いつか、君はHEROになる





 この頃、こちらのスケジュールは、ほぼルーティン化していた。
 午前中だけ授業に出て、昼休みになったとたんに2組へ移動し、滝川といっしょに昼食を取る。これは、こちらが誘わなくても、味のれんで二人っきりが常道。滝川は、「みんなでお昼」という提案がとても好きであるし、そうでありながらも、それが成立する可能性はとても低い。
 他のクラスメートは、たいてい弁当持参であるのに対して、滝川だけは絶対に持って来ないからだ(実は、だからこそ、ループを開始した当初の予定では、「舞の手作り弁当」が届く関係を予定していた。そうすれば、滝川が望む通りの、「みんなでいっしょにご飯を食べようよ」が成り立って、多分、初めて食堂でクラスメートと食事をする滝川を見られると思っていた。が、これは、こちらが、結局来須に陥落してしまったので、流れた)。
 昼食後は、ビシバシっといっしょに訓練&いっしょに仕事である。このカリキュラムの終了は夜半過ぎ。それから、自動情報収集セルの作成をして、帰宅が午前6時。
 3月19日の時点での滝川の取得技能は、次の通り。

 飛行1、情報2、誘導1、同調2、白兵1、狙撃2

 実家から届く金はすべて、裏マーケットでドーピングアイテムを買うことに使い(と言っても、金は常にうなるほどある)、それをまるごと滝川に渡してパラメータアップを図り、無職の人間が陰謀の犠牲にならないように、「あの人と仲良くして」と周囲に頼み込み、その上で6日間、毎日12時間ちょっとをいっしょに過ごして、得た技能が同調を1→2にしただけ……。涙が出て来るような結果である。
 これは、その後に起きた出来事と重なって、地面に穴を掘って叫びたくなるような状態だ。やる気あるのか〜〜〜〜っ、滝川〜〜〜っ。



*****



 ところで、ここに1人の男がいるとする。彼は、すぐ目の前にいる女の子に興味を持った。なぜかは知らないが、彼女は休日にいきなりやってきて、花束をくれたりする。どういうつもりなのか、わからない。わからないし、自分には別に気になる女性もいたのだが、わざわざプレゼントをもらったことでもあるので、彼女の真意を問いただすつもりで呼び出した。
「俺と来い」
 が、駄目ならそれまでだとも思ったので、「――駄目だったら、二度とおまえとはかかわらない」とも付け加えた。
 すると、相手はOKした。そうか、プレゼントをくれたりしたのはそういうことだったのかと納得して、わずか数時間後――。いきなり、別の男が文句を付けて来た。驚いたが、彼女を手放す気もなく、頭の中は怒りが渦巻いている。
 彼女に詰め寄れば、そのまま逃げ出してしまい、数時間近くの間、整備員詰め所から出て来ない。そうして、自分の気分が納まらないうちに、彼女の姿を再び目にする。と思ったら、相手はさらに別の男と鬼ごっこなんかを始めてしまった。とてもその場にいる気にはならなかったので、即刻帰宅――。
 翌朝、校門の前で彼女に会い、昨日文句を付けてきた男が側に近寄る前に、さっさと教室へ連れて行く事にする。
 昼休み、彼女は謝罪した。怒りは納まらないが、一応は了解した旨を伝えた途端、相手は、問題の男に話しかけて、さらに二人で消えた。何をやってるのかと思えば、夜半までいっしょに過ごしている。以後毎日、ずっとその繰り返し――。日曜日に至っては、デートもしているようだ(「奥様戦隊」からの報告もあったかもしれない。なんと、実は、それが若宮だったのだ。よりによって、来須の同僚にチェックを入れられるとは――)。その上、問題の男が周囲からつまはじきされないように、頼んで回っている。
 ここで、堪忍袋の緒が切れた――。



*****



 まあ……、こんな具合だったのだろう、と。自分でやっておきながら、あまりと言えばあまりな行動。これで理解してくれと言っても、理解を示す恋人が果たしてどれだけいるか?
 もちろん、滝川のことは好きなんだけど、それは来須に対する気持ちとは違ってて、エースパイロットに憧れながら、それでいて、決してそれにはなれない少年の夢をかなえたいって、だから――、それだけなんだってば……と言ったって、わかってくれるのか?という感じである。
 ともかく、19日の夜半、仕事を終えて、自動情報収拾セルの作成をしようとして、整備員詰め所に行くために、テレポートをせずに、ハンガーの右から左へと単純な画面移動を行ったのは、無意識のものだったし、実は、滝川とデートに出かけた後のこの6日間、来須の行動が、いったいどういうものだったのかは、ノーチェックだった(ループの目的からして仕方がない)。
 だから、その場で遭遇した出来事は、多分、万に一つの偶然だったのだと思う(移動は、ほぼテレポートに頼っているのが常だから)。




