ウィーンからプラハへ
その日から、プラハに行くことになっていた。
起床は朝6時。朝食を食べる夢を見ながら目覚めた。冷たいチーズやハムがいくら
朝食のビュッフェに並んでいても食欲がわかないが、食べないのももったいない、
美味しい食べ方はないものかと無意識なりに考えていたらしい。
それでベッドの中でうつらうつらしながら、そう言えばオープン・サンドという
ものがあった、黒パンは断面を大きく薄く切って、その上にチーズやサラミ、そのまた
上に、更にキュウリの薄切りを載せてナイフとフォークで食べたらいいんだわ!
って、夢でこんなことに気がつくというのもなんだか。
夢は現実のものとなり、その日の朝食はことのほか充実したものとなった。
部屋でホテルをひきはらうための支度をする。飛行機は11時半。十分、間がある。
ホテルから空港まではタクシーで行くことにしていた。ホテルでタクシーを予約する
手もあったが、理屈からすれば、ホテルに渡る利益の分だけ高価になるはずである。
幸い駅は目の前なので、重たいスーツケースもそれほど苦ではない。(何度も
書くが、ウィーン市内から空港までの交通費は二人いれば公共交通機関とタクシーとは
大して差がなくなる)駅からタクシーに乗る。時間にして35分、値段は35ユーロ。
来た時と全く同じ値段であった。
私たちが乗るのは、オーストリア航空と提携するところのチロリアン航空!である。
指定されたゲート前の待合室は狭かった。距離にして100kmほどのウィーンから
プラハまでを飛行機で旅する人々とは?飛行機まで、バスで行くことになるのだが、
目立ったのはアメリカ人のおばさん達である。他は個人旅行だったが5〜6人ほどで
きゃぴきゃぴしていたからである。が、そのおばさんたちもバスを横付けした飛行機
をみた途端、表情が変わった。小さな小さな飛行機だったからだ。DASH8-400だと。
私は、那覇から宮古島までジャンボ機で飛んだことがある。
で、それがこの話とどう関係があるかといえば、乗客数によって飛ばす機種が
変わるのは当たり前、ということである。ウィーンからプラハまで、電車で4時間、
車でどれくらいかは知らないが、とにかく陸路という選択があり、飛行機に乗る
必要は少ない。
アメリカおばさん達は、うれしそうにイヤそうな顔をしている。
私だって、自分が空中にいるという実感がありすぎる飛行機は怖い。私の頭には
「ウィーンからプラハに向かうチロリアン航空402便が墜落、邦人2名が乗って
いたもよう」という字幕テロップの原稿が浮かんできた・・・。
その日乗ったのは30人ほどで、前の方にある30人分ほどのビジネス・クラスは
がら空き。座席前のポケットを探ってみたら、予約して食べる簡単な朝食の
リーフレットが入っている。それは実に簡単なパンと飲み物であり、同じものが
冷たいままか温めるかということで値段が変化するのであった。
内心ぎゃーぎゃー騒いだ割には、チロリアン・エアラインは30分遅れで出発、
45分後にはなんてことなくプラハに到着、市内に向かう10人乗りの空港バスに乗れば、
12時半には市内にたどりついていた。
10人乗りの空港バスとはいかなるものかといえば、主要ホテルをまわってくれる
わけではなく、市内の一定地点と空港とを往復するのみというもの。タクシーは
どうかといえば、プラハのタクシーはウィーンと違って「交渉が必要」といった部分が
あるらしいので、パス。そして、幸い空港バスの発着所は自分達が泊まるホテル
のすぐ近くにあった。
同じバスには日本人の女の子がいて、イタリア語を勉強すべくミラノに住んでいて
プラハを見物に来た、と言う。これが何故かお金の話となり、私たちの日本からの
航空券が10万少々というわけで、盛り上がった。
オーストリア航空は便数が少ないので多少安くもなるらしいが、そのおかげで私達は
予約がとれるか否かでやきもきもしたし、ウィーンにもう1泊することにもなった
のである。・・・もう1泊??今頃になって思うのだが高いのか安いのか??
