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 トカラ列島の動物相(陸生脊椎動物)について、実際に訪れたり文献を見たりして得た情報をまとめてみました。まだまだ勉強不足なので、間違いがあったり、もっと面白い話題がありましたらこちらにご連絡下さい。
2008.6.17更新/ヤモリ類を修正

トカラ列島周辺地図  屋久島と奄美大島の間に北東から南西にかけて、有人7島(口之島中之島平島諏訪之瀬島悪石島小宝島宝島)無人5島(臥蛇島・小臥蛇島・小島・上ノ根島・横当島)の島々が連なっています。これらはトカラ列島と呼ばれ、いずれも火山島からなっています。口之島・中之島・諏訪之瀬島は現在も活動的ですが、臥蛇島や平島・小宝島・宝島などは古い時期に活動が終わっており、火口地形は見られません。また、小宝島・小島・宝島の3島は隆起珊瑚礁が発達しており、海食崖に取り囲まれたほかの島と違い、平坦な海岸が続いています。

 悪石島と小宝島の間から東に向かってトカラ構造海峡と呼ばれる深い海底が続いていますが、この海峡は130万年以上前から陸続きになったことがないといわれています。この海峡より北側に位置する口之島と中之島には、本州〜屋久島に生息するサワガニが、そして、海峡より南側に位置する宝島には、奄美・沖縄諸島に生息するサカモトサワガニが分布しています。サワガニ類は、海を介して分布を拡げることができない動物なので、少なくとも口之島と中之島は本土ないし大隈諸島と、宝島は奄美諸島と陸続きだった時代があり、以後海没することなく存在し続けている可能性が高いと考えられます。こうした本土系の種と琉球系(奄美・沖縄諸島)の種がトカラ構造海峡を越えられずに棲み分けている例は多く、トカラ列島は動物地理学的に興味深い地域だといえます。この分布境界線は渡瀬線とも呼ばれます。

 以下、両生爬虫類(ウミガメ・ウミヘビを除く)・哺乳類(クジラ類を除く)・繁殖鳥類の順に動物相を紹介していきます。


両生爬虫類(ウミガメ・ウミヘビを除く)
本土系  琉球系  トカラ列島固有  人為分布

本土系


































琉球系

ニホンカナヘビ
(諏訪之瀬島が南限)
                          アオカナヘビ
(小宝島が北限)
シマヘビ
(口之島が南限)
    *1                     リュウキュウアオヘビ
(小宝島が北限)
                            アマミヤモリ
(小宝島が北限)
                            タカラヤモリ
                            トカラハブ
                            リュウキュウカジカガエル
(口之島が北限)
                            ミナミヤモリ
(九州南部が国内北限)
            *2
*2


 
オキナワトカゲ
(口之島が北限)
   









 
ヘリグロヒメトカゲ
(黒島が北限)
              
 
     
ヒメアマガエル
(本来は奄美大島が北限)
                            ミナミイシガメ
(国内の自然分布は八重山諸島のみ)
                            ブラーミニメクラヘビ
(南西諸島では悪石島が北限)
*1…人為分布との説もある。
*2…トカゲ類の記録があるが、種類が判明する前に消滅。

 サワガニ類のように渡瀬線を分布境界線とする種は、両生爬虫類にもみられます(A)。特にカナヘビ類は渡瀬線を分布境界線とする典型的な例といえます。トカラハブはトカラ列島南部に固有の種ですが、奄美大島産ハブから分化したことが示唆されており、この種も祖先が奄美諸島から陸伝いに北上し、渡瀬線を越えられなかった種だといえます。タカラヤモリもトカラ列島南部の固有種ですが、その起源についてはよく分かっておらず、宝島と小島にのみ生息し、小島のすぐ近くにある小宝島には別種アマミヤモリが生息しています。このような分布になった要因として、トカラ南部には2種とも生息していたが、各島の成立後に競争的排除が起こり、小島と宝島にはタカラヤモリが、小宝島にはアマミヤモリが生き残った可能性が指摘されています。このほか、中之島からはアカハライモリと思われる記録がありますが、再確認されていないことから、誤りであった可能性が指摘されています。
 一方、奄美諸島側から渡瀬線を越えて分布を北に拡げた種もみられます(B)。これらは主に海流に乗って漂流分散したものと考えられていて、逆に本土側から渡瀬線を越えて分布を南に広げた種はみられません。本土と奄美・沖縄諸島に自然分布する両生爬虫類としてヌマガエルがありますが、この種は間に位置する大隈諸島とトカラ列島には分布しておらず、第四紀のある時期にそれぞれ大陸から直接的に侵入してきたものと考えられています。
 人為分布と考えられる種は3種分布しています(C)。ブラーミニメクラヘビは単為生殖種で、植木などの土とともに人為的に運ばれた個体からクローンが発生し定着したと考えられます。

