うちの進化論
私がするべきことはなにか。
一時的にせよ、妹とその赤ん坊の面倒を見ることになった私は考えた。
聞けば友人も、義姉が出産したときには、お世話に出向いたらしい。
彼女に言わせれば、「他人だから言えないこともあると思って気を使って、
その分余計に疲れたわ〜。」とのことで。
その点、私のがお世話する相手は、一緒に育った妹である。
気を使うことはない。というか、気を使わなさすぎてケンカになる
恐れはあるのだが、敵さんもこのウチを追い出されたら行くところは
なく、私は私でそこまで追いこまれている相手に向って・・・ああ、
私ときたら、一体全体「姉妹の愛」という言葉はいつ、出て来るのか。
ともあれ、彼女の分の家事関係はもののついでに行うことになる。
母親というものになった妹に必要なものはまず「休養」なのだから、育児以外の
心配を取り除いてあげて、なおかつ哺乳類としてのツトメを果たしやすい
食事を作ってあげて、と〜。
というわけで、高カロリーを避けた、野菜中心の食事を作った作った
作りまくった。どうも最近買い物が重たいと思っていたら、時節柄白菜だの
大根だのを必ず買ってた、というくらいである。
妹はと言えば、おとなしく食べておとなし寝ておとなしく赤ん坊の
オムツを替え、おとなしく乳を出していた。って、これまたヘンな言い方だが
仕方がない。目的が乳なら、手段は母・・・く、くだらんっ!!
ところが、その妹がある日、もそもそと言ったのである。
「おねーちゃん、なんか、この家の食事ってさあ・・・。」
げっ。「何か問題ある?例えば料理が粗雑であるだとか?」
「いや、うちより丁寧だと思う。」「そんじゃ、素材?もっと変わったものが
食べたいとか?」「いや、十分変わってると思う。ただ、何かが足りないの。」
私のココロの中では、むくむくと疑問が湧いている。何が足りないというのか!?
しばし後に、うなずいた彼女は言った。「わかったよ、おねーちゃん!」
「何?何が足りないの?」「・・・あのね、糖分と塩分だった〜!!」
こ、こ、このばーたれが!!
なんだかもう、なんだかもう、なんだかもう・・・。
しかもその後妹は、出産のために清い食事ばかりしてきたということもあり、
ここはひとつ憂さ晴らしに思いっきりカラダに悪い食べ物を食べたい
などと言い出すのである。
力いっぱい却下したのは言うまでもない。
xxxxxxx
赤ん坊が誰に似てるか、というのは大問題らしい。
似てるの似てないのいう話を聞くたびに、それって本当に後々に残したいほどの
遺伝子なのかと聞いてみたくなるのだが、現実にそんなことを聞いたら
知り合いは全くの他人となり、本当の友人には怒られたり説教たれられたりする
ことであろう。
遺伝子を残すことは重要かもしれないが、どうせならよりよく生き残り、
次代の優秀な遺伝子を獲得するために有利なものだけを伝えてあげたいものである。
なんのことかと言えば、私の母にして姪のおばーちゃんである。
一目見て一言、「まあ、この子は色が白い!先様に似たんだね。良かった良かった、
良いところだけをもらえばいいからね〜。」と、こう言ったそうである。
私の母は物心ついてからずっと色黒を気にしていたらしい。
ムコ殿とその一族は色が白い。別に母がムコ殿を選んだわけではないので、孫が
色白であることはちょっとした棚ボタだったわけだ。
・・・定義としては派手だが、例が卑小であることは認ざるを得ない。
が、俗人とはこんなもんであり、世間は俗人の塊で出来あがっており、俗人の
支持を得なければ最低限楽しい人生もあり得ないというのもまた事実。トホホ・・・。
というわけで、南の人間なのに色白な(これは非常に有利なことらしい)一族の
一員である夫は、赤ん坊に向って言う。
「お前は別に色白の美人でなくても、バカでもかまわない。どこか似なければ
ならないとしたら、叔母さんやお母さんみたいに男運が良いところが似ればいい。」
・・・ええっと。回りくどい自画自賛ともとれる発言であるうえに、それを聞いた
義弟はヘンな顔をしていたが。その内容が、意味が通じなかったからか、それとも
生後一ヶ月にも満たないうちから「男」の話なぞはやめてくれと思ったかは
判別できなかったが。
理屈としては、夫の言う通りである。コドモ、その究極の目的を思えば
そういうことにはなる。しかし男運と言われてもなあ。ダーウィンも神様も、
さぞ嫌であろうと思われる。
xxxxxx
門を開ける音がした。
「・・・・の検針で〜す。」という声だけが聞こえた。いつものことなので、
放っておいたのだが、そのすぐ後に呼び鈴が鳴った。
「去年に比べて、倍以上ものメーターになっていますが、何か増やされました?」
増えたものといえばただひとつ。それで正直に、「赤ん坊を一人。」と答えたら、
敵さんは若いのに、いきなり心得顔になったのである。
赤ん坊に風邪をひかさない為にそれなりに暖かくあるよう心がけていると
こうなってしまうのだろう。以前は、夜以外殆ど台所のガスのファン・ヒーター
だけで過していて、それでも冬になるとガス代と電気代の増加に驚いていたのだが。
一般家庭からすれば、甘かった、のだろうか。
医師は赤ん坊の一ヶ月検診で、「いわゆる赤ちゃんらしい生活をしていれば、
風邪をひかせることはありませんよ。」と本末転倒なことを言ったそうだ。
今のところそれは成功している。というか、こちらこそが赤ん坊がいるらしい生活、
をしている。ね、眠たい・・・。