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数年前、二箇所同時に「イボ」のような物ができた。
皮膚の一部が米粒くらいの大きさでひょいと飛び出している。
最初は全く目立たない、つまんでしまえば取れそうなぐらいだ、
「まあ、これぐらいの大きさなら・・・」
特に気にすることもせずに放置しておいた。
いつからだろう、それが気になりだしたのは。
既にそれが出来てから1年以上は経過していた。
実感としては「イボ」というより皮膚の一部が新芽のように成長しているような感覚、
一つの大きさが5ミリぐらいにはなっていたと思う。
一つ目のそれは首筋に出来ていた。
仕事中などワイシャツを着ているときはいいが、夏場など薄着になるとどうしても
露出することになる。既に気になる大きさになっていたので意を決して病院に行くことにした。
「ああ、これはあれだね!」(詳しい名前は忘れた)、
恐る恐る首筋を見せると一目で初老の医師は診断を下したようだ。
皮膚科にとっては非常によくある症状、皮膚の一部が繊維化して少しずつ大きくなるらしい。
ほうっておくと昔話の「こぶとりじいさん」のようになる場合もあるらしいが基本的には良性
なので心配しなくていいとのことだった。
早速、取ってしまおうという事になり看護婦の皆がテキパキと電気メスや麻酔を用意する。
病院特有の消毒臭の充満する簡素な処置室に移り局所麻酔、味気のない診察台に横たわり電気メスで焼き切る。
ほんの数分の出来事だった。
「ほかに出来ているところはない?」
一つ目を取り終えたところで先生が問いかけてくる。
あとから考えれば、ここで「YES」と答えるべきだった・・・
最初に書いたとおり「イボ」が出来たのは二箇所、1箇所は首筋、
もう1箇所は「ケツ」である。
「い、いえ・・・ここだけです・・・」
思わずその言葉が口をつく、数人の看護婦が取り囲む中で「尻」をさらけ出す勇気は無かった。
「まあ、良性だと分かっただけでもいいだろう。もう1箇所は大きくなったらまた取ればいいだけの話だし」そう自分を慰めて病院を後にする。
「こんなに簡単に取れるのなら、自力で取ることも可能なのではないだろうか?、不細工な尻をさらさないで済むし・・・」
帰り際にそんなことを思い浮かべていた、
一つ目の「イボ」のような物を病院で取ってから1年以上経つ間に、
問題の2つ目は少しづつ大きくなっていた。
最初は米粒大だった大きさが既に枝豆ぐらいの大きさに育っている、
しかし皮膚との接点は相変わらずいつ切れてもおかしくないぐらいの
細く伸びた皮膚でつながっている。
「ケツからさくらんぼ」が生えている、
ぐらいがちょうどイメージしやすいかもしれない、茎はもっともっと短かかったが・・・
なまじ見えにくい場所だけに普段の生活では全く気にならない、
しかし確実にその存在は「そろそろやばい!!」物へと変化していた。
病院へ行こうかとも考える、前回の時を思い出してみれば数分で取れるだろうということは容易に想像できた、ただ・・・ケツをさらさねばならない・・・ということが、病院へ足を向けるのをためらわせていた。
「いっそのこと自分で切り取ってしまおう!!」
何度も考える、よくそれを見てみると皮膚との接点は竹串ぐらいの太さしかない。
それぐらいの面積を切っても通常の切り傷とそう変りはないだろう、
「前回も電気メスですぐに取れたんだから今回だって・・・」、
幸いその時に貰った薬も全て手元にある!
いつしか「自力で切る」ことが確信に変っていた、問題はいつ決行するかだ。
その決断は思ったよりも早くやってきた。
特に理由は無いが、「しゃあない、やるか」ぐらいの感覚。
痛んでも問題がなさそうな土曜日を決行日とする。
当日は入念に風呂で体を洗った後、決行準備にとりかかる。
机の上によく切れそうなハサミ・消毒液・ガーゼを並べた、
1回目を病院で切ったときに貰った化膿止や痛み止の用意も怠り無い。
ハサミに大量の消毒液をつけてから気分を落ちつける為にタバコに火をつけた、
翌日、この日を決行日に選んだことを心の底から後悔する事になるのだが・・・、
重要な用事が控えていることなど完全に忘れていた。
準備を終えた後も、「いざ決行!!」とはなかなかならない。
タバコを一本吸い終えても簡単に落ちつきを取り戻すことは出来なかった。
目の前にはハサミとガーゼと薬品がきちんと並べてある。
「悩んでいてもしかたがないな・・・」
大きく一息つき少しだけ目を閉じる。
さあ自己切除に取りかかろう。
まず場所を確認、パンツを膝まで下げて体を右に大きくひねる。
場所が「尻」なだけにすんなりとは見えにくい、
上半身を90度右に回して下を覗きこみやっと見える程度だ、
きつい体勢のまま「イボ」を右手でつまみつつ左手にハサミを構えそれに当ててみる、
が・・・左手が届かない・・・、
考えてみれば相当無理な姿勢、悩んだあげく右手の人差し指と中指で「イボ」をつまみつつ親指と薬指にかけたハサミでそれを切り取るというまるで職人芸のような方法を取ることにした。
