引越し後
というわけで、家が出来上がった。
引越しは、やはり大変だった。本が多いだけならともかく、夫の荷物が重量級で、
延々と続き、いくら運んでも終わらない。元気な引越し屋さんも流石に疲れてきて、
それが見えるのでこちらは申し訳なく、見てるだけのこっちまで疲れるのである。
思い起こせば転勤族の頃。引越し屋さんに向かって「すいませんねえ、皆さん。
今日の仕事はハズレです。」と言っても誰も否定してくれなかった。今はあの頃より
荷物も本も増えている。モノつくりが好きで、それが重量級の道具を必要としていて、
そのうえに「転勤」がついてくる男と結婚するとこういうことになる??
「最後の引越しじゃーないか、次の引越しは天国だよー。」と、暴言を吐く夫に、
あんたと一緒に荷物が自動的に天国に行ってくれるなら文句はないわよ!とは言えず。
「あほー、これからもまだ引越しがあると思って生活するに決まってる!」と言った。
家が建った後、工務店の社長がいやに優しくなった気がする。
終わってみれば、きいきい怒る奥さんの、怒りにも一理あったのだと、わかってくれた
のかもしれない。着工前前からの奥さんの怒りの原因はただひとつ、家に対する彼女の
たった二つの希望の片方、天井まである本棚が小さすぎるというものだった。
夫の方は図面も見積もりも読めるし、何よりもスライド・ルーフという大物の難物を
抱えている。社長は油断がならない夫の方にかまける一方で、奥さんくらいは
フツーの人で、まさかマニアの妻もマニアだとは思ってもみなかったのだろう。
「夫は、数学は出来ても算数が出来ないんです。」と言ったら社長は困った顔で
うなづいた。そういう奥さんは数学どころか算数も怪しいが、今回ばかりは奥さんの
算数で計算が間に合ったのである。
結局机を処分してその場所に本棚を増設することになったが、その本棚を置いても
まだ本は平らに収納できない。2重に収めた本棚の床はもちろん補強されていて、
床が抜ける心配はないのだが、新しい本棚の下は、普通の床である。将来、本が
増えてしまっても2重には出来ない。←今から考えることだろうか??
友人が、「家を新築すると、新婚時代に戻らない?」と聞いたが確かにそうで、
しばらく二人はケンカばかりしていた。
引っ越して10日もしないうちに両親と妹夫婦が来た。
ダンボールが山積みの状態だったが、話は逆で、それを言い訳に使えるうちに呼んだ、
というか勝手にやってきたというか。「大安だから。」というのが母の言い草だ。
おもてなしはお寿司と毛蟹にした。毛蟹は雨の中、北部市場まで足を運んで調達。
しかし「この家で毛蟹が食べられるとは!!」と言われたのには驚いた。
ズワイなら箱で送ってやったこともあったのに。母にとってそんなに毛蟹がステキな
ものであるとは気が知らなかった。確かに、実家の方ではカニといえば冷凍である。
その日もなんとなくズワイにしようとしていた。だが市場のおぢさんに見せられた
1箱5000円(3杯入り)のソレはあまりに巨大だった。雨の中持ち帰るにはちと重た
すぎるし、タクシー呼んだら市場まで来た意味がなくなるし、大きいだけあって
ドラム缶でも探して来なければ茹でられそうにない。それで同じ値段でも手に負える
大きさの毛蟹にしたのだ。
夫の趣味の天体観測用スライド・ルーフ(読んで字のごとく?屋根がすべって開く)
は建前の時から注目されていた。ヘンなものだと思われてはイケナイので、まだ
段ボールが残るうちにご近所の人を招いて観測会をした。これで済むはずだったが
とてもとても気に入られ、次回を予約されている・・。ヘンタイさんと思われなかった
ぶんマシかもしれないが、そんな社交的すぎる生活、めんどくさい。
夫とはお互いの趣味にはノータッチだ。大体、敵はマニアックな理数系なので聞いて