選択の問題、というか選択の幅と方向の問題ではある。
ちなみにホテルの予約は日本の旅行社に頼むと同じホテルの部屋が倍額になる
ことが判明。それでマニアの夫が値段にして100ユーロを目標に自分でネットで
探したわけなのだが、他のことはともかく今回は交通の便利だけは良かった。
・・右も左もわからない異国に暗くなってから到着した挙句、道を聞いた人には
反対方向を教えられ、重たいスーツケースを抱えて困りきった経験を持つ人としては
妥当な判断ではないだろーか。今頃かい、とも言いたいが。
最初のウィーンのホテルの位置付けとしては、東京駅前の八重洲ホテルみたいな
ものではなかったかと思う。通路のカーペットは古かったし、毛布を頼めば1枚しか
来ないし。もっとも、1枚しか来ないのはワケがあって、「頼んだ」にも関わらず多分
チップを置いておかなかったからではないかと??天井は高く、便座は冷たく、
普通のホテルだった。つまり、部屋にズボン・プレッサーがあるという程度の。
(高級ホテルなら部屋にこんなもんがあるわきゃーないのだ)
話を戻す。何故か「空港バス」という名前の10人乗りのワゴン車はぶんぶん走り、
ブルダバ(モルダウ)にかかる橋を渡ったところで紅葉に囲まれた王宮が見えた。
「うわー、きれい!」という歓声があがって、それは自分のものだった。王宮だけでは
なく、とにかく尖塔の街は美しく、後に「宝石箱のようらしいね」と言われたときには
「全くその通り!」と答えたものだ。
空港バスが停車したのは、ホテルからほんの3ブロックほどのところだった。
実のところバスの中からもホテルの看板が見えて、だから昼日中とはいえ、本当に
安心したのである。部屋の準備が終えるまで、ほんの10分ほど小さなロビーで
待つ。ガラスのテーブルに、白い八重咲きのカランコエが置いてある。それだけで
気が静まっていく。
こじんまりとしたこのホテルは古くからあって、何年か前には改装もしている
とのことだった。派手ではないが、長年手堅く長年旅人のお世話をしております、
みたいなホテルである。部屋は角部屋、ウィーンより狭かったが、天井燈があって
明るい。窓の片方からは美しい建物が見えて、ユダヤ人街に面した方からは一戸建て
らしきものが何軒かと、いずれにせよ悪くない。
問題は、どことなく間抜けくさいということ。例えばバス・ルームの鏡はゆがんで
いるし、トイレットペーパーのホルダーははるか彼方に取り付けてあって、使おうと
するとぎっくり腰になりそうだし、ズボン・プレッサーはコンセントが届かないので、
置き場所からいったん取り出して、非常に邪魔な状態で使うしかない。しかし、
それでもちゃんとお湯は出るし・・・ま、いっか、なのであるが。
荷解きを終えて、外に出る。屋台でシシカバブを買って、お昼。
その後、今日のところは徒歩で行ける共和国広場を見てみようということになる。
もちろん?名所への道はみやげ物屋だらけだった。名物はガーネットと琥珀、ガラス。
古本屋というのか、古い植物画や地図などを売ってる店もあった。
広場をのぞむ、市庁舎の展望塔からプラハを見ることにした。
夫はチケットを買いに、その間に私はチケット売り場横の階段下のトイレに。
しかし、先に下りて行った何人もの女の人が苦笑いしながら続々と上ってくる。
そしてご主人らしき人から小銭をもらって・・そう言えばチェコはトイレにお金が
要るのだとガイドブックに書いてあったっけ。
日本の物価の高さ、それは公共交通機関や食品に対しても容赦がないが、トイレ
だけは無料だ。だというのにここは。ううー。5チェココルナ。ってことは約25円。
3人くらいでわやわやとトイレ担当女性に向かっておつりだなんだと言ってる隙に
するりと入ってしまった人もいた。
社会主義下においては弾圧された知識人達が掃除の仕事にしかつけない、といった
こともあったらしい。現在の担当者達はどうなのか。それが雇用を生んでいることは
確かである。問題は彼らがお金をとるからと言って、必ずしもきちんと整備をして
いるわけではない、ということなのである。
つまり、掃除もしていなけりゃ、紙も置いてない・・・。
だが、彼女達は甘い。私はそのうえに、「カギがついていない」というトイレを2箇所
経験することになるのである。ムカムカ・・
塔の上から見るプラハは美しかった。実のところは、そんなところに上らなくても
どこから見ても美しかったのであるが。既に夕刻だった。ブルダバ(モルダウ)川を
見ながらレストランを物色しつつ一度ホテルに帰り、その後出直して食事に行こうと
いうことで意見が一致。10月半ばのことだったが、それほど日は短くない。
裏通りを足元の犬フンを避けて歩いていたら、途中、映画の撮影をしているところに
さしかかった。役者が身に付けていたのは鹿鳴館みたいなドレスで、シャーロック・
ホームズの映画に出て来るような自転車も置いてあった。もう、ほんっとに乗り心地
悪そうな自転車で、あれを見たらついでに「ぢ」という文字を思い出した。
撮影現場の近くには何軒かレストランがあった。最初に目をつけた、いかにも
土地の人が通いそうなレストランは本当に土地の人ばかりらしくタバコの煙で霧が
かかっているのでパス。広場をはさんで反対側の、窓にレースのカーテンがかかる
レストランに決定。ちなみにどう決定するのかというと、表においてあるメニューの
値段、である。私たちは、たまにゃー贅沢をしたい気持ちはあってもしないが、
だからといって旅先で必要以上に節約する気もない。
生ビールは大ジョッキ(1リットル)入りで、レストランでも日本円で300円ほど。
(飲み貯めが効いたらどんなにいいか・・・)ここでの食事は、前菜は魚をスモーク
したのにオニオンを添えたもの、メインは名物、鯉の揚げ物に揚げたジャガイモ添え。
夫の方はチキンサラダとこれまた名物のガルーシュ。(チェコ名物のクネドリーキ
という小麦粉だんごを添えたビーフシチュー)
量はそれほど多くない。普通に食べられて、不味いわけではなかった。
しかし、面白みがない。個人旅行で旅先のレストランとくれば、へえ!と叫ぶような
ことがあってしかるべきだと思うのだが。一体全体、こんなものなのだろうか。
ここではワインも飲んで二人で1000コルナ。日本円で5000円くらい。