どぉん、ときた。なんの前触れもなく。
仙台というところはけっこう地震が多くて、まあよそでどれくらい地震があるのかはしらないんだけど、最低でも二ヶ月に一回はぐらり、とくる。たいていはびびびびび……というカンジの前触れがあるうえに震度もせいぜい1とか2なので、阪神大震災をご経験の方々の神経をさかなでしそうな気もするが、こちらとしても揺れを楽しむ余裕がある。ええと、念のため申し添えておきますと、仙台も宮城県沖地震によっていちど壊滅的打撃をこうむっておりますので。おまけに数年前にはでかいカメが暴れてくれたおかげでこれまた壊滅的打撃をこうむっております。
すこし話はずれるがその大ガメが暴れたときのこと。
さいきんは話題も下火になっているのだが、わが仙台市はおとなりの名取市との合併をめぐってひと騒ぎあった。いまも、たぶんひそかに継続中だと思う。仙台市が合併を希望して、名取市が拒否するという構図だ。大ガメが暴れたのはまさにその話題で盛り上がっている時期の真っ只中であった。
大ガメが暴れたせいで仙台駅前は特にひどいことになり、怪我人も多数でて、とうぜん救護テントなどが設置される運びとなった。だがそのようすを見ていたわれわれは、混乱の中にあってなおそのテントに書かれた文字を見逃さなかった。ああ、なんということだ。
「名取市」
ぐはあ。やってくれるぜ名取市。これは、あれか。吸収されるくらいならこのどさくさに吸収してやろうという心意気か。それもまたよし。男ならそうでなくてはいかん。それにつけてもフガイないのは仙台市救護班である。まさか救護班がまっさきに大ガメに踏み潰されたわけではなかろうな。いずれにせよ仙台駅前を占領されては仙台市は白旗を揚げざるを得ぬ。この調子では名取市仙台区になるのもそう遠い日でもあるまい。見事なり名取市。
こんなローカルなネタがどこまで通用するのかはさておき。地震の話なのだ。うっかり忘れそうになったが、その地震はめずらしく前置きも挨拶もなくイキナリどぉん、ときたのだ。コンビニで立ち読みなどしていた私は思わず手にしていたジャンプを取り落としそうになった。まるで地面の下からいっぱつぶん殴られたような衝撃であった。棚の商品が床にちらばる。これにはさすがにびっくりして、つぎの衝撃に身構えたりもしたのだが、揺れは結局それっきりだった。しばし呆然としていると妙に陽気でまぬけた声が店内にひびいた。
「震度3でしたー。最高は鳴子の4でーす」
おお、気がきくじゃないか店員のにいちゃん。なるほど、いまほどの揺れでも3なのだなあ。ちょっと採点が厳しいような気もするけどなあ。おまけで4とかにならんかなあ。なるか。……などと、このとき私はほんとうにいろいろなことを考えていたのだが、たとえば家の食器は大丈夫かとか、パソコンは壊れてないだろうかとか、本棚から本がぶちまけられていたらやだなとかなんとか、まあいろいろ。
しかしなによりも気がかりだったのは、コンビニから目と鼻の先にあるその店の惨状であった。店の名は「平禄寿司」。私もごくまれに利用する回転寿司である。
そのとき客のひとり大河原さん(仮名)は目前にせまる大好物のハマチのにぎりに狙いを定め、手を伸ばすタイミングを見計らっていた。あとすこし、あとすこし。上流にいる客が手を伸ばすたびに大河原さん(仮名)の神経をすり減らす。ああ、危ない。あっあっあっ……セーフ。たび重なる危機を乗り越え、ハマチのにぎりはいままさに大河原さん(仮名)のもとに届かんとしている。やがて大河原さん(仮名)のなかで無限とも思える時間が経過し、ついにハマチのにぎりは最終難関である隣の客の中心線を通過した。よしっいまだっ。
どぉん!
そこに先の地震である。なんと言う運命のいたずら。ハマチのにぎりは大河原さん(仮名)の手をすり抜けるように宙に舞った。ああっ。その光景を大河原さん(仮名)はスローモーションのようにとらえていた。ゆるやかに弧を描きつつ皿とともに舞い上がるハマチのにぎり。むなしく空をつまむ指先。ハマチのにぎりの一方は皿の引力から抜け出せず落下。しかしもう一方は高く、高く。やがて放物線の頂点に達したところでシャリから分離したハマチは、なおも滞空記録を伸ばさんとするかのように自由を求め軽やかに踊る。ああ、ああ、ああ。大河原さん(仮名)の心の叫びは彼女には届かない……。
そんな大河原さん(仮名)の心境をついうっかり察してしまったがために、もうおかしくってしかたがなくなってしまい、そのとき私は笑いをこらえるのにたいへんな苦労を強いられたのであった。でもほんとうに、どんなようすだったか見にいってもよかったかなと、いまになってすこし後悔している。