 そうして、切りかわった画面に流れるムード音楽――。それが、一瞬で消えて、普通状態になる。深夜に誰だ?と思う間もなく、「おのれー」という想いをぶつけて来たのは、ヨーコさん。それから、目を瞑る間もなく飛び込んで来る、来須の「おのれー」。




 何事もないような、夜のハンガーの中で、いったいどうしていいのかわからないぐらい、混乱してしまう。逃げ出すべきか? それとも、二人が楽しそうに会話してるところに割り込むべきか?
 何度もループは経験してるし、常に来須が恋人だったりする(そうだ、結局、いつもあの「1分で決めろ」に抗えない)が、来須が別の人間とHな雰囲気を作っているところに出くわしたことはない。
 ヨーコさんのことは好きであるし、いつも、優しいお姉さんである彼女は、「あなたが幸せになっていくのを、ずっと見ていたいデス」と言い続けてくれた。だから、この状態は初めてで、何をどうしたらいいのか、身動き一つもできない(ループの目的から、完全に逸脱した精神状態である)。




 が、こちらが動かずにいることをどう思ったのか、二人は話をやめて、来須はハンガーから出て行った。その後、ヨーコさんが近づいて来て一言。
「中村クンって、楽しい人デスね」
 あーのー、取ってつけたように、突然中村の話題って、いったい……。確か、中村とは自己紹介もしてないよ!?
 こちらが答える間もなく、ヨーコさんは仕事に入る。では、出て行った来須はどうしたのだろう?と考えて、追いかけた。
 話しかけていいのか悪いのか、迷ってしまうほど動揺が激しい。このまま帰宅するつもりだろうかと思って後ろから眺めると、来須は1組の教室へ向かった。一瞬、ここで迷いはした。
 すでに、カレンダーは20日になっていて、教室へ一人で入るべきではない時期になっていることになる。が、来須がどうするか?を追いかけたいという気持ちの方が強く、後から教室へ入った。
 何事も起こらなかったので、システムカレンダー上、今は19日の続きということになっているのだとわかる(今回、ブータがいつまでたっても2個目の首輪くれず、イヤリングばかりを寄越すために、いまだに「持って来て」を繰り返している。そのため、もうとっくに「四つ葉のクローバー」フラグを通過済み。つまり、3月20日を過ぎて、1人で教室へ入る、もしくは教室内で画面切り替えを行った場合、即座にヨーコさんとののちゃんの「かみさまのお話」イベントが発生することが確定している。これは、幻獣の同士撃ちイベントへのトリガーだから、滝川HERO化では避けておかないと、滝川が戦車技能を取ったころに、敵の数が少なくなってしまう)
 そして、教室には他に若宮がいた。二人は別に会話をするでもなく、ただ立っているので、思い切って来須に話しかけることにする。
 それは、謝罪して以来初めての会話だった。




 来須の感情値は、先程の「おのれー」の分だけ、マイナスに傾いていることがわかったが、それだけだ。一度話しかけただけで、それは簡単に修復されてしまう。が、やはり先程の情景が頭に残っているので、デートの誘いをかけてみた。
 これは、実は、禁じ手にしていたことだった。滝川が戦車技能を取るまで、日曜日も訓練や仕事に使うつもりだったから。
 滝川からデートの誘いを受けたとき、図書館だろうと推測したので了解したが、やはり、技能取得に充てるのがループの目的からして基本行動――のわりには、なんだか恋愛らぶらぶ物語路線まっしぐらの現状だったりするあたり、どうしようもない。どうしようもないが、相手が来須では、当初の目的もどこかへふっ飛んでしまう。初めて、浮気(と言うのか?)現場に出くわしたせいで、禁じ手もなにもどうでもいい気になっていた。

「今度の休日だが、どこかに行くか?」

 提案成功率100%以外は存在しないかのような、見慣れたメッセージ。0%を見たことも当然あるが、それはデートの追確認をしたときだけだ。そのときの返事は、「約束は一度でいい」と決まっている。
 が、このとき、画面上に出たのは、0%だった。
 眺めて、さーっと血の気が引く。
 こちらは一切約束をしていない。その状態で0%が表示されたことは、今までには皆無である。


「……他の日にしてくれ」


 来須が先約を入れている状態で、ブッキングをかけると、こういうメッセージが出る……ということを、今回初めて知った。同時に下がるパラメータ。友情値−12、愛情値−16である。すさまじい減点ぶりだ。「恋人面はやめてもらおう」に匹敵する(というか、それ以上レベル。「別れてくれ」は、友情値、愛情値ともに、−12)。



 なんだかもう呆然としてしまって、自動情報収拾セル作成どころではなく、帰宅してしまうことにする(ここで、「別れてくれ」というコマンドを持っていたら、試したかもしれない。が、これを持っていない)。


 そして――、日曜日の朝が来た。




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