残暑見舞いのソナタ
それは都心で気温40.2℃、湿度26%を記録した日。
駅のホームのCD屋の、棚の見本の中で見つけた。
その名も、「放送禁止歌謡曲集」という。
一番最初に入っているのが「金太の大冒険」。知る人ぞ知るこの歌がどんな内容
なのか、私もうすうすは知っている。しかし、歌詞の雰囲気を知っているだけで、
流石は放送禁止、現実に曲を聴いたことは1度もない。
「金太」のほかにも、怪しいんだかそうでもないんだか、わかるようなわからない
ようなタイトルが並んでいて、カバーには、「カラオケで大人気」と書いてある。
カラオケ!冗談じゃない、そんなエロ歌、誰に向って歌えというのであろう。
何よりコワイのは、覚えてしまうことではないのか。ぼーっとしてるときに
口ずさんでしまって、それをペ・ヨンジュンに聞かれたらどうしたらいいのか。
ペ・ヨンジュンに聞かれることはないにせよ、誰かが歌ってる途中から、ついつい
ぼけっと続きを歌ってしまい、しかもそれがハモってたりしたら!?
そして、どうにも気になるタイトルがあって、それを「吉田松蔭物語」という。
あの吉田松蔭の何をどうすればそっち系に転ぶのか。ちょっと聞いてみたい。
聞いてみたいが聞きたくない。いや、いっそ1度聞いてしまえばいいのかもしれない。
しかしそのために2000円も出す気になれないし、大体がとこそんな歌ばかり集めた
CDなんて、ウチに置きたくない。それでも気になる。問題のCD屋がある
プラット・ホームに立つたびに眺めてしまう。
夫は、吉田松蔭の歌の内容はなんとなくわかる、しかし自分の口からは言えない
と言う。そうか。しかし、夫が言えないからと言って、やたらな相手に聞いていい話
でもないだろう。だが、そう言って悩む私に夫は答えたのである。
「そんなの、ネットで検索すれば、一発で出て来るよ。」
そうか、その手があったか!だが、未だに実行に移す決心がつかないでいる。
知りたくもあるが、知りたくもないからである。もちろん、親切に私に教えてくれる
人とは、なるべくならすみやかに絶交したい。
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文通相手の友人がインターネットをはじめてしまった。
「ぶっこわすつもりでやれば、すぐ馴れるよ。」という、ナイスな御主人の助言を
モトに、デジカメで撮った写真をプリントした紙を便箋代わりに手紙を寄越したり
する。だが、あくまでもそれは郵便で送られてきて、E-MAILではない。
彼女も書家のはしくれ、紙や手で書く文字を捨てきれないようだ。
本当に、よくまあ私の書く、人格そのもののちゃららんぽららんの文字によく
付き合ってくれるものだとは思っていたが、向こうは文章がちゃららんぽららん
なのでお互い様なのかもしれない。
今年もその彼女の誕生日が来てしまった7月。7月が誕生日というのは、
なんとかならないものか。なるわけないか。しかし、プレゼントを選んでいる
つもりでも、お中元を選んでる気分になってしまうではないか。
私らしく彼女を想う場合、どうするか。というわけで、今年は伊東屋に行った。
メインは、カワイイ便箋を中心とした紙モノにした。自分で買うのさえ惜しいほど
カワイイ、とぼけまくった便箋。だが、彼女の文通相手はこの私なのだから、
いずれは私のモトに帰って来るのだ。←イヤなプレゼントですね、よく考えてみると。
他にはダイエットしてる彼女のために、子豚のシールも何種類か、バレリーナの
シールと一緒に入れてあげたりする。そして、絵も描く彼女のために芯だけを長く
残して削れる美術系用のエンピツ削りはいくつあってもいいからと入れて、ついでに
見つけた横文字の説明のついた鼻毛切りもキメすぎから「外す」ために入れる。
それはどういう仕組みになのか、同じ鼻毛切りでも「回転」するらしく、伊東屋は
「回転鼻毛切り」という名称で売っていた。箱には鼻毛のほかに耳毛を切っている絵も
ついていたから、地球上にはこれをぐるぐるさせながら鼻毛も耳毛も一緒の道具で
切る人々がかなりの人数、いることにもなる。が、あの地方でそんな面妖なもので
鼻毛を切ってるヤツなど他にはいるまい。してみるとこれもキメたことになるのか?
