現況はこのまま続行した上で別の場所にセーブ……である。
 ともかく、来須は、「お前は、しゃべらないとわからないのか」と言って来たり、遠い何かについて考えていたりするわけだが――常日ごろと同じだ――、こちらからはまったく離れようとはせず、べったりといっしょに居続ける。
 ヨーコさんの行動と同じように、これもやはりおかしい。こうして、同じ画面内でばったり出くわすことがあった場合、しばらく側にいた後は、自ずと離れて訓練に行ったり、仕事に行ったりするのが、過去のループで見知っている来須の行動だ。それとは、はっきりと異なる。
 そして出て来た、「……行くぞ」
 これは、来須式、一緒に歩こう提案である。では、ヨーコさんの目の前を通ってみるよ? それでもいいのか? 
 が、平気のようだ。状況の変化はない。では、誘いをかけたら、付き合うのだろうか?
「訓練をする。後で来い」
 返事は快諾である。結果、自動的に2時間が経過した。ヨーコさんはどこにいるのだろうかと考えて、テレパスで探ってみる。すると、校舎裏を歩いているようだった。ならば、移動したのだ、いつだかはわからないにせよ、この2時間の間には――。
 この先、どうしたらいいのか途方にくれてしまう――滝川はプレハブ校舎前にいるのだが。
 訓練が終了した直後には、周囲に誰もいなかったから、即座にHな雰囲気である。やけに、それがむなしく感じた。が、未央ちゃんがその場に来たことにより、普通の雰囲気に戻る。
 そこで、もう一度誘いをかけてみる。
「仕事だ。手伝え」
 やはり、快諾の返事が戻る。またしても、時は勝手に進み、仕事が終ると同時に表示された出撃命令――。
 3月21日の自動終了であった。





 そして、翌3月22日、ついに恐れていたことが現実になった。陰謀である。

 ――狩谷の陰謀により、滝川がスカウトに移動しました

 実は、「あの人と仲良くして」が、通らないのだ、狩谷には。
 この、無職の人間を嫌うというのは、たとえば、萌ちゃんにも元々その傾向があると思うが、彼女は、滝川と仲良くしてやってくれ……という提案を快諾してくれる。が、狩谷は駄目だった。時間帯を変え、話しかける状況を選んでも、提案成功率0%である。別に、こちらが狩谷と険悪な状態になっているというわけではない。にもかかわらず、仲良くしてという提案だけは、拒否され続けた。
 即刻、陳情に向かったが、 人事部長 準竜師は出張中だった。これではどうしようもない。さらに、翌日も不在だったので、若宮をスカウトに戻せるまでに、1回の戦闘が混じってしまった。今回のループで戦闘が始まるようになってから間もなく、来須の自殺を防ぐために、レールガンはストックしてあったが、その中に、今やブリザードが吹き荒れるような人間関係となっている、二人が乗り込んでいたことになる。
 若宮に恨みはまったくないが、滝川をスカウトにしておくわけにはいかないので、3日目にようやく、滝川を無職に戻すことができて、ほっとする。ちなみに、もう1人の無職の少年――茜については、初期のうちに2番機整備士に配属済み。




 それから、3月29日までの間、滝川とは訓練&仕事を毎日2回ずつ、計4回をいっしょにこなせれば御の字という状態が続く。なぜなら、すでに、教室へ1人で入れなくなっているし(これは、朝の登校時の場合には、誰かといっしょに入ることで可能だが、それ以後はどうしようもない)、教室内での画面切り替えも行えなくなっている。だから、昼休みになった瞬間に滝川が同じ画面に入って来ない場合、テレポートで外へ出て、滝川を待つしかない。
 3月29日までに滝川が取得したのは、誘導を1→2、開発1、医療0→2である。この、医療については、OVERS@芝村舞は、まったく持っていないわけだから、多分、萌ちゃんが、いっしょに仕事〜を持ちかけてくれたのではないかと、想像した。確証はないが、「滝川と仲良くしてやってくれ」を、常に快くOKしてくれていたから――。
 それにしても、戦車技能は、相変わらず取得しないままだ。いったい、なぜだ? どうしてこんなにも戦車技能が取れないのか? 今や、5121小隊の中で、戦車技能を持っていないのは、滝川、若宮、そして、ののちゃんの3人だけなのだ。




 そうして、3月30日の深夜――、いっしょに仕事を終えたときに、その場にブータがいた。差し出してくれたのは、「猫の首輪」である。ようやく手に入った首輪を滝川に渡してから技能表を見た。本日の成果も0だろうと想いながら――。


 が、そこにあったのは、天才1


 な、なにーっ!? 天才? 天才だって!? 多分、戦車技能よりも遥かに吸い取ることが難しいはずの、天才! パイロットに憧れて、でもコックピットに納まることができないという少年が取得したのは、なんと天才だった!!
 ブラヴォー、こんな展開ってあるのか? あっていいのだろうか? その場で踊り出したい心境になったのは、言うまでもない。
 即刻、テレパスで来須を探す。いた! 尚敬高校のロビーにいる。テレポートして、フェードアウトすると、いきなりHな雰囲気。その場には誰もいない。
「今度の休日だが、どこかに行くか?」
 この前のように、0%が出る確率は高いとは思った。
 あれ以来、再びほったらかしの生活が続いている。たとえ、来須といっしょに昼ご飯を食べたりしたとしても、結局のところ、戦車技能を取得するまでは滝川中心の生活になることは変わりがないと思ったから、あえて近づかないまま、すでに10日近く――。
 実は、数日前に、ヨーコさんから、「あなたの好きな人を聞かせてください」という、突然の質問も受けていた。こんな質問をされたことは、今までのループでは皆無である。ずいぶん悩んだ末に、ストレートに名前を選択したところ、表示されたメッセージは、「た、たわけっ。そんなもの、おるわけがなかろうっ」ではあったが――。
 だから、提案成功率100%が表示されたとき、ほんとに、ほんとに……、うれしかったのだ。




 翌3月31日早朝、滝川の部署変更を申請したとき、すべての職種が白色に反転していた。さすが、天才である。たとえ1であっても、天才は天才なのだ。この日から、滝川は望めばどんな職種にも就けることになったのだが、当然、2番機パイロットである。同時に、それまで2番機パイロットを務めていた、岩田を1番機整備士に移動させるよう、陳情した。
 滝川が、善行司令から辞令を受け取ったのは、4月1日。驚いたような表情の滝川に向かって、エイプリルフールではないよ……と、つい声をかけたくなってしまった。


 滝川のHEROへの道は、4月1日をもって、やっとスタートラインである――。
 長かった……。



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