§ asagi box §

私は基本的にノンポリ無宗教のひとであるが、家に勧誘に来た宗教のひとを追っ払うときにはハニワ教の信者になったりもする。ハニワ教がどんな宗教かはしらない。いや、しらなかったというのがただしい。あるとき私はハニワ教の全貌を垣間見る機会にめぐまれたのである。

それはすこしまえの話。ひとりのおばさまがなにやら小冊子を手にわが家のチャイムを鳴らした。

その不自然ににこやかな顔を見た瞬間、ああ宗教のひとか、とわかったので、いつものようにうちはハニワ教ですからと断ってドアを閉めようとしたら、なぜかおばさまはひどくショックを受けたようで、どうにも宗教のひととは思えない強引さで引き止めるものだからとまどってしまった。いつもだとハニワ教の名前を出しただけで新聞勧誘員に「うち赤旗(あるいは聖教)とってますから」というがごとくことが済むのだが、このおばさまはじつに真剣なマナザシで、いうに事欠いて「そんなアヤシゲな宗教を信じちゃいけないわ」などとのたまったのである。思わず「おまえがいうなよ」とチョップ入れてつっこみそうになったんだけど、ああこのひとはハニワ教なんて子どもでもわかりそうなあからさまなデタラメを信じてくれたのだとそう気づいてちょっと嬉しくなりお話につきあうことにした。

しかしながらはじめはおとなしくおばさまの必死の説得を聞き入れるフリをしていたのだが、なんだかいつまでたっても終わりそうもないので閉口してしまった。こちらもハニワ教なんて得体のしれないものを本気で信じているわけがないのだが、かといってたったいままでハニワ教の存在すらしらなかったやつ(そりゃそうだ)に好き勝手にけなされるのもあまり愉快な気分ではなく、そもそもあんたもひとのことに口だすまえにすこしは自分を省みてはどうかということばを飲み込むのに苦労しつつ、しかしやっぱりだんだん腹が立ってきて、しまいにとうとう「ハニワさまをブジョクするんですかっ」と爆発してしまった。それにしても何者だハニワさま。

あとはほとんど売りことばに買いことばで白熱した議論を交わすうちにハニワ教の設定がどんどん固まっていったのである。教義の芯となるハニワさまのおことばなどほとんど即興漫才のノリで生みだされたのだが、いま覚えているものに限っても基本方針が「堂々と力強く後ろ向き」であったのはやはり私の性格を反映している。

ともあれ、おかげでハニワ教が仏教の源流になっていることがわかり、また平成大不況もハニワさまの予言にあることなどがつぎつぎに判明した。ハニワ四天王なんてものまで登場するにいたってはどう収拾をつけたものかと悩みもしたが、こっちもノリにノっているので弁舌には力がこもる。さらにはハニワさまは猿と区別がつかない頃の人類に知恵をお与えになったかたであるというからオドロキだ。オドロキもなにも私の口からでたことばだがな。でもやるなあハニワさま。モノリスの代わりにつっ立ってるすがたを想像しちゃったぞ。

そうこうしてすっかり感銘を受けた(丸め込まれた)おばさまは、ハニワ教をブジョクしたことを何度も何度もわびながら去っていったのである。なるほど、こういうふうにひとの話をすぐに信じてしまうばか正直なひとがヘンな宗教なんかに引っかかるのだなあ、というじつに心温まるエピソードでありました。

信じるものは(足元を)すくわれる。人間もっと不マジメに生きたほうがよいと思うぞおばさま。

[1999.12.16]
§
Copyright © 1999-2005, Keiju Asagi all rights reserved.
Generated by persica 1.01b (for ruby 1.8.x)