韓国、ソウルな旅

 いきなりその気になった夫につきあって、ソウルに行ってきた。
ソウルで何をしてきたのか。食事、買い物、見物、そしてガイドの季さんを
質問攻めにしてうるさがれることだった。

 見物したのは、南大門と東大門あたり、景徳宮とその庭、近くの市場。
南大門も東大門も、周囲には広大な市場が広がっている。東大門の方は、衣料品
が多い。にぎわうという表現より、こんなに大量の品物、誰が買ってどこへ消えて
行くのかと、そっちが不思議になるということ、まるで那覇の公設市場の如し。
実際、規模は違うものの那覇の市場にそっくりで、あまり物珍しくなかった。

 驚いたのは東大門の地下街で、こともあろうに「フトン屋」に腕をがっと掴まれ、
買って行くよう言われてしまったことで、いくらなんでも、旅行者がフトンは買わ
ないだろうフトンは。くだんのお兄さんが「や〜い、日本人に声かけてやんの〜」って
感じで揶揄されているのを去り行く背中で聞くこととなったが、それもそのはず、
外見は似ていても日本人はわかるらしいのである。観光客も行くそういったにぎやか
な場所では、何故か必ず日本語で話しかけられた。

 一体全体、どこが向こうの人と違っていたのか??夫の場合は、長袖のシャツの袖
をまくっていたというところくらい。時節柄向こうの男の人は殆ど半袖シャツだった
し、たまに長袖ならきっちりとおろしていた。ちなみに夫の長袖シャツは冷房対策
だが、不幸にしてソウルの冷房は入れてるんだかいないんだかわからない程度だった。

 私が間違ったのは、ハワイで買った、派手柄の3/4丈のカプリ・パンツ。
夏でもあり、ご近所のスーパーに行く気分で市場見物用にと荷物に入れたのが、外れ。
大体、あちらの人々は下半身モノはあまり柄物を用いないのである。なんだかんだ
言っても大都市のソウル、せめて神保町あたりを歩く格好にするべきだった。

 しかししかし、本当にソレだけなんだろうか?
夏にソウルに来る日本人全てが長袖をまくってるわけではなく、派手なカプリ・
パンツを着用してるわけもない。別に韓国人になりすまそうと思うわけではないが、
どうも気になるのである。

 で、そのテの格好で観光客らしく私達が見たのは、景徳宮という世界遺産にも
なっているという宮殿であった。ガイドブックによれば、広い宮殿の奥にある庭園は
「秘園」という名がついていて、非常に美しいものであるとのことである。私はその
庭園さえ見ればよかったのだが、貴重な宮殿とて、野放しにはしてくれない。
ガイドの説明つきで決まった時間にぞろぞろと宮殿をも見ることになる。
その日、日本語ガイドの下に集まったのは100人以上もいた。

 蒸し暑い中、あっちへ行っては説明を聞き、こっちを見ては汗をふき、広い宮殿を
見る全行程は、一時間半。宮殿には日本のお寺のような彩色が施されていて、全体
としては那覇の首里城に似ている。てことはやはり、おおもとは、紫禁城なわけだ。
実際、思わず映画の「ラスト・エンペラー」を思い出すような、文武百官居並び王様の
前にひれふすべき場所があったが、それは映画よりずっとずっと小さかった。

 肝心の庭はと言えば、池がどーんとあって、これまた首里の龍丹池を思い出した。
建物の一部は池の上に張り出している。丸い窓が左右の壁の同じ位置にあって、
こちらから向こう側の景色が見える。王は池に舟を浮かべて楽師に演奏させた
(これは古の首里城の場合)のか、それとも建物の中で演奏させて(これは現代の
兼六園の場合)自分一人、庭を散歩したのか。私は、後者の方がいい。

 買い物、は例の如くたいしたことはない。だが、悩んだのが、キムチであった。
日本で今一番売れている漬物とは、梅干でもタクアンでもなく、キムチなのだそうで
ある。しかしそのキムチは日本では浅漬けであり、本国から、アレはキムチではない!
と訴えられているほどで、たくさんあっても美味しいものを探すのは難しく、一方で
そこそこ高価である。

 ところが、韓国ではキムチは食事には必ずタダでついてくる。
この味と価格差、そしてキムチの重さを考えると、躊躇するのは当たり前ではないの
か。資料では、「5kgでいいかい?」などと聞かれているが、5kgの重さって
べらぼうじゃん・・・!!←荷物持つのが大嫌い

