台北2008年4月 食べ物など
夫が見つけたものは、渡りガニと迷い犬の広告、ときて次は「胡椒餅」の看板だった。
夫は緑豆のお菓子も好きだがこの胡椒餅も好きで、食べたいのに台北には屋台がないと
「最近お嘆きのアナタ」になっていたのである。
店に一歩足を踏み入れると中から出てきたのは奥さん、そしてポニーテールのダンナ
であった。日本だったらさしずめ「団塊の世代」とか「脱サラ」とか、そういう単語が
浮かびそうな感じ。だがここは台湾のそのまた田舎、なのである。
そしてその店ではキャリコ(三毛)の立派なペルシャ猫を飼っていた。
ゆっくり近づいて行ってしゃがみこみ、逃げようと身構えるネコの鼻先に手のひらを
上にして指先を近づける。するとネコは何故か逃げもせずに指の匂いをかいでしまう。
で、その指をさりげなくほっぺのところに持って行き、しかる後に首筋に移動させて
軽くもんでやると、このネコとはお友達、になれちゃうわけです。わはは。
ネコに触らせてもらったお礼を言って店を出る。
外で夫の胡椒餅を一口もらったら。温めた餅の皮のこげ具合の絶妙なこと。ひき肉と
ねぎのあんもちゃんと熱くて、うまい。こうなると渡りガニを買わなくてよかった。
どちらもおいしいに決まってるのだから。
右も左も食べ物屋、という通りをつっきって海辺に出る。
本家孔雀蛤大王に入ろう、と夫が言う。しかし、いかにして注文すべきなのか。
海の家に毛が生えたような店の他のお客さんを見ると、皆、孔雀蛤を食べている。分量
は一定なので、家族連れはそれにチャーハンとか他の野菜炒めとかスープとかを付けて
調節しているようだ。(「お一人様」も何人かいた!)
メニューを渡されて、さて困ったかと言えば全然。なんとなればウェイトレスの
おばさんが日本語を話すからである。だから間違えて孔雀でもなんでもない蛤を注文
しなくて済んだのであった。だけどこんなところに何故??ありがたかったけど。
やがて孔雀蛤はやってきた。料理の容器のほかに、年季の入った金盥も渡される。
カラ入れである。さて孔雀蛤はといえば、多分、ネギ、ニンニク、しょうがを炒めた
上に孔雀蛤を入れて軽く炒め、その上から醤油と酒とみりんで作った汁をかけ、少し
なじませた後にフタをして貝がカラを開けるまで待つ??といった体の料理だった。
いやあ、うまかった。川向こうの淡水ではこの孔雀蛤はついぞ見かけなかったのだが。
あっちとこっちでこんなにも違うものなのか??そして、こんなに消費しちゃって、
孔雀蛤は絶滅しないのだろうか。
船着場から、河口を眺める。八哩はなかなかの賑わいを見せていて、犬連れが
あちこちにいた。どうやら犬を飼うのは台湾では流行っているようで、昨日行った
三峡の老街でもあちこちで見かけたのである。大きな犬はいずれも店先に段ボールを
敷いてもらい、その上を自分の場所として寝そべっていたものだ。
つながれている犬は少なくて、首輪をつけたまま好きなところをうろうろしている犬
も沢山いる。来たときは船着場にいた汚い犬が、今度はあろうことか干潟の真ん中で
遊んでいるのを発見。あれでは汚くなるわけだなあと見ていれば、今度はドロの上に
座り込んでいる。犬に求められるべき社会性なんてものはこれっぽちも関係ない、
すがすがしいほどの獣っぷりであった。
対岸の淡水にもどる。今度は淡水の沿岸を見ることになるが。なんだか、異様に
人が増えている。八里もにぎわっていたが、淡水ではにぎわうを通り越して混みあって
いて、祭りでもあるのかというくらいである。(帰りのガイドに何があったのかと
聞けば、「連休と清明節」とのことで、免税店のおばさんによれば「淡水は田舎でお墓が
多い。八哩はもっと田舎でなお墓が多い。」つまり、墓参りというわけだった。)
淡水に戻ってみれば、船着場はともかく川沿いにある露天は、八哩とは全然違って
いた。八哩は食べ物屋ばかりだが、淡水は射的とか、土産ものを商っていて、だからか
なんとなくこぎれいなのである。裏の市場では豚の足もちゃんと売ってるのに、
川沿いの道はきっぱりとハレの場所なのであった。
淡水から台北に帰る電車もそれなりに混んでいた。途中から乗り込んできた、
ぐずる子供を連れたお母さんに、40くらいの男の人が座席を譲っていた。彼の母親
らしき人がにこにこしながら彼をちょんちょん、と突付いたのを見て、なんだかこっち
までうれしくなってしまう。
一度ホテルに帰って荷物を置いてから、また出る。
台北駅の近くの三越と書店街と電脳ビルに寄った後で夕食にしようというわけだ。
西門から台北駅までは1駅なので、歩く。三越で買うのは、月餅である。香港系の
「奇貨」という店があって、ここの品はリーズナブルなうえに非常に美味しい。夫が
ひいきにしているのだが、その支店が三越にあるのだ。
三越では茶梅も買った。茶梅は梅を薄甘く煮てお茶の香りをつけたもので、
似たものに金柑の甘煮にウーロン茶の香りをつけたものがある。ただ甘くしたものと
ちがって、一工夫が美味しい。・・・もっとも、台湾のお菓子ではたまに一工夫が