哺乳類(クジラ類を除く)
本土系   ■琉球系  人為分布

本土系
人為分布

































琉球系
ジネズミ(中之島が南限)



*1     *1    

 
キクガシラコウモリ
(中之島が南限)



                      
アカネズミ(中之島が南限)                          
B コキクガシラコウモリ
(沖永良部島が南限)
              *2   *2  
 
  *3   *4       *4     *4
  *5 クビワオオコウモリ
(口永良部島が繁殖北限)

アブラコウモリ    
         *2  
 

クマネズミ



         


 
ドブネズミ              
 
 
 
ハツカネズミ                  
 
 
ニホンイタチ
(本来は屋久島が南限)
            
       
 
ニホンジカ
(本来は屋久島が南限)













ヤギ       *6           *6      
ウシ                          
*1…「ジャカウネズミ」の記録あり。
*2…らしき個体の観察例あり。
*3…迷行記録あり。
*4…現在はみられない。
*5…与論島で繁殖。
*6…逃亡したと思われる少数を確認。

 トカラ列島に自然分布する哺乳類は本土系4種,琉球系1種で、本土系の3種は渡瀬線より北側だけに生息していますが(A)、ほかのコウモリ類2種(B)は渡瀬線を越えて分布しています。ただしコキクガシラコウモリは、奄美諸島産を別亜種(亜種オリイコキクガシラコウモリ)に分類する見解もあります。クビワオオコウモリは琉球系の種ですが、ほかの亜種が与論島以南で繁殖しているのに対し、亜種エラブオオコウモリは遠く離れたトカラ列島と大隈諸島口永良部島が主要な繁殖地であり、奄美大島や徳之島には定着していないという、不思議な分布をしています。このほか、種類は不明ですが横当島でも小型コウモリが観察されています。
 人為分布と考えられる種は8種生息しています(C)。臥蛇島・平島・諏訪之瀬島・悪石島からは家ネズミ類の記録がありませんが、ニホンイタチはネズミ駆除のために放獣されたものなので、実際には何らかの種が分布していたものと思われます。ニホンイタチは益獣として放たれたものですが、在来の爬虫類や鳥類に深刻な影響を与えており問題となっています。口之島のウシは国内で唯一の野生化個体群で、野生化牛は世界的にも珍しく、日本在来牛の特徴を多く残していている点で貴重な個体群だといえます。
 宝島の大池遺跡(縄文時代前期)からは、現在生息していないイノシシの骨が出土しています。これが自然分布であるか人為分布であるかは明らかになっていませんが、北海道と伊豆諸島では縄文時代に人為的にイノシシが持ち込まれていたと考えられており、宝島も同様であった可能性があります。

繁殖鳥類
…主に本土で繁殖 主に奄美・沖縄諸島で繁殖 …亜種不明 ■…広域で繁殖 …伊豆諸島とトカラ列島で繁殖 人為分布
※トカラ列島のうち、繁殖未確認だが夏期に記録がある島は淡色で示した
 
本土系
広域
伊豆・トカラ






























琉球系
ツバメ   *1   *1           *2   *1  
モズ









 

   
ウグイス[亜種ウグイスとその近縁個体群]                     *2   [亜種ダイトウウグイスに近縁な個体群]
カワラヒワ












 
メジロ[脇腹が褐色を帯びる亜種]
                        [亜種リュウキュウメジロ]
ハシブトガラス[亜種ハシブトガラス]                         [亜種リュウキュウハシブトガラス]

