§ asagi box §

私の実家のとなりにはちょっとした公園がありまして、そこにつばきの垣根がありました。私は草花にうといので、おまけにそのうとさをどうにかしようという考えがこれぽっちもないので、さらにはあたまのネジが何本か欠損しているのでたかだか十年前の記憶すら定かではないのですが、このつばきの垣根には秋頃になると実がなったように思います。

十年前の私は中学生でありました。なにしろ中学生ですから、ばかでありました。いまでもばかですが、多少ヨワイを重ねたおかげでなんとか日常生活に差し障りのない程度には普通の人のフリをすることができます。しかし当時の私にそんな器用なまねができるはずがありません。なにせばかですから。

まるいつばきの実を割ると、その中には明治のグミキャンディーほどの大きさの黒い種がいくつか入っておりました。この種をですね、私と同様にばかであった友人たちが互いにぶつけ合うという遊びを考案したのでございます。つばきの実をむしっと割ってほじくり出した種を二つ三つにぎってえいやっとばかりに投げつけるのです。いま思うとなにが面白かったのか分かりませんが、そのときは心底熱中したのです。

つばきの実の供給ポイントは私の実家のとなりの公園しかありませんから、参加者はおのずと近所のばかもの数名、戦場は公園周辺に限られておりました。ルールなんてあったもんじゃあございません。ぶつける。よける。ただそれだけです。小学生のやるような遊びですが、私たちは中学生でした。やはりばかです。

ある日、その前日にコテンパンにやられた一人がその種を学生服のポケットに大量に忍ばせて学校に持ってきたところから戦線はいっきに拡大しました。昼休み、廊下ですれ違いざまにそれをぶつけられたときはなにが起こったのか分からず、走り去るそのばかの後ろ姿を呆然と眺めてしまったものです。

そして床に散らばる種を見つけた瞬間、私は戦場にいたのでございました。やつはまぬけにもばらばらと種を落としながら逃走します。それを拾いつつ追跡する私。ものかげから不意に攻撃してくる、恐らくは私よりも先にやられていたもう一人のばか。状況を察して飛び入り参加するあらたなばか数名。校内は騒然となりました。走る。投げる。よける。拾う。大混戦です。

ちなみに女子生徒を攻撃対象からはずしていたのはなにも紳士的な理由からではなく、ばかもばかなりに女性を怒らせる愚を認識していたということでしょう。女を怒らせると面倒くせえしよぅといういいわけのせりふの裏にはまず絶対に勝てねえ理屈じゃねえという確信があったように思います。

そんなわけでもう何がなんだかわからなくなりながらも最終的にはことの発端であるばかを全員で追いつめる形になりました。すっかり頭に血が上ってますから双方とも生きるか死ぬかの精神状態です。そして追いつめられたばかはどこに隠し持っていたのか、ていうかそんなもん持ってんじゃねえよみたいな(みたいな、はよせ)禁断の兵器に手をかけたのであります。えいやっ。ぶわっと私の顔の横をすり抜けて飛んでいったそれは明らかに種ではありませんでした。

がちゃん。

「あ」

それは廊下のガラスが割れる音。

小さく軽い種ごときで窓ガラスが割れるはずがありません。そう。追いつめられたばかは暗黙の了解のうちに禁止されていたつばきの実そのものを投擲したのであります。トウテキ。ぶん投げたのであります。

実は種とは違って重く固くかなりの破壊力があります。明らかな協定違反の兵器の使用には国際的非難が高まりました。というかようするにガラスを割ってしまったことでわれわれは女子生徒と先生方からふくろ叩きにちかい扱いをうけました(どうでもいいけど、なぜあの年頃の女子はいつもあっち側にいますか)。

種なげ禁止例が出たのはいうまでもありません。ばかにふさわしい結末です。

このおおばかやろうどもに乾杯。

[1999.11.26]
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