
屋久島と奄美大島の間に北東から南西にかけて、有人7島(口之島・中之島・平島・諏訪之瀬島・悪石島・小宝島・宝島)無人5島(臥蛇島・小臥蛇島・小島・上ノ根島・横当島)の島々が連なっています。これらはトカラ列島と呼ばれ、いずれも火山島からなっています。口之島・中之島・諏訪之瀬島は現在も活動的ですが、臥蛇島や平島・小宝島・宝島などは古い時期に活動が終わっており、火口地形は見られません。また、小宝島・小島・宝島の3島は隆起珊瑚礁が発達しており、海食崖に取り囲まれたほかの島と違い、平坦な海岸が続いています。悪石島と小宝島の間から東に向かってトカラ構造海峡と呼ばれる深い海底が続いていますが、この海峡は130万年以上前から陸続きになったことがないといわれています。この海峡より北側に位置する口之島と中之島には、本州〜屋久島に生息するサワガニが、そして、海峡より南側に位置する宝島には、奄美・沖縄諸島に生息するサカモトサワガニが分布しています。サワガニ類は、海を介して分布を拡げることができない動物なので、少なくとも口之島と中之島は本土ないし大隈諸島と、宝島は奄美諸島と陸続きだった時代があり、以後海没することなく存在し続けている可能性が高いと考えられます。こうした本土系の種と琉球系(奄美・沖縄諸島)の種がトカラ構造海峡を越えられずに棲み分けている例は多く、トカラ列島は動物地理学的に興味深い地域だといえます。この分布境界線は渡瀬線とも呼ばれます。 以下、両生爬虫類(ウミガメ・ウミヘビを除く)・哺乳類(クジラ類を除く)・繁殖鳥類の順に動物相を紹介していきます。
サワガニ類のように渡瀬線を分布境界線とする種は、両生爬虫類にもみられます(A)。特にカナヘビ類は渡瀬線を分布境界線とする典型的な例といえます。トカラハブはトカラ列島南部に固有の種ですが、奄美大島産ハブから分化したことが示唆されており、この種も祖先が奄美諸島から陸伝いに北上し、渡瀬線を越えられなかった種だといえます。タカラヤモリもトカラ列島南部の固有種ですが、その起源についてはよく分かっておらず、宝島と小島にのみ生息し、小島のすぐ近くにある小宝島には別種アマミヤモリが生息しています。このような分布になった要因として、トカラ南部には2種とも生息していたが、各島の成立後に競争的排除が起こり、小島と宝島にはタカラヤモリが、小宝島にはアマミヤモリが生き残った可能性が指摘されています。このほか、中之島からはアカハライモリと思われる記録がありますが、再確認されていないことから、誤りであった可能性が指摘されています。
トカラ列島に自然分布する哺乳類は本土系4種,琉球系1種で、本土系の3種は渡瀬線より北側だけに生息していますが(A)、ほかのコウモリ類2種(B)は渡瀬線を越えて分布しています。ただしコキクガシラコウモリは、奄美諸島産を別亜種(亜種オリイコキクガシラコウモリ)に分類する見解もあります。クビワオオコウモリは琉球系の種ですが、ほかの亜種が与論島以南で繁殖しているのに対し、亜種エラブオオコウモリは遠く離れたトカラ列島と大隈諸島口永良部島が主要な繁殖地であり、奄美大島や徳之島には定着していないという、不思議な分布をしています。このほか、種類は不明ですが横当島でも小型コウモリが観察されています。 ※トカラ列島のうち、繁殖未確認だが夏期に記録がある島は淡色で示した
鳥類は飛翔能力に優れているため、両生爬虫類や哺乳類のようにトカラ構造海峡が分布拡大の障害となることはほとんどなく、本土系の種と琉球系の種、さらに伊豆諸島とトカラ列島北部だけで繁殖する種が混在するという、独特な繁殖鳥類相を形成しています。 本土系の種は6種確認されていて(A)、このうちモズとカワラヒワは、小笠原諸島や大東諸島を除くと、トカラ列島北部が繁殖南限となります。メジロとハシブトガラスも、本土系の亜種がトカラ列島北部まで分布しており、奄美諸島以南は琉球系の亜種になりますが、トカラ列島南部の個体群がどちらの亜種になるかはよく分かっていません。ウグイスは、トカラ列島北部で繁殖する個体群は外観上は亜種ウグイスと亜種ダイトウウグイスの中間的特徴を備えているそうですが、ミトコンドリアDNAによる遺伝的分析からは本土系の亜種に近縁という結果が出ているそうです。ツバメは、トカラ列島以南の各地でも繁殖記録がありますが、いずれも稀で、主要な繁殖地はやはり本土やその周辺になると思われます。 アカコッコとイイジマムシクイは、これまで伊豆諸島とトカラ列島北部だけで繁殖が確認されている種です(B)。なぜこのような特異な繁殖分布をするのかは大変興味深いところですが、理由はまだよく分かっていません。 琉球系の種は9種確認されていて(C)、シロハラクイナとリュウキュウツバメは偶発的な繁殖と考えられますが、ほかの7種は中之島などで普通種です。ただし、中之島よりも奄美諸島に近い宝島ではサンショウクイ・アカヒゲ・ヤマガラの繁殖期の記録がなく、ヒヨドリも夏期の記録が少なく、繁殖していない可能性があります。ヤマガラ以外は非繁殖期に記録があるだけに、なぜ定着できないのか不思議です。 広域分布種は9種確認されていて(D)、ゴイサギ・クロサギ・カラスバト・イソヒヨドリは中之島や宝島など主要な島で普通種です。ミサゴは繁殖している島は限られているかもしれませんが、トカラ列島全域で観察されています。シロチドリはトカラ列島では宝島だけで繁殖しているようで、隆起珊瑚礁による平坦な海岸と砂浜が繁殖に適しているものと考えられます。 人為分布種はキジのみです(E)。 このほか、繁殖記録が確認できませんでしたが、ホトトギス(中之島〜悪石島)・アオバズク(中之島)・キビタキ(亜種リュウキュウキビタキ;中之島・平島)なども繁殖していると考えられます。こうしてみますと、トカラ列島は南部よりも、北部で多様な鳥類相をみることができるといえます。特にアカヒゲとアカコッコが同じ島で繁殖している地域はトカラ列島北部だけだと思われ(男女群島や屋久島もその可能性がありますが、繁殖は未確認です)、学術的にも貴重な地域だといえます。 <参考文献>
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