忘れられない言葉




世の中にはどうしても太れない人がいるらしい。
職場の同僚達がまさに「太れない人」が多く、よくお昼時にはそんな話になる。

「昔から、食べるとすぐおなか壊して全然太れないんだよ」
「胃下垂でね、これが治らないのさ」
「うらやましいのお〜、胃腸だけはめちゃめちゃ元気だ!」(管理人)

普通であればたわいもない会話、気にするまでもない。

ただ、そんな会話がでると決まって、
昔、上司に「食べて太れるのは胃腸がしっかりしている証拠、うらやましいよ」
と言われたことを、複雑な感情で思い出す。

太っているからうらやましいと言われても、「うるせえよ!」と言いたくなる。
当時もそんなことを考えていたと思う。

その本人は、館ひろしを長身にした感じで、中身はお笑い芸人のよう。
見た目のスマートさとは裏腹に少しがに股で歩き、一緒にお酒をのむとすぐおなかを壊す。
仕事の終わりには、いつも「痔の調子が〜」と周囲の笑いをとり、家族の待つ自宅へ電話をかける。
「いまから帰るぞ〜、風呂はぬるめで」とにこにこ目を細めながら、電話越しでいつもの会話。

当時新入社員だった管理人の初めての上司ということもあり、今でも強烈に覚えている。
仕事も出来て、家族思い、その上格好いいとあこがれの存在だった。

しばらくして管理人は転職し、上司は昇進とともに転勤。
一時連絡が途絶えたが、当時の同僚から元上司のいい噂を聞くたびに、自分のことのように嬉しく思い、また、「○○(管理人)は元気か?」と、気をかけてくれているという話を聞くたびに、将来はあんな上司になりたいと目標にしていた。

数年後のある日、その上司が亡くなったとの、連絡が当時の同僚から届いた。

まだ40代、大腸ガンだったとのこと。

いつもにこにこ冗談を飛ばしていた笑顔した思い出せない、しばらく状況が理解できない。

「そんな・・・」

思いが言葉にならない、携帯を切ってから、ようやく涙が溢れた。



一緒にお酒を飲むたびに、「食べて太れるのは胃腸がしっかりしている証拠、うらやましいよ」
と繰り返し言っていたことを、思い出す。

もしかすると体調に思うところがあり、あふれ出た言葉だったのだろうか。

「30歳までには痩せますよ!」

いつも浴びている周囲の雑音と同じに感じて、20代の管理人が取り繕うように言った約束。
その言葉を、どのような気持ちで聞いていたんだろう。

時間が経ったいまでも時々思い出す。答えなんか出ないんだけどね。