その6:コモ湖畔、夕方から夜
食事までは時間があるので、散歩に行くことにした。
ホテル玄関の横には広場と言えないくらい小さな広場がある。そこを小学生くらい
の女の子が二人、飽きもせず自転車でぐるぐると回っている。通りかかると、
「Buon giorno!」 と挨拶してくれる。「ぼん じょるの。」と平仮名で応える。
急斜面の坂の街である。メインの道だって普通の車がすれ違うだけの幅しかない。
つまりこの場合、自転車は移動の道具ではなく、オモチャであった、なんだか、
平らなところに連れて行って、どこまでもまっすぐに走らせてやりたくなる。
湖に向かって坂道を降りて行くと、途中にまた栗の木があった。既にいくらか
落ちている。私もここ数年栗拾いなどしたことはない。こんなところで栗の木を
眺めることになるとは・・そう思っていれば、後ろの方から夫が、「おーいっ!
100リラ拾ったぞー!」とのことで。ちなみに100リラは、5円くらいにあたる。
ボート乗り場にたどりつくはずだったが、そちらへ続く道は、カギがかかって
いた。湖に平行している道を歩く。さきほど羊が走っていた細長い畑は、左側に続く
石垣の上にある。古代よりコモ湖畔には人が住んでいたとはいうが、道の両脇に作
られている石垣、足元の道に埋め込められたレンガは一体いつからあるのだろうか。
木々が頭上を覆っているので、道は薄暗い。この樹木も、自然のものなのか、様々
な樹木が入り混じり、なお調えてあるようにみえる。木々の隙間から湖面が見える。
右は湖で、左は畑や人家があるはずだが、築かれた石垣が高くて、見えない。出会う
人もなく、なんだか自分が幽霊になったような気がしてくる道だった。もっとも、
道連れがある幽霊というのも、変なもので、あ、そうそう、「牡丹灯篭」だったら
二人連れの幽霊だよね!って、イタリアで牡丹灯篭かい。
やがて道は石造りの集落にたどり着いた。真ん中に教会があり、それをとりまく
本来のトルノ(TORNO)の集落である。ホテルはそのトルノのはずれにある。
教会の隣は墓地だったが、埋葬はせず、荼毘にふしてから墓に入れているのか、これ
が小さなコイン・ロッカーを不規則に並べたような墓の群れで、その扉の上から
顔写真と墓碑銘を印刷したものもあり、「イタリアのお墓」というイメージからは相当
遠い。急斜面ということもあり、土地が不足しているのかもしれなかった。
道から見ると、建物の塀は石造りであり、2m以上の高さはある。
で、道からは見えないようでも、坂をのぼって行けば嫌でも上から見える。
それでついつい上へ上へのぼっては民家を見物していると、来るときに通った
道に出た。びゅんびゅんとばして来る車に注意しながら、ホテル方向へ歩く。
民家やホテルを飾っているのは、とりあえずはペラルゴニウム(ゼラニウムと
呼ぶ人もいる)であり、ベゴニアである。面白いのはその他の植物だ。普通の石垣を
飾っているのは、源平小菊。石垣によっては途中に植物用の穴をうがち、そこに
ヒマラヤユキノシタなど植えている。その他、石垣に生えているのか、植えている
のかわからないが、そういった植物が楽しい。
高さ2mくらいか、そんなところに姫金魚草が咲いている。黄色いケマンソウは
誰かが植えたのか、それともこのへんでは雑草なのか。オランダで見た中くらいの
背丈のインパチエンスも、一体こんなところに花を植える人がいるのか??と悩む
ようなところにピンク色の花を咲かせていた。(←帰宅して調べてみたら、いずれも
図鑑に載っていた・・どうやらメジャーな野草らしいぞ
^^;)
ホテルまで来たので、通りの反対側の道を試しにあがってみた。
左側には普通の家、つまり例のごとくの急斜面用
3階建てで、そして右側は草だらけ
の空き地。そちらの方から、カランカランと妙な音がするなあと思ってはいたが、
これがなんと雑草に半ば埋もれながら草を食んでいる、黒と白のヤギだった。
除草のために放してあるのかもしれない。是非、こいつらがお手紙書いてるところ
を見たい。
部屋に戻る。夕食は7時半からである。南の欠点は夕食時間が遅いことだが、これ
くらいなら充分だ。玉村豊男は、宿をたのむならレストランつきの宿だと書き、
高坂知英は田舎に行くなら3つ星くらいでレストランつきが望ましいと書いた。
そこそこ設備が整っていて、なお旅先だというのでどれだけがんばって詰め込んだ
ところで、部屋までものの数分、という意味である。
食前酒は、ビール。水とワインも注文して、さて何を食べるか。
機内食以来何も食べていなかったが、お腹がすいているわけでもない。無難に前菜
盛り合わせと、魚をお願いした。夫は、エビのカクテルとラムだった。半分食べた
ところで、皿を交換する。
ヨーロッパを旅するときは、塩を控えてください、という言葉を覚えておくと
いいかもしれなかった。が、しょっぱくても元々の味が濃いのでさして気にならず、
だから何なの、ほっほっほ〜!というわけで。いやあ、食った飲んだ。
最初、窓の向こうは薄暮の湖で、お客は私達ともう1組しかいなかった。対岸の
民家の灯りが風景になると、周囲の席も段々と埋まっていったのである。うむ。
ま、眺望レストランだからな。夜景を見ながらお食事なんだな。こらこら、そこの
カップル、このあと一体何をする予定なのか、私に言いなさい!!
コモ湖の夜は、局地的にはロマンチックに、局地的にはミもフタもなく更けて
いったのであった。