§ asagi box §

世間さま同様、私も元旦には帰省した。

実家までは車ならせいぜい十五分くらいなので、帰省といってもこれっぽっちも改まったものでもないのだが、それでも正月というイベントでもなければめったに顔を出さない親不孝ものの私だ。

もっとも、こちらとしては親不孝というよりはむしろせっかく家を出ていったばか息子がひんぱんに実家に顔を出しても迷惑なんじゃないかな、と気を使っているつもりだったりする。そのへん両親はどう考えているのか分からないからよけい顔を出しにくい。たまには顔を見せなさい、とでもいってくれればいいのだが、そういわないということはやはりどうでもいいのか。幸い、二度とくるなといわれたこともない。それにいけば決まって酒だのビール券だの調味料だのといろいろ恵んでくれる。疎まれているわけでもなさそうだ。親子という関係は血縁だけで説明できてしまううえに事実上消去不能だから、なみの人間関係のようにせっぱ詰まっていないせいでどうにも意志の疎通という点でおざなりになってしまうのかもしれない。そんなわけで、私は両親がなにを考えているのかよく分からないことが多々あるのだ。とまれ、よく分からなくてもせめて正月くらいは顔を出すのが礼儀というもの。菓子折りもってごあいさつである。

そうそう、この「菓子折りもって」のあたりを友人に話したら変な目で見られたのだが、世間さまはふつうはそういうことはしないのだろうか。もしかして手ぶらでいってもいいのか。いやしかし夕飯をごちそうになるのがわかっていて手ぶらというのもムニャムニャ。祖父母をたづねるときはもっていくもんだよな。こういうことって誰も教えてくれないからいつも困っちゃうのだ。これ読んで「おまえはまちがっている」と思ったひとはこっそり私に教えてください。

で。

実家についたときは夕飯まですこし時間があって、もっていった菓子折りをお茶請けにと母上がコーヒー入れてくれるというのでありがたく頂戴することにしたのである。ところがなんかいつまでたってもコーヒーメーカーのお湯が沸かないのだ。電源はちゃんと入っている。ランプも点いているからカクジツに通電している。

「あら変ねえ。いつもならすぐにシューって沸くのに」
「壊れているのではありませんか。前に使ったのはいつです」
「毎日使ってるし、昨日も動いたんだけど」
「それは確かにおかしいですね」
「あっこれってもしかして」
「なんでしょう」
「二〇〇〇年問題ってやつじゃないの。ねえ」
「はあ……」

すみません母上。あのときはとっさにそれが冗談であることが分かりませんでした。

だって真顔でいうんだもん。

付記:「おまえも真顔で冗談いうからときどき分からんぞ」と先の友人に指摘されるというオチがついたり。血筋か。

[2000.01.05]
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