ウィーン2日目

まだ身体はウィーン時間に慣れない。
助かるのはウィーンのレストランが早めに始まることで、現地時間では「早寝早起き」
日本時間では夜更かし朝寝という状態から徐々に身体を慣らせるのだ。その朝も、
だからゆっくりと朝風呂をつかった後、7時に朝食に向かう。朝早いだけあって
レストランの中の人影はまばらだが、それでも必ず先客がいた。隣のフランツ・
ヨーゼフ駅から旅立つ人々なのだろう。

 私達はまだ旅立つこともなく、のんびりと食事をとる。その朝はクロワッサン。
でかい。普通ののゆうに3倍はある。コーヒー・ポットは各々のテーブルにあるので、
給仕を呼ばずに済む。なんだかんだとしゃべってはカフェ・オ・レを飲むことになる。

 そこまでは良かったのだが、夫、部屋に帰ったらまたベッドに倒れこみ、少し寝る
と言って10時までも眠ってしまうのである。忙しいツアーではなく、目的がある
わけでもないのでのんびりとガイドブックを読んだりして起きるのを待った。

 10時半、ようよう起きた夫と地下鉄ではなく今度はトラムに乗って美術史博物館
に足を向ける。これもまた王宮の建物のひとつにある。王宮前広場から、向かって
右が博物館、左が美術史博物館、それでそのまた左がフランツ・ヨーゼフが蒐集した
武器・甲冑博物館(後でわかったが、ここは楽器博物館も兼ねていた)、といった
具合なのである。

 ガイドブックには、美術史博物館とある。なんで美術館でないのか??
ここの良いところは、あまり混んでないということ、そして大作の部屋にはそれなりの
距離をとって椅子があること。こんなに空いているなら横になって寝るぞ、って感じ。

 ゴヤの特別展だけが混んでいたが、そっちは割とどうでもよく、ベラスケスの
マルガリータが3枚、年代順に並んでいた方にウケた。最初の1枚はやっと立って
いる頃(いっちょまえにドレス着ている!)から始まって、3枚目が誰でも知って
いるアレである。もしかして、あれって見合い写真??調べてみなければなるまい。
それより、ベラスケスの自画像が良かった。

 誰でも見たことある絵としては、ブリューゲルの「バベルの塔」とかあったが、他には
記憶にない。エリザベートの化粧道具なんぞも展示されていたが、美術的に価値のある
シロモノだからここに置いてあるのはわかったとしてもこの道具、歯ブラシ(当時は
さぞ高価だったことだろう)と鏡、毛抜き以外のいくつものソレは、何にどう使った
のか私にはよくわからなかった。

 どうもプラドやルーブルに比べると薄味である。あっちならば美術に興味のない
人間でも食欲なくすほどなのに、と失なことを思う。これでもかー、どうだー、
とばかりに迫ってくる宗教画が少なかったからだろうか?その後、美術館のカフェで
コーヒーとケーキで昼飯。ここのケーキは、スミレの砂糖漬けを買った店から運ばれて
きているとのことである。

 それで私はショウ・ケースまで足を運んでケーキを選ぶことになるのだが、ちょっと
やそっと目先を替えてみても結局はチョコレートケーキ、が多かった。なんでここの
人たちはこんなにチョコレートが好きなんだろう??チョコレートケーキがめざす
ものは結局チョコレートでしかないと思うのだが。

 美術館のカフェは混んでいて、座りたい人々が終わりそうな席の周囲をうろうろ
していた。私達が立ち上がると、さっと座ったのは40代らしき男の人で、同じ
ようにして待っていたのに座りそこねたオバサマの大げさな失望の視線に耐えていた。

 外は雨が降り始めていたが、驟雨といったもので、カサをさしていない人もいる。
雨なので、隣の武器・甲冑博物館にも入っておくか、とこうなる。武器とついて
いても主にコレクションされているのは甲冑で、中にはスペインのフェリペ2世の
ものもあったし、日本の鎧も置いてあった。日本の鎧兜はギリシャの戦争博物館にも
置いてあったが、あちらの甲冑に比べいかにも頼りない。ところで、先にも書いたが
この博物館は楽器博物館と共通で、同じ入場券で甲冑も見られれば古い楽器も
見られるのであった。なんか、うれしくないんですけど。

 博物館を出て、トラムに乗る。
リングと呼ばれる環状線となっているトラムで1周しながらその周囲にある主な名所、
国会議事堂だのオペラハウスだのを眺めるのである。24時間チケットで、乗り物は
乗り放題。座席はクッションなどなく、左右にガタガタ揺られながら見ることになる。

 元々このリングとは人口が増えるにつれて邪魔となった城砦を壊した跡地で、
だから環になっているらしい。それはいいが、城砦といえば川やがけに守られた
丘の上にあるはずなのに、ウィーンはひたすら平らである。余程背の高い城砦であった
とみえる。でなくては用をなさないではないか?

 ケルンストナー通りでトラムを降りてファッション・ビルの中の無印良品、という
よりはロフトのようなものか、とにかくカワイイ物屋で買い物、私はラッピング用の
リボンを買う。日本ではメートル売りだが、こちらでは一巻で買う。長さは決まって
ない。10mのものも3mのものもある。

 既に夕方。別のトラムに乗って、ホテルに帰るべくフランツ・ヨーゼフ駅を目指す。
ホテルがこういう名所??のそばにあると、土地カンがないうちは非常に便利である。
土地カンが出来て後は、「東京駅の近くみたいで、街がいまいち面白くない」という
評価に変わってしまうのだが。

 近くのビア・パブで夕食をとる。しかし残念ながらここは食事をとるというよりは
ビールを飲みながらなんだかんだとおしゃべりをするところらしかった。そして
タバコを喫うのは南の方だという認識は間違っていたらしく、ここでは皆、思いっきり
タバコを喫っては煙の中で楽しそうにしていた。

 食事はタラを揚げたものと、コルドン・ブルー。コルドン・ブルーとはフランスの
料理学校の名前だが、あちこちのメニューでこの名前を見た。どういうものかといえば
肉にハムとチーズをはさんでパン粉をつけて焼いたもの。ミックス・サラダを注文
したが出来ないとのことで、普通のサラダを注文。そしたらタラの横に同じものが
添えられてきた。なんだかなー。

 そしてここはビールを飲ませるところなのに、なんーとなく水っぽかった。それで
黒ビールでも飲んでみるかと世界のメニューなるアンチョコの、ドイツのページを
広げてみたら、黒ビールという単語もハーフ&ハーフという単語も出てないのだ。

 今頃になって気がつくのもいかがなものかと思うが、これは旅行先の美味しいものを
試すためのガイドではなく、失敗なく、いつもの食べ物とさして変わりばえのない
ものを注文するための本なのであった。が。ドイツなのにビール関係の言葉が
出てないって一体??

 仕方ないので、「スタウト」やら「ブラック」やら言ってみるが通じない。それでは
なんと言えばいいのか。答えはこの後足を延ばしたプラハで判明するのである。
しかしこの時点ではなんだかなーと言いながらホテルに帰るしかなかった。
食事・ビール代 29ユーロ。