§ asagi box §

ああ、どうしよう。ハードディスクがこわれてしまった。

いちおう説明すると、マイ機械には二台のハードディスクが搭載されており、大まかにいうと一方にはシステム関係、もう一方にはデータ関係のファイルが保持されていて、今回そのデータ関係の方が「ぐげっ、ぐげげごげげっ、げっ、げげっ……がすっ! ……げごっ」などと怪音を発するようになったかと思うと、あっという間にいうことを聞かなくなってしまったのであった。

もうじき子供も産まれようというのに、お金が一円でも惜しいこのときに、なんてことだ、ハードディスクがお亡くなりになられてしまったのである。その4GBのフトコロに(購入時期が推測できるなあ)、私が書きためながらも ftpでアップするのを面倒くさがって放置していた、十本ほどの雑文を抱いたままに。もちろん、ほかにも雑文なんかよりはるかに重要なデータを色々とみちづれにしてくださりやがったのだけど。

しかしこの雑文というものを失って、たかが ftp転送を面倒くさがっていた、おのれの怠惰をいたく後悔したのであるが、なにが困るといえば、どの雑文も、もう一度同じものを書き直す気になるほどたいしたものではない、という中途半端さである。雑文一本をしあげるのに、私の場合、平均して三時間ていどをついやしており、未練がないことはないものの、その内容を思い起こせば、鼻をかんで捨ててしまいたいような、箸の棒にもかからぬ駄文ばかりであり(自分で気に入ったのが書けていたらさっさと公開しているのだ)、そのあたりが却って悔やんでも悔やみきれないのである。のべ三〇時間もかけてなにをやっていたのだ私は。

結局、ごらんのようにその反省はほとんど生かされていなかったりする。後悔役に立たず。

さて、ハードディスクのクラッシュといえば、かならず話題にされるのがバックアップの重要性である。ころばぬさきの杖である。地面に隠れたでっぱりがあってもアイテムをぶちまけないですむという、画期的アイテムである。ちがう。正しいが、ちがう。

私はバックアップをとらない人である。バックアップをとろうにもその用途にもちいる媒体を所有していないのである。4GBのバックアップをフロッピにとろうなどと無謀な考えははじめから放棄している。一部の重要なデータは、横着して、プロバイダのサーバにパーミッション600のディレクトリを用意し、そこにぶち込んであったりするが、容量制限もきびしく、おおよそ実用的とはいえない。システムクラッシュ時にかろうじて edが立ち上がってくれるようなものに過ぎない。まてまて、それはけっこう重要だ。

ともかく、どうにもあきらめきれないデータのサルベージを敢行したのであるが、これがじつに困難をきわめた。なにしろ Windowsから、今回危篤状態におちいったハードディスクにアクセスしにいくと、しばらくは一心不乱にデータを読み出そうとするのだが、ついには精根つき果てたのか、不意に画面が乱れてにっちもさっちもいかなくなるのだ。まるで遭難者を探索に行って、力つきて自分が遭難したようなものである。ええい、根性なしめ。

こうなるとどうしようもないので、わらにもすがる思いで、なかばヤケクソで、生きている方のハードディスクに入っていた Linuxを起動し、こちらからの復旧を試みたのである。ほとんど期待はしていなかったのだが、なんとこれが功を奏した。世紀末とはいっても、ジタバタしてみるものだな、ヤっくん。

この Linuxというやつは、Windowsなどとはくらべものにならぬほど根性の座ったやつであった。正確にいえば、単に非常時における Windowsがあまりに虚弱なのだが、それはさておく。ものはためしと Linuxから件のハードディスクをマウントし、そちらに移動して lsなどと打ってみると、相変わらず怪音を鳴り響かせ、非常識なほどに時間をかけながらもどうにか結果を返してきたのである。

みたところ、デバイスアクセス時のリトライ回数に制限がないか、あるいは数度のリトライのうちに多少なりとも成果が上がればリトライ回数をリセットしているらしい。ようするに、あきらめが悪いのだこいつは。鬼のように不動の信念をもって、システムコールを叩き続けるのである。タイムアウト処理にバグがあるだけかも知れない。

復旧作業はさながら臓器移植手術であった。なにしろ、一刻一秒をあらそうのである。厳密にはかかる時間の問題ではないが、とにかく気ばかりがあせる。危篤のハードディスクは(例が悪かった。危篤の患者から臓器を摘出してはいけない)、いついかなる瞬間に完全にその生命活動を停止してしまうかも分からないのだ。そのうえ作業は手探りである。ls一発だって無駄にはできない。むやみに cdすら打てないのだ。ああ、こんなときだってのに slとかお約束打っちゃうし。影響ないからいいんだけど。

作業中、日本語を使用したフォルダやファイル名が障害となったが、どうにか必要最低限のファイルを退避させることには成功した。面倒だったので日本語フォルダ、日本語ファイルはそのまま破棄した。一部に致命的な損傷があったらしく、ジタバタしようが泣き叫ぼうが、雑文は冒頭でのべたとおり救出できなかった。ゲーム関係のセーブデータも消えた。イカガワシイ画像ファイルも全滅だった……などと、失意のあまりうっかり配偶者の人にこぼしてしまい、大変後悔することとなった。やはり、バックアップを軽視してはいけない。

[2000.09.14]
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