とんでもないことになる場合もあって。
今回の大失敗、「プリザーブド・オリーブ」がその好例である。
スーパーのドライ・フルーツ売り場で見たそれは、日本ではデパートでしかお目に
かかれないような大粒のオリーブが使われていた。プリザーブ、って確か原型が残る
形で砂糖煮にしたものだったか、いずれにせよ私はオリーブが好きなのである。
それで試しに買ってしまった。
帰国した夜に袋を開けて下を向いたがもう遅い。
甘いオリーブというだけならまだ食べられたかもしれない。それには龍山寺のお香の
ような香りもついていて、ほのかどころか非常にくどいものであった。やっと1つ
食べ、夫に1つ出したら、「お前とオレの仲だから食べるけど・・」と、ヘンな
感想を漏らしたものである。
これがあと10粒は残っていて、私は自分の好奇心からきた不始末をいかにして
クリアすべきか大変困っているところなのである。夫の言い方に習ってみるならば、
どなたか、私とアナタの仲になりませんか、みたいな。あまりに強烈なので、イヤな
ヤツに食わせてやろうにも口に入れる前に気が着かれてしまいそうなのだ。くそー。
なんの話だったか。そう、異国のお菓子は、あるなら試食はしておいた方が良い。
絶対に、という話である。ちなみに三越の中に入ってる茶梅を買った店(名前は不明)
のお姉さんは「あ、茶梅がある!」という私の声を聞くが早いかいそいそと試食を持って
きてくれて、これがまた一粒まるごとという剛毅なものであった。
以前TVで、所ジョージが常識外れの量の甘エビをくれた相手に向かって思わず
「あんた、バカ!?」とぬかしてしまったのを見て私は少し憤ったのである。のであるが
しかし、淡水のお菓子屋のときといい、この茶梅のときといい、ありがとうという
前に、思わず所ジョージになりそうになったのであった。
月餅とか持って、隣の電脳ビルに行く。周囲を見ると、夫と私は最高齢である。
店の人もなんと声をかけていいのか迷っている様子。書店街に行っても夫と私は
最高齢の部類で、レジ横を通り過ぎようとしたら、店の人はすかさず夫に「史記」
(全8巻、くらいの!)を勧めたものである。そうか、史記が似合うってか。
夕食は大三元という名前の広東料理屋である。
席についたらなんだかんだと話かけられたので、「ビール。」と言ったら笑われた。
どうやら「まあまあ、今日は雨もあがりましてよろしゅうございました〜。」みたいな
ことを言ってるのに、いきなり「ビール」とやってしまったらしかった。
冷菜は鴨のスモーク、メインはカエルの炒め物で、それに野菜と春雨の土鍋。
二人ではこれが精一杯であろう。そして何故か土鍋に入った料理で間違えたことがない。
成功か大成功か、どちらかなのである。やっぱり大成功だった。
他のテーブルでは、家族で食事をしていた。ネクタイしめたパパと、後ろ姿のママと、
男女一人づつの子供。パパはともかく、子供達はジャージ姿である。一人づつの皿に
入ったスープや、これまた個々に供されるしゃぶしゃぶの変形みたいなのを食べていた。
店の名物のパパイヤにグラタンを載せたものも。家族で中華料理なのに、取り分け
スタイルではなくて、別々、というのがなんだか不思議な光景だった。
その他、やはり清明節がらみだろうか中年男一人と、老人ばかり6人というグループ
もいた。遠すぎて何を食べたかはわからないが、おじさんは一生懸命店の人と渡り合い
老人達の面倒を見ていたものである。儒教の国らしい光景で、老人ばかりが
並ぶのはなかなか壮観であった。
ビールを注文したものの後悔したのはお茶の美味しさであった。
ウーロン茶であると店の人は言ったが、お茶マニアでも納得するであろう、高級な
ウーロン茶だった。あれならビールなんて要らなかった。飲んだけど。
店を出たあと、干し肉で有名な新東陽で夫が今夜のつまみとやらを調達に及ぶ。
店にはグラム数を伝えねばならないが、そんな面倒なことはイヤだったので、夫は
100元を出したのだそうである。相手はうなづいて100元分を売ってくれたらしい。
というか。10gほどオーバーしたのだが、相手は気にしなかったとのこと。
コンビニでビールを買って、部屋に戻り。さてそれを食べようとしたのだが。
あまりにきれいにパックされているので夫はもったいなくなった。
結局、オリーブの甘煮と一緒に買った、にんにくの香りつきのピーナッツで夜を
過ごした。
3泊4日なので、あとは帰るばかり。
毎回空港で調達するのは緑豆のお菓子と蓮の実の甘納豆である。
蓮の実も緑豆のも夫がマニアなのだが、緑豆のお菓子の方はどこに出しても評判が
良い。中には「うっとりした」とまで言い出す人もいるくらいで、試食要らずの
おすすめ土産、と言える。
今回台北で買ったのはお菓子ばかりだった。
後悔はしていない。これからもそうではないかと思える。毎回、台北に行けば
家の中が気に入りのお菓子だらけになるわけで、その後は賞味期限との戦いである。
この戦いが、楽しくてたまらない。