みても私には何を言ってるのかわからないのである。「光電計測」とやらをしていると
言うが、「パソコンを使って星の光の明るさを計測してるんだ」・・・と言われても。
「無線用アンテナを立てて人工衛星と交信する」・・・と言われても。
それの何がどう楽しいのか、誰か私にわかりやすく説明して欲しい。
誰しも問題にしたい家の中はといえば。
「何か、新しく買ったものあるの?」と聞かれてやっと思い出した。
そう言えば世間とは新築ついでに車まで新しくするものだった、ということを。
家が機能ならば当然家電製品も家具も機能だと思う私は、15年前に買った冷蔵庫と
洗濯機で満足し、平気で新居に持ち込んでいるし、テレビも替えてない。
昔からの家具に囲まれて暮らしていると、ただのんきに落ち着いて、自分の家という
よりは「今回の社宅」という感じさえしてくる。社宅は会社のものだけど、夫が
会社で働いて建てたお宅だから、これも一種の社宅かもしれない??わはははは。
家なんて困らない程度にあればよいと思っていたが、科学の進歩はもれなくついて
来る。床暖房がこんなに良いものだとは思わなかった。おかげで私は何かというと床に
寝転がっている。そうすると床のゴミが良く見えるので、床掃除もする。ホントに。
昔床暖房はとても高価だったらしい。
しゃべる風呂とバカにしていたソレの声は、異様に明るい。「湯張りをします」とか
言われると「はーい」と返事をしてしまう。(夫は「ご苦労さん」と言うらしい)
設定温度のお湯が出てきて、そのまま自動的に設定温度を保ってくれる。湯練は不要、
私が入ってる途中で死んでも、湯温だけは半永久的に一定。多分。
ところで、外壁と内装クロス、床、ドア、風呂、台所、などなど自分で決めるのは
とってもとっても怖かった。失敗は内装クロスの、布目は貧乏くさくなると後で発見。
トイレやお風呂の壁紙は他と雰囲気を変えた方がいい、と言われたがそれも出来た後で
理解できた。仕方ないのでハデなトイレカバーでカバー?している。
床はもっともっと暗い色でよかったと思う。
暗い色だとゴミが目立つといわれたが、逆に目立つがゆえに掃除しやすい。
台所を対面式に出来なかったのは残念だが、対面式にしても失敗と感じたと思う。
どっちも成功でどっちも失敗、である。
対面式の良いところは、対面式である以上に収納場所が多いことだと思う。
逆は逆で、つまり収納場所が少ない。おかげでこれといって不満なくつきあってきた
20年モノの電子レンジと30年モノの電子オーブンを処分、新品でひとつに統合する
ことになってしまった。ちと悔しい。客用の器は納戸行き。これもちょっと悔しい。
父がヒノキとケヤキをくれたことは書いたが、その一部で玄関に花置きを作られて
しまった。インターフォンのおかげで来客は門までとなり、玄関を開けられることも
なくなったのに、花を活ける義務が生じてしまったのである。オブジェのようなもので
代用は可能だが、やはり植物の方が決まる。活けると後ろの布目の壁紙の貧乏くささが
見えなくなりもする・・。トホホ。
そんなこんなで、私にとってのこの家の自慢は、やはり作りつけの本棚と、
日当りと見晴らしが良いベランダである。夫に聞けば、同様にしてスライドルーフと
書斎兼作業部屋(町工場と本棚と机の部屋と私は呼んでいる)と答えるであろう。
さすがに、冬、暖かい。以前の家はとにかく寒かった。
無駄に窓ばかりある家で、夫はその一枚一枚にシートを張っていた。寒さ対策も
さりながらやれることは何でもやって、「50男の休日を吸い取る家」とまで呼んで、
もはやこれまでと矢折れ刀尽きた感じで(ついでに転勤の心配がなくなって)
プロの手を借りることにしたのである。本棚もベランダもオマケでしかない。
やっぱ機能だよなー、少なくとも、ウチでは。
家に対する理想、低すぎ?