数日後、電話が来た。御主人と二人で伊東屋の包みを端から開けて盛りあがった
らしい。地方に住んでるくせにへんなものを一杯持ってる彼女だが、問題の鉛筆削り
は見たことがなかったという。当然、夫婦に必要以上に話題を提供したのは
鼻毛切りだったようだが、ここまでは予想通りだった。
「それはともかくさ、あの便箋使うのって楽しみじゃない?私もあの便箋使って
もらうの楽しみにしてるから〜。」・・・そう言ったら彼女は電話の向こうで笑った。
「使うわけないじゃない。」へ?すると?
「なおすのよ。」なおすって?
彼女が「うふふもの部屋」を持っていて、美しすぎて現実生活では使うに使えない
ものを全てそこに置いてあるとは聞いていた。だが。「あんたのくれたのって、
可愛いすぎる。これはやはりあの部屋に永久保存しないと。タンスを買って入れて
おいて、時々眺めて暮すことにする。」げええっ?
そういう部屋があるとは聞いていたが、それは金沢の、最後の職人による和傘
(最近TV番組で見たところによれば、女の弟子がついたという。しかし当時は
最後の人だったのだ)を送ったときに聞いた話であって、だから骨董とか記念の何か
とか、そんなものばかり入れているのだと思ってた。
「大体ね、紙というものは、長く保存した後で使うものなのよ。」って、それは
和紙の話で、カエルやブタの便箋には通用しないと思うのだが。
それなら、問題のタンスをなる早で一杯にしてやろうかと思う。
紙モノは安くて重い。床の補強工事に持ち込んでやろうではないか。
来年は、丸善あたりでもいいかもしれない。
懸案は、鼻毛切りに代わる、サプライズな品物が見つかるかどうかなのだが・・・。
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ある日、生後8ヵ月になった大福を連れた妹夫婦がやってきた。
何も置いていない8帖の仏間で、這うお稽古をさせようというつもりである。
機嫌の良いところを見計らってうつぶせにする。ちょっと手の届かないところに
気をひくものを置いておく。すると。
イヤがって泣くのである。ダメじゃん。それでもと色々工夫したのだが、
泣き声に耐えかねた義弟が抱き上げてしまった。大福はしばらくメソメソしながら、
泣いても助けなかった私と母親である妹の両方を父親の腕の中からかわるがわる
非難の目で眺めたものである。
それから後はと言えば、大福を置いて妹夫婦は2年ぶりに二人っきりでラーメンを
食べに行った。彼らが帰って来る頃には、大福はカーテンに夢中だった。あっちに
ひいてみたり、こっちにひいてみたり、シャッという音と共に布があふれ出て来て、
身長90cmの大福が白いレースで全く見えなくなったとき。大福はそのカーテンで
「つかまり立ち」をしていたのだった。
大福は傍に人がついていないと泣くと聞いた私は、それなら一緒に姿を隠してみよう
と妹に持ちかけて、叱られた。大抵の場合、私は大福の見張り役として行くので、
大福を一人にしたことなどなく、だから泣くなんて知らなかったのである。惜しい。
人見知りも、自分がされたことがなかったのでどういうものかわからなかった。
久しぶりに会う母(祖母)を、きょとんとして眺めている様子で、大福なりの人見知り
の状態を知ったのである。(私の場合は、顔を見て2秒後くらいに、にへらーっと
笑うが、あの笑いに意味があるとは思っていなかった。)
それはいいとして、私には火急の懸案がある。言葉を使いはじめた大福に私のことを
なんと呼ばせるべきなのか、考えねばならない。妹のバカタレは、今でも私のことを
「ロッテンマイヤーさん」と呼ぶ。説教しながらミルクを飲ませていた頃の名残である。
が。それはイヤだ。かといって、「オバさん」もつまらない。
何かそれらしい呼び方(呼ばれ方?)はないものか。頭痛い。
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