§ asagi box §

とんでもないものを見てしまった。

白昼堂々と二人の外人さんが血みどろで殴り合っている。辺りには野次馬が次々と集まってくるが、誰も止めに入る様子はない。なにしろ夜の盛り場での酔っ払いオヤジの喧嘩とは迫力が違う。迂闊に近づけばどんな目に合うことか。

外人さん達は見たところ中東かその辺りの方々のようだが、正直、私にはインド人もパキスタン人もベトナム人も識別できないので本当のところは分からない。まあ、どうせ向こうだって日本人と中国人を区別できないだろうからおあいこである。実際はそれどころか服装でしかこの二人を見分ける事が出来なかったのだが。

便宜上、明るい草色のポロシャツを着ている方をサティッシュさん、派手な柄のセーターを着ている方をアジャーさんと呼ぶ事にした。ちなみに地元人としてはセーターは今の季節はやたらと暑苦しく見えるのだが、仙台の気候は向こうの人(中東出身と勝手に判断)にはやはり寒いのかもしれない。

形勢は若干アジャーさんが有利に見えた。両者とも血だらけで息は上がっているのだが、アジャーさんはまだまだフットワークが軽い。サティッシュさんの胸倉を掴んで二、三発顔面をヒットすると、大振りなサティッシュさんのパンチを巧みにかわして距離を取るという戦略である。しかしその拳が軽いのか、はたまたサティッシュさんが打たれ強いのか、決定打には至らない。一方サティッシュさんもアジャーさんを捕まえにいくのだが、掴んだところでセーターが伸びるものだから距離が詰められないのである。アジャーさんのセーターはびろびろに伸びてしまっていた。

ギャラリーの数は増える一方で、次第に感覚が麻痺してきたのか、いつのまにか無責任に二人を応援し始めた。サティッシュさんの拳がアジャーさんの頬を捉えると、おお、と歓声が上がる。その歓声にアジャーさんサイドのブーイングが飛ぶ。そうかと思えばアジャーさんのリズミカルな動きに合わせて足を踏み鳴らし、ヘイ、ヘイ、と掛け声を掛ける高校生達。耐えきったサティッシュさんには拍手。

やがて二人とも疲労がピークに達したのか、手も足も止まって睨み合いとなった。野次馬も静まり返る。

ぜい、ぜい、と息を荒くしながらサティッシュさんが叫んだ。

「ば、馬鹿野郎、てめえ」

はあ? 野次馬は呆気に取られてサティッシュさんを見る。流暢な日本語だった。

アジャーさんが怒鳴り返す。

「う、うるせえ。てめえこそ、この、馬鹿」

はいい? こちらも完璧な日本語。さーっとギャラリーの熱が冷めていく音が聞こえたような気がした。なんだ、日本語喋ってんじゃん。

実に身勝手な話だが、日本語を喋っている以上は容貌が外人であっても未知の存在ではない。血だらけになってまで闘った二人の戦士には気の毒だが、もはや異国情緒溢れるストリートファイトではないのだ。

野次馬は次第に散っていく。あっという間に二人を取り囲む人垣が消えると、ようやく制服のお巡りさんがやってきた。はいはい、見せもんじゃないからね、邪魔だしね、どいてね。残った野次馬を追い払う。私もその場から離れた。最後に見たのは地べたに座りこんだアジャーさんとサティッシュさんが、何やらお巡りさんの質問に答えているらしい姿であった。

この後二人がどうなったのか、そもそも二人は何処の国の人なのか、何より如何なる理由で白昼の死闘に至ったのか。知っている方がいたら、どうか教えてください。

[1999.06.27]
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