アカコッコ
 









   
イイジマムシクイ                          

*1


*1








シロハラクイナ
                          ズアカアオバト
                      *2   リュウキュウコノハズク
アカショウビン[亜種アカショウビン]
 







*3
 
[亜種リュウキュウアカショウビン]


*1

*1








リュウキュウツバメ
サンショウクイ[亜種サンショウクイ]












[亜種リュウキュウサンショウクイ]
ヒヨドリ[亜種ヒヨドリ]












[胸が褐色を帯びる亜種]













アカヒゲ
サンコウチョウ[亜種サンコウチョウ]












[亜種リュウキュウサンコウチョウ]
ヤマガラ[翕に三日月斑がある亜種]












[亜種アマミヤマガラ]
D
オオミズナギドリ













カツオドリ













ゴイサギ









*2


クロサギ













ミサゴ






*2




シロチドリ










 

カラスバト












イソヒヨドリ








*2  

セッカ














キジ(本来は屋久島が南限)                          
*1…繁殖記録はあるが稀。
*2…未発表情報による。
*3…過去に繁殖していたとの島民情報あり。

 鳥類は飛翔能力に優れているため、両生爬虫類や哺乳類のようにトカラ構造海峡が分布拡大の障害となることはほとんどなく、本土系の種と琉球系の種、さらに伊豆諸島とトカラ列島北部だけで繁殖する種が混在するという、独特な繁殖鳥類相を形成しています。
 本土系の種は6種確認されていて(A)、このうちモズとカワラヒワは、小笠原諸島や大東諸島を除くと、トカラ列島北部が繁殖南限となります。メジロとハシブトガラスも、本土系の亜種がトカラ列島北部まで分布しており、奄美諸島以南は琉球系の亜種になりますが、トカラ列島南部の個体群がどちらの亜種になるかはよく分かっていません。ウグイスは、トカラ列島北部で繁殖する個体群は外観上は亜種ウグイスと亜種ダイトウウグイスの中間的特徴を備えているそうですが、ミトコンドリアDNAによる遺伝的分析からは本土系の亜種に近縁という結果が出ているそうです。ツバメは、トカラ列島以南の各地でも繁殖記録がありますが、いずれも稀で、主要な繁殖地はやはり本土やその周辺になると思われます。
 アカコッコとイイジマムシクイは、これまで伊豆諸島とトカラ列島北部だけで繁殖が確認されている種です(B)。なぜこのような特異な繁殖分布をするのかは大変興味深いところですが、理由はまだよく分かっていません。
 琉球系の種は9種確認されていて(C)、シロハラクイナとリュウキュウツバメは偶発的な繁殖と考えられますが、ほかの7種は中之島などで普通種です。ただし、中之島よりも奄美諸島に近い宝島ではサンショウクイ・アカヒゲ・ヤマガラの繁殖期の記録がなく、ヒヨドリも夏期の記録が少なく、繁殖していない可能性があります。ヤマガラ以外は非繁殖期に記録があるだけに、なぜ定着できないのか不思議です。
 広域分布種は9種確認されていて(D)、ゴイサギ・クロサギ・カラスバト・イソヒヨドリは中之島や宝島など主要な島で普通種です。ミサゴは繁殖している島は限られているかもしれませんが、トカラ列島全域で観察されています。シロチドリはトカラ列島では宝島だけで繁殖しているようで、隆起珊瑚礁による平坦な海岸と砂浜が繁殖に適しているものと考えられます。
 人為分布種はキジのみです(E)。
 このほか、繁殖記録が確認できませんでしたが、ホトトギス(中之島〜悪石島)・アオバズク(中之島)・キビタキ(亜種リュウキュウキビタキ;中之島・平島)なども繁殖していると考えられます。こうしてみますと、トカラ列島は南部よりも、北部で多様な鳥類相をみることができるといえます。特にアカヒゲとアカコッコが同じ島で繁殖している地域はトカラ列島北部だけだと思われ(男女群島や屋久島もその可能性がありますが、繁殖は未確認です)、学術的にも貴重な地域だといえます。
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