My Original Story・2―

翼猫

 

白い翼の生えた猫のお話です。

どうして、猫に翼が?!

 

オイラは、猫。

猫と言っても、その辺に居る猫とはちょっと違う。

どこが違うかって?

実は。オイラは、猫背の背中に大きな白い翼を着けた猫なんだ。

この翼を広げると、どこにだって飛んで行けるんだ。

でも、そんなオイラの姿は、生きている人には見る事ができないらしい。

それでも、時々、赤ちゃんには見えるみたいなんだ。

今日も空を飛んで、ある場所に行く途中・ブロック塀の上で翼を休めていると、

乳母車に乗った赤ちゃんがオイラをジッと見詰めて手を振ってきた。

自分の姿を認めてくれた事が嬉しくて、オイラは長い尻尾をパタパタと振った。

そんなオイラに喜んで、赤ちゃんは「キャッキャッ」と声をあげた。

『あら、どうしたの?』

側に居た赤ちゃんのお母さんは辺りを見回し、誰も居ない事を確認すると、

訳が分からずと言った態で首を傾げた。

ほらね。

オイラの姿は見えていない。

変なの。

どうして、赤ちゃんにしか見えないのだろう?

純真無垢の心の持ち主だから?!

翼が生えるまでは誰にも見えていたのに、不思議。

『バイバーイ』

オイラは赤ちゃんに別れを告げると、翼を大きく広げて空へと舞い上がった。

広い空を飛ぶオイラ。

翼の生えた猫。

オイラだって、元は普通の猫だ。

初めから翼があった訳じゃない。

空だって飛べなかった。

翼がなかった時は空を見上げて、

「鳥の様に飛べたら良いなぁ〜」

と思った事もある。

でも・・・・・・。

でも、実際に翼が生えてみると・・・・・・。

今更そんな事を思ってみても、元には戻れやしない。

後戻りはできない。

先に進むしかないんだ。

でも、どこへ?

オイラは、どこに進むのだろう?

とりあえず、今・行く所はハッキリ分かっている。

それは、翼が生えていない頃に暮らしていた家。

その家に、オイラは生まれてからずっと14年間暮らしていた。

翼を動かし、優しい風に乗り、住み慣れた家に近付く。

何度となく立った窓辺から、微かに香の香り。

翼が生えてから、この香りを嗅いだのは、これで何度目なのだろうか・・・

窓から部屋に入り、香りのする方に顔を向けると、

翼の生えていないオイラの姿が写真立ての中に納められている。

その横で、緑色した細長い棒から白い煙がゆっくりと上がっている。

その細い棒が、この香りの出所。

オイラは鼻をピクピク動かしながら、その場にゴロンと横になった。

懐かしい場所。

翼が生える前に、ここで何度も日向ぼっこをしたっけ・・・・・・。

ポカポカした暖かい日差しの春。

茹だるような暑さの夏。

涼しい風と虫の音色が響き渡る秋。

綿のような白い雪が降る冬。

1年イコール四季。掛ける14年間。

48の季節を、オイラは、この家で過ごした。

初めてこの家に来た時の事を今でも覚えている。

不安でいっぱいのオイラを優しい笑顔で迎えてくれた、

お母さん・お父さん・お姉ちゃん・お兄ちゃん。

皆、オイラを大切に・家族のように扱ってくれた。

時には厳しく。

時には優しく。

そして、暖かく・力強く。

オイラが外に遊びに行って大怪我をした時、皆は心配して

『早く良くなれ』

って慰めてくれた。

嬉しかった。

初めてネズミを捕まえた時、

『凄いね。偉いね』

って誉めてくれた。

旅行にも一緒に行ったっけ。

車に揺られて初めて大きな水溜りを見た。

お姉ちゃんが『海だよ』って教えてくれた。

大好きな魚がたくさん泳いでいたから、オイラは獲ろうとして海に入り込んだ。

でも、波ってヤツに追い出された。

海の水は、しょっぱかった。

ずぶ濡れになったオイラを見た家の人達は、ワッハハハハッと大きな声を出して笑った。

オイラも一緒になって笑った。

―――楽しかった。

色んな事があった14年間。

もっと色んな事があれば良いのにな。

ずっと、この家族と一緒に居られれば良いのにな・・・・・・。

そんな事を考えながら蹲っていると、眠くなってきた。

オイラは横になって寝そべると

『ファァァァッーーーーーーーーーーーーーー』

大きな欠伸をした。

すると、遠くから2人分の足音が聞えてきた。

その足音は段段と大きくなって、・近くなってくる。

誰と誰?

