おやこ
義弟は、大福命!である。
大福というのは彼の娘(私の姪)のあだ名なので、本来は「娘、命!」である。
がしかし、飲んじゃ寝の生後100日、やっと首も据わろうかという状態なんで、
人間というよりは、「大福」の方に近い。むっちむちの足なんか見てると特に・・・。
ま、そんなことはどうでもいい。
ある日、その義弟が、これから留守をしようというときに、居合わせた私に言う
のである。「お風呂は二人いれば入れてあげられるんだけど・・・」と。
その時は、なんのことだかわからなかったが、少し経って後に、彼の言うことが
やっとわかった。大福娘が大好きなお風呂に、自分がいないときにも入れてあげて
くれないかと彼は言っているのだ。
もちろんお風呂なぞは、その気があれば介添え役などなくても済む。
しかし、我々の間では、お風呂はあえて彼の役目にしているのである。
何故か。大福を父親に、父親を大福に、親しめるためである。折り良く、現在は冬。
一日やそこらお風呂をさぼったところで、問題は少ない。
で、こちとらがそこまで考えているのに、義弟は大福娘を喜ばせてやって
くれないかという。いやもーほんと、泣いていいのか笑っていいのか。
なんだか、ウブな友達の恋を応援する、女子高生の気分を味わっちゃったぜ。
大福は、今や誰彼関係なくほほえみ、「外面がいい」と父親に言われている。
父親が言いたいことは自明である。「余所はどーでもいいから、オレだけに
にっこりしてくれー!」と、こういうことだ。
父親としての彼も、生後100日を迎えたことになる。
xxxxxxxx
「相性が悪い!」というタイトルの本を読んだと書いたら、
「おめーはそこまで堕ちたか。」と言われても仕方ないとは覚悟している。
が、せめて言い訳させてもらえば、これは占いとかそーゆー類の本ではなく、一応
心理学者が書いたものでありまして。ええ。島田裕巳著:新潮新書・・・
これを立ち読みしたら、私が兼ねてより不思議でたまらなかったことが氷解した。
で、感情と考えていたものが理屈に変化し、それを受け入れようという気持ちに
なれた。おかげで私の両親は弟妹になってしまったが、そんなことは「納得」の前には
何ほどのことでもない。
というわけなのだが、私は今まで何を疑問としていたのか。
例えば、普段、妹娘ばかりかわいがってたある母親が、ケガをして血だらけに
なったとき、目の前に妹娘がいるにも関わらず姉娘を探しつづけたとか、自分の弟の
ことはさも憎げに語りながらも、自分が可愛がっている子供は弟の方である、とか。
こんなんなら、職業別兄弟姉妹の位置とか、姉妹がいれば美人なのは大抵下の方
であるとか、弟妹はいつでも上の子供にとってうざい奴であるという方が、まだ
理屈に合っていた。少なくとも私には、人の感情は感情で、システムではなかった。
この本は、「生まれ順」という要素をプラスすることで、感情をシステムにして
くれたのであった。「相性」にも、ちゃんと理由があるんですなあ。
ちなみに、技術屋であるうちのダンナは、「再現可能なのが科学である」と言って
ものが動かないことを「相性」で済ませる技術者を嫌っている。解明してこその「相性」
ということか。
私はこの本を読んで、ほっとしたような、がっかりしたような気分になっている。
で、実のところは、かなり淋しくもなったのである。
xxxxxxx
というわけで、「大福娘」に会うために国道一号線を歩いていた。
探偵社の看板があった。「おかげさまで創業42年」と書いてあった。
42年とは、中々な年月である。探偵という職業が日本でいつから成立してたのかは
わからないが、まず、問題の探偵会社が42年も続いていることに驚く。
それはつまり、お客さんが来てくれて、お仕事を完了し、お金を支払ってくれて、
それで42年間、何人もの人々がゴハンをいただけた、ということである。
探偵といえば聞こえがいい(?)が、小説のような仕事はしてないだろうことは
私にもわかる。殺人事件を解決するのは、フツーは警察だということである。
(大体、日本では刑事事件に民間人が関与することは禁止されてるらしい。)
それはいいとして、もっと卑近なことも考えてしまう。
一体全体、探偵というのものがどれくらいの期間修行するものなのかはわからないが、
この探偵社を開業した人は、30で独立したと考えるとしても、今、72歳という
ことになる。人の一生で72歳といえば、孫がいる年齢ではないか。
で、孫を得るためには子供が必要で、子供を得るためには配偶者が必要である。
探偵という身の上のこの人は、どうやって配偶者を得たのだろうか。この年齢なら
お見合いが普通だっただろう。で、相手には何と言って紹介されたのか。是非、その
釣書きをみてみたいものである。
私にそんなおいしい話が来たら、すぐさま会うことを承諾したことだろう。
しかし、いざ結婚となると、周囲の人々には面白いと言われても、めでたいとは
言われなかったに違いない。生活が安定していないとか、危険なことがあるかも
しれないとか言われてしまって。
それでもなんとか結婚したとして、めでたく子供も生まれたとする。
子供は探偵をしている父親を、どんな視線で見て育つのだろう?自分もいずれそう
なろうと思うだろうか?まさか子供に「尾行のコツ」は教えないだろうと思うが、
それくらいのことは教えてしまうのだろうか?
やがてその子供も大きくなる。パパの仕事を手伝うことになるのだろうか?
そして父親の持つノウ・ハウやテクニックに感動したりするのだろうか?
それともそんなことはとっくに了解済みなんだろうか?子供は父親の下につく前に、
同業者のところに修行に出されたりするのか?
そしてそのまた子供も相手がいるいないに関わらず結婚を意識する年頃になるが、
彼(または彼女)の悩みの重さが、父親と同じかどうかは、私にはわからない。
・・・「探偵社」と「42年」の組み合わせから妄想してしまったが、世の中には
様々な職業があり、またそれに合わせた「風呂、飯、寝る。」から始まる日常が
あるはずなのである。また、彼らの職業がどれほど特殊なものにせよ、ヒトとしての
営みから完全に自由になることもない。
まー、すごい。これが本当の、「人間だもの」。←?