「血の日曜日事件」A



日曜日朝7時、けたたましい目覚まし時計を叩きつけることから運命の一日が始まる。
 
昨晩のことを思い起こし布団にくるまったままタオルで押さえつけた場所を触ってみる、
どうやら出血は止まっていたようでタオルに吸い込まれた乾いた血特有のごわごわした感触が手についた、
 
一階の居間では両親達が動きだしている気配がしている、
タオルをケツに貼り付けたまま歩き回るわけにもいかないだろう、それを小さな傷当てに替えるべく、貼りつけたままのタオルを取り替えることにした。
 
ごわごわしたタオルをゆっくりと尻からはずしていく、幾重にも重ねて貼り付けたテーピングをはがすとき肌に少しの痛みが走る、それを見ると白かったはずのタオルがどす黒い赤に染まっていた。
乾いた血のおかげでタオルは板のように硬くなっている、
指ではじいてみるとカッカッと乾いた音がした。
 
あとは何もなかったように傷口に目立たないカーゼでも当てて今日一日を乗り切ればいいだけ、布団から抜け出し傷あての用意を始めた。
 
朝、8時。両親と管理人の三人で食卓を囲んでの朝食をとっている。
ベランダから外を見ると、祝いの日を歓迎してかずいぶん天気がよさそうだ。
出発は午前10時、弟の家までは車で2時間の道のりだ、当然運転手は管理人である。両親はこれから生まれてくる初孫のことやら自分達の時の思い出話などに花を咲かせている。はたから見ればかなり幸せそうな絵に見えるだろう。
しかし、最高に不幸せな奴が一人・・・、そう管理人である。
 
実は傷口のタオルを取り替えようとしたときに、再出血・・・
固まって傷口に蓋をしていたタオルをはがしてしまったようだ、応急処置でティッシュや何やらを傷口にあてがい何とかしのいでいた。両親の会話など耳には入らない、「血が止まるのか」ということが最大の関心事。両親の会話に引きつった笑顔で反応しながらも、頭の中は上の空だ、手早く食事を取り終えるとすぐに席を立つ、
 
「!!!、ぬぅぉぉぉぉ・・ぅぅ」、
 
作り笑顔が引きつる、
見たことも無い模様に目がくぎ付けになった、
座っていた木製のダイニングチェア−にくっきりとケツ型が残っている、もちろん血判である。
とんでもなく動揺しながら食べこぼしをふき取るふりをしてティッシュで素早くケツ判をふき取る。
 
「お、おいおい・・・、どうなってるんじゃい・・・」
 
ケツに手を当ててみると、服の上からでも血が滲んできている感触が確認できた。
「正直に言うべきだろうか、ケツから血が出て行けません・・・と」
 
自室に戻り頭を抱える、何度か実験した結果、いくら傷口を押さえても10分もすればテーピングの端から血が横漏れしてくることが判明、もはやじっと座っていることもままならなくなっていた。
 
「急な腹痛で・・・」
「大事な用事を思い出した!!」、
 
いろいろドタキャンするための理由を考える、
しかし、どれも説得力に欠ける。なにしろさっきまで元気に朝飯を食っていたのである、愛想よく「楽しみだね」などという発言までしていた。
 
「正直に言ったとしても、出血の理由を聞かれたらどうする?」
 
一人シュミレーションは続く、まさか自分で切りました、しかもハサミで・・・とは言えまい、
普通に考えれば男がケツから出血するとなると・・・「痔」だけだろう。
いくらなんでも「痔」と勘違いされるのは不本意だ、基本的に快便体質である、これだけの出血量で「痔」と勘違いされれば即病院へ連行される可能性がある。やはり知られるべきではない。
 
仮に不参加としても会場では弟夫婦両方の親族が集まることになっている、弟に先を越され結婚圧力が強くなっている兄がドタキャンはどうだ?、
「ケツから血が出て行けません」となると一生会うたびにネタにされる恐れがある、これも避けたい。
 
一番気になっていたのは、無理に出席して出血しているのがばれた時だ、
もうすぐ出産という女性に「いゃ〜ケツからの出血がひどくて大変なんだよ」と言うことはアリなのだろうか?、少なくとも安産を祈念する席にふさわしい話しのネタとは思えない。
下手をすると人間としての品格まで疑われかねない、むしろ「痔」だと言い張った方が良さそうな気すらする。
 
「こんなくだらないことで悩んでいる奴もそうはいないだろう・・・」
本気で悩みながらもネタとしてはおもしろいなと考えてしまうところが管理人の悪い癖だ、飲み屋話が1つ増えたとちょっとよろこんでしまう。
 

そんなことを考えている間にも、刻一刻と時間は流れている、何度かガーゼを取り替えたあと傷口を見ると幾分出血の勢いが弱まっているかのように見えた。
「よしっ!!」っと気合をいれる。くだらないことで悩むのはやめにしよう。
要は出血していることが一日ばれなければ良いだけの話だろう。
気持ちを切り替え「横漏れ対策」に専念することにした。
 
 
 
しかし、男は悲しい生き物・・・
 
 
「横漏れ対策」、思い付く物は一つしかない、
そう女性の生理用品である。
 
あれを傷口にあてがってその上からテーピングなりで抑えれば
 
「吸収力抜群、しかも爽やか快適」、
この出血量だ超薄型では心もとない、やはり多い日も安心か!
 
あぁ、バカです笑ってください、でも本気で考えるほど事態は切迫していたのだよ。
 
「しかし、どうやって調達する?」
 
第1案「恥をしのんで女友達に泣きつく」
 
「たのむから何も聞かずにナプキンを届けてくれないか!、しかも30分以内に!」
 
無理だ・・・、絶対変態だと思われる・・・、
長年かけて培った管理人の良い人キャラがたちまち「まさかあの人に限ってそんなこと!」
と生真面目なお父さんが痴漢で捕ったぐらいの衝撃を持って友人達に広まるのは間違いない。
「ま、まさか使用済みじゃないよね?」、なんて言われた日には「切腹します」と涙ながらに遺書を書くことになるだろう。残念ながらこの案は却下する。
 
第2案「自分で調達」
 
この案が一番現実的だ、朝一でコンビニに掛け込み生理用品を調達するだけなら百歩譲ってまだ許せる。しかし、その男は明らかに急いだ様子でなぜかケツを押さえた変な歩き方、出血多量の青白い表情でレジに生理用品を差し出す・・・、
怪しい、怪しすぎる、挙動不審者としてそのまま警察に通報されるかもしれない。この案も却下だろう。
 
やっぱりダメだ生理用品の道は閉ざされた・・・、絶望感が管理人の心を包む。
「何としても他の方法を探らないと」改めて部屋の中を見まわした。