オイラは、足音の主を確かめようとして、身を起こし・首を巡らせた。

その時。

『今日で初七日だね』

1人目の足音と声。

『お供えは、あの子の好きだったシュークリームね』

2人目の足音と声。

聞き覚えのある声に、オイラは嬉しくて、

『お母さん!! お姉ちゃん!!』

大きな声でニャーッと鳴いた。

そして、立ち上がると二人の足元に身を摺り寄せた。

『お母さーーーん。お姉ちゃーーーん。

オイラはここだよ。抱っこして!!!!!』

ニャーニャー鳴きながら2人を見上げると、2人の目元に光る物が・・・・・・。

でも、その目はオイラを見ている訳じゃない。

その目は、細い棒の横に置かれた写真の中のオイラを見詰めている。

『お母さん。お姉ちゃん。オイラはここだよ。それは写真だよ』

ニャーニャー言ってるのに、2人は全然抱っこしてくれない。

抱っこどころか、見向きもしてくれない。

『お母さん・・・お姉ちゃん・・・』

2人には、オイラの姿が見えない・・・・・・。

『お・・・かあ・・・母・・・さ・・・ん。 おね・・・えちゃん・・・・・・』

どうして??  どうして?! どうして!!

オイラはここに居るよ!!

オイラを見てよ!!

『あの子が・・・し』

お母さんがそこまで言うと、

『違うよ。あの子は旅立ったんだよ』

お姉ちゃんが目に涙をいっぱい溜めて、慌てて言った。

『旅立った?!』

お母さんの目にも、いっぱい涙が溜まってる。

『そうだよ。旅立ったの』

オイラが・・・・・・旅立った?

何の事?

オイラはここに居るよ。

どこにも行かないよ。

ずっとここに居るよ。

『そうね・・・旅立ったのかもね』

『うん。私達に、また会う為に』

会う為に?

どうして?

オイラはここに居るのに?!

何を言ってるんだよぉ、2人共。

オイラ・・・訳が分からないよ。

『私達に会う為に・・・・・・生まれ変わる為に旅立ったんだよ』

オイラが生まれ変わる為に旅立った?!

それって・・・もしかして・・・・・・。

オイラは・・・・・・。

『だから、あの言葉は言わないで。決して言わないで。

あの言葉は・・・永遠の別れみたいだから・・・』

そうか・・・オイラは・・・。

そうなんだ。

オイラ、気が付かなかった。

そう言えば、一週間前。やたらと眠かったっけ。

いつもより眠いな・体が重いなって。

なのに、心は何故か穏やかだった。

瞼が重い時、皆が心配そうな顔していたっけ・・・。

オイラ、フカフカの座蒲団の上に寝そべってた。

4人はオイラを囲んで、オイラの名前を呼んでいた。

オイラ、嬉しくて、

『ありがとう。お母さん・お父さん・お姉ちゃん・お兄ちゃん』

って、ニャーーーッと鳴いて・・・瞼を閉じたんだ。

そして、次に目が覚めた時には、背中に翼が生えていた。

そうだ。思い出した。

オイラ、皆にまた会う為に行かなくっちゃいけないんだ。

暫くの間は会えないけど・・・・・・。

姿は見えないけど・・・・・・。

旅から帰ってきたら、またオイラの姿を見てね。

オイラに会ってね。

――――赤ちゃんがどうしてオイラの姿が見えるのか分かったよ。

赤ちゃんは、翼を持つものに一番近いんだ。

だって、この世に生まれてくる前までは、翼が生えていたのだから。

オイラ、行かなくちゃ!!!

皆に姿を見てもらう為に旅立つよ!!

だから、待っててね。

『待っててね。すぐに旅から帰ってくるから!!』

オイラはニャーと鳴くと元気に鳴くと、白い翼をはためかせて、

窓から大空へ向かって飛び上がった。

『ねー。今、あの子の声が聞えなかった?!』

『聞えた!! ニャーって鳴いてた』

お母さんとお姉ちゃんは顔を見合わせると、空を見上げて、

『早く帰っておいで!!』

ニッコリと笑った。

『待っててね。待っててね』

オイラは2人に見送られながら、空高く舞い上がった。

END

 

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