 もちろんキムチは、飛行機に乗るさい、手荷物にしなければいけない。
妹によれば、そうしなくて泣いた人を何人も知っているそうである。トランクに
入れると、キムチは発酵食品ゆえ、気圧も手伝って・・ということになるらしいが、
それは発酵食品に限らない。ナンプラーなんかもそういうことになった人がいる
らしい。ブランド買いとキムチ買いをした挙句、同じトランクに入れたならと考え
れば、確かに同情に値する。

 ところで、ソウルでの食事はと言えば。
韓定食、サムゲタン、チゲ、プルコギ、豚焼肉と、大体のところは食べてきたことに
なる。間違えて入ったホルモン関係の店はあまりに美しく上等な盛りつけで実に
美味しそうで、モノがホルモンであることを忘れてうっかりそのまま食べたくなった
くらいであった。(次回は食べてみよーかしら。レバー以外ならなんとか??)

 いずれも、キムチや野菜関係のつけあわせがたっぷりついてくる。
サムゲタン(モチ米などを詰めたひな鶏を丸ごと入れたスープ)は韓定食もやってる
店でお昼に食べたが、日本ならそれだけで食事代に匹敵するほどの量のカクテキ
(大根キムチ)がついてきた。おまけに、おかわりも無料。

 実際その店でも、「ハルモニ!!」という大きな怒声にも似た声が聞こえてきて、
振り返ればサラリーマン4人組がキムチをおかわりしたのだった。確かにこのカクテキ
は一切れが異様に大きかったがそんなことよりもとにかく美味しくて、サムゲタンも
さりながら、おわん2杯分にも匹敵するカクテキを二人で残らず食べてしまった。

 チゲは仁仙洞裏手の食堂街の、テジョン・チゲ(味噌鍋)を食べたが、これは
しょっぱすぎてあまり美味しくなかった。が、小さなチゲにはご飯のほかに、キムチ
を含む野菜関係のおかずが5品もついてきて、こっちの方がよっぽども美味い。
それで大体400円ほどなのである。こんな食事を毎日してるなら、成人病になる
方がおかしい。

 アルコール関係も、安い。逆か、日本のアルコールが高価すぎるのか。
1L入りのマッコリ(韓国ドブロク)がコンビニで140円ほどで、ビール中ビンが
食堂で300円ほど。マッコリが低級酒なのはしょうがないとして、「お金持ちは何を
飲むか」と聞いてみたら、「ウィスキーです。」との答え。韓国人は酒好きなので、
ワインやシャンパン程度の低アルコール度の酒では飲んだ気がしないのだという。

 韓定食は、私が食べたところでは、確かに色々出てはきたが、あまり面白く
なかった。ショウも見られるような店だったから、仕方がないのだろう。ガイドの
季さんに聞けば、韓定食はちょっとした行事や、結納、お見合いなどで食べると
いう。なるほど韓定食とは日本における料亭料理なわけか。

 農薬、化学肥料、品種改良、などなどのおかげで農産物の収量が増え、大きくなる
のに時間がかかり、ろくな数の子供も産まない牛を養い、牛肉が日常的に食べられる
ようになったのは、日本も韓国もつい最近のことである。

 不思議なのは、雄の牛は去勢して労役に使い、雌牛は子を産ませつつ乳をとる・・・
のがお約束だと思っていたのだが、韓国料理ではこの「乳」の部分が見えない。私が
知らないだけか、それとも韓国に伝わるまでにどこかに落としてきたのか???
もっとも、内臓の料理こそは日本海のどこかに落ちているはずなのであるが。

 韓国におけるキムチという保存食の存在は、日本における漬物と同様で、まして
唐辛子を好んで用いる理由は冬が厳しいことを思えばごく当然である。が、問題は
その唐辛子が韓国に伝わるまで、どんなものを食べていたのかということなのだが。

 牛肉や唐辛子がなくて、と考えれば日本の昔の食事を想像すればいいのかもしれ
ない。品種改良に化学薬品に農薬、に加えて気候条件が加わると「コメ」問題にも
なるが、やはりコメが貴重品だった頃の話でもある。そう言えば、韓定食を食べて、
何かに似てると思ったが、それは「おせち料理」だった。

 その他、季さんにはチマ・チョゴリについても聞いてみた。
お正月などに着るらしい。あと、お見合いで母親の方が着るのだという。チマ・
チョゴリは邪魔くさくて面倒なので、それを着ているだけでお手伝いさんのいる
裕福な奥様に見えるのだそうだ。ムスメはお見合いの時には着ないが、新婚の
1〜2週間くらいは着るという。(1種のコスチューム・プレイですな?)