しかし、土曜の深夜に一人自室でハサミを持ちつつパンツを下ろし体をくねらせている・・・、何も知らない人が見れば明らかに変態と思われてもしかたがない・・・、知られるわけにもいかないけれど・・
「よし、体勢は決まった!。あとは思いきって切るだけ!!」
ハサミをイボに当てる、無理な体勢の為に指先がプルプルと震える、
この震えは無理な体勢だけが原因ではないだろう、一番の緊張が走る。
「さあ、思いきって切ってしまえ!!」、(心の中での掛け声)
が・・・、ハサミを握り込むことが出来ない、
一瞬のことだと思いつつ指が動かない。
「極妻」のワンシーンを思いだす、
「指を詰めるときもこんな心境なんだろうか・・・」
一人ケツをさらけ出し体をひねりながらそんなことを考えた、
全く比べ物にならないがまさにそんな心境、あまりの馬鹿さかげんに
自分でも笑ってしまう。
思いきってハサミを握りこむ、一瞬右手に力を込めて手のひらを握る、
指先に予想外の抵抗を受けると同時に、「ケツ」にピリッとした痛みが、
「切れたのか!!」
ひねった体勢のまま問題の「イボ」を覗き込む、
しかし、そこには薄皮一枚しか切れておらずうっすらと血が滲み出した「イボ」が
いまだにしっかりと張りついている。
「なんでやねん!!」
「イボ」の予想外の抵抗に衝撃を隠せない、わずか数oの皮膚さえ一気に切り込めない
自分のチキン振りに愕然とする。
数度目のトライ・・・、が表面に滲み出している血のおかげでハサミの切れが悪いのか
相変わらず薄皮を少しずつ削っているだけの一進一退だった。
「ここで止めるわけにはいかねぇ・・・」
何度やってもうまく行かない、つまりやり方が悪いのだろう。
一瞬で切り落とすことがうまく行かないのならば・・・
そう、ゆっくりと確実に切り落とせばいい・・・
滲み出している血をティッシュでしっかりとふき取り、「イボ」の根元を確認してハサミを当てる、
それを握る右手に少しずつ力を込めた。
ハサミを通した右手が確実に「肉」を捕らえている感触を伝えてくる、
噴き出す汗を抑えながら、ゆっくりとその手を握り込んだ。
その瞬間はついにやってきた。
数年来、悩まされ続けてきた「イボ」はついに「ポトリ」と音を立てて床に落ちた。
それは「ハサミで切る」という実に単純な作業によって管理人の「ケツ」から離れ落ち、
感覚を無くした肉の塊として足元に転がっている。
まるで太い輪ゴムをゆっくり切った時のような抵抗感のある切り味。
けっしてスパッと切れたわけではない、ザクっ・・・という感触の方が適切だろう、
痛みは思ったよりも一瞬だった。
足元に落ちた肉の塊を拾ってみる。
ついさっきまで体の一部だったものが、何も感じることの無いただの塊として目の前にあることが不思議に思えた。つまんでみると中に残っていた血が滲み出す。
「ああ、やっと取れたんだ〜」体中に安堵の喜びが広がる、
後は傷口処理して一段落、全てが終わるものと信じていた。
切り傷から血が流れるのが感じられる、切ったのだから当たり前、
楽観しながらその場所に目をやる。
「!!!、のうぉぉぉぉぉぉ〜!!!!」
信じがたい光景、傷口から真っ赤な血が一筋の糸を引くように噴き出している!!
まるで注射バリから噴出すように「ピュ−っと!!」
あわててガーゼを強く押し当て止血を計る、
が、数分もしないうちにガーゼは絞れるほどの血をすい込んで
使い物ならなくなった。
「マジかい・・・」多少の血は出てもすぐに止まるだろうとたかをくくっていたのが大間違い、
用意していたガーゼはすぐに底をつきタオルを当ててしのぐことになった。
何度も血止めを替え、やっと出血も収まり始めたようだ、傷口に当てたタオルの上からスポーツ用のテーピングで押さえつけ血が固まるのを待つ、
部屋中を見渡せば、血だらけのガーゼやらティッシュやらが散乱している。
凄惨とも言える状況の中でも「出血した分、少しは痩せたかも・・」
相変わらず馬鹿なことを考えてしまうのもダイエッタ−の悲しい性か・・・、
「このまま血が止まらなかったら大変だな、血管でも切ったのかな」
一応の血止めが完了し、少し落ちつきを取り戻して両手についた血をぬぐう。
「血が止まらなかったら・・・」
ようやく翌日の予定を思い出した。
翌日は弟夫婦の家に遊びに行くことになっていた。
弟の嫁は妊娠10ヶ月を過ぎ予定日まで数週間を切っている。
たまたま御両家がバッティングして遊びに行くことになり、
せっかくだから安産祈願で皆で食事でもという内容だ。
両家ともに初孫ということもあり、彼らの浮かれようは半端ではない、
そんな中、兄としてはぜひスマートに振舞いたいところだ。
しかし、「安産祈願」である。
「ケツから出血したので行けません」
とは言えない・・・、
日付は既に日曜日になっていた。
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