 しかし、その新婚の奥様も、ダンナが出勤したら着替えてしまうらしい。
和服のお掃除スタイルに、裾を帯にたくしこんでたすきがけ、というのがあるが、
チマ・チョゴリでも働くときには邪魔な部分を紐で縛ったりするらしい。「でも、
格好悪いじゃないですか。」とガイドの季さんは言ったが、確かに和服の
お掃除スタイルも、それで人前に出るというわけでは、ない。

 食事の話に戻るが、外食についても聞いてみた。
韓国人は、家で食べるのも、外で食べるのも、韓国料理のようだった。韓国の人は
韓国料理が好きなんですねと言ったら、「後は日式ね。」と言う。そう言えば日本そば
とかうどんにのり巻きと、日本料理も人気であちこちにあるのだった。

 日本そばもけっこうイケると資料にはあったが、さすがに試す機会はなかった。
ただ、小さな子供がお箸でスプーンの上にうどんをのせて食べようとしたはいいが、
うどんに逃げられてしまい、しょうことなしに汁だけすする姿は、見た。←カワイイ
何故、わざわざスプーンの上に載せるのかわからないのだが、あちらのお作法では
そうなるのだろう。

 私があまりに色々聞くので、季さんはしまいにゃ面倒くさくなったようだった。
「くだくだ言ってないで、免税品店で買い物だけせんかーい!!」と言いたかったかも
しれない。季さんは年齢からすれば、私よりちょっと下くらいで、釜山大学の
日本文学科を出ていて、卒論は谷崎だったそうだ。なんなら、こちらに質問してくれ
てもよかったのだが。

 それでもなお、キムチを季さんも漬けるかどうか、聞いてみた。
同居してるお母さんが漬けてくれるらしい。昔は時間がかかったが、今はキムチ専用
冷蔵庫というのがあって、それが温度管理をしてくれるので、たったの3ヶ月で
出来るのだと彼女は誇らしげだった。

 キムチはなくてはならないもので、例えば誰かを招待したときにどんなにご馳走を
並べようが、キムチがなければ駄目。最低3種類は並べるものだという。特に男の人
が好むのだそうで、そういえばサムゲタンの店でも経験済みだった。「朝、忙しいとき
ささっとチゲを作るときもそうですけど、子供のチャーハンにも入れるし、とにかく
キムチがないと困るんです。」とのことだった。

 それにしても、そんな風にして毎日食べるキムチなのである。それも、白菜だけ
ではないわけで、最低3種類くらい、それも最低三ヶ月は保つ程の量のキムチを
各家庭ではキープしてるわけだ。どうせデパート行ったなら、家電製品売り場で
キムチ用の冷蔵庫を見るんだった。

 ところで、朝、ささっとチゲを作るということは、韓国ではチゲって味噌汁の
ようなものなのか。たんに、唐辛子やにんにくが入っていて、鍋に入れて個々に
供されるというだけの話なのか?そして、「子供のチャーハンにキムチを入れる」
って、一体韓国では何歳くらいからキムチを食べさせるのか??

 ガイドが女の人なのは、幸いだった。しかし、初日の空港からホテルまでと
最終日のホテルから空港までの車中だけが聞き取りの場だったので、あまり話が
出来なかったのである。まだまだ聞けることはあったような気がする。

 韓国はスローフードの地で、皆、基本的に外でも家でも焼肉やチゲを食べている。
「でなくば日式ね。」と季さんは言ったが、韓国には老舗と名店が存在しない(儲かれば
上位のヒエラルキーの職業に商売替えするのが常識だそうで、親の仕事を継ぐのは全く
親孝行にならないそうである)だけあって、その日本式のようには価格差もアレンジ
もない。てことは、韓国料理を一通り食べてみることは、案外簡単かもしれない??

 非常に美味しそうに見えたのは南大門近辺の、偶然通りかかった食堂街だった。
日本のようにロウで作った見本が置いてあるというのが怪しいと反射的に思いつつ、
ハングル文字を読むことを考えてみれば、ありがたくもわかりやすかった。パイプの
三脚イスなんか置いてある普通の食堂で、市場の人達も買いだしの人もそこで食べて
いるのだろう。是非、食べてみたかった。次に行くことがあれば、食べよう。

 もうひとつの懸案は、民族酒場である。
割と普通の韓国的つまみなどいただきながら、マッコリを飲んでみたい。ただ、
これをやるには、ハングル文字と、例によって食材と、少々の料理法を覚えなければ
ならない。だが、なんとかなるだろう。多分。

 ・・・いつものことながら、懸案だけが増えて行くのであった。

                                 8月19日