田舎の法事(1)
「気管支炎になっちゃってえ。」
というわけで妹抜きで母と私、二人で祖母の法事をやることになってしまった。
去る者は日々に疎しと言っていいのかどうか、33回忌と聞いたときには、「誰が
33年前に死んだっけ?」と聞いて「このババ不幸者!」と妹に笑われた。
実際、実家の方では血のつながりもつきあいも薄れるままで、ゆえに法事と
聞いてもやり方もお作法もすっかり忘れている。今では、妹の方が詳しい。
自分がやった姑の法事のときには、妹に散々言われたものである。
「お姉ちゃんは、お団子さえも作らないで!」と。
団子・・・?そういわれても、夫と私にはぴんと来なかったのだ。
妹と母によれば、実家の方では法事のときには何はなくともお団子だけは作り、
湯気のあがったものを供えるものだというのだが、言われてみればそんなものも
あったなというのが私の気持ちであり、大体がとこ夫の田舎である沖縄では
そんなもの、作りはしない。
しかし、そう言われてみれば、夫の田舎から届いたサーターアンダンギーという
お菓子(ドラマ「ちゅらさん」によく出てきたアレのこと)を、足つきのお皿に高く
盛り上げてお供えに加えたとき、いやに収まりがよくなった気がしたのだが、
どうやら私は無意識にそれをお団子の代わりとしていたらしいのだ。
たまにしかない実家関係の法事に比べ、夫方の兄弟姉妹は数が多いうえに
親類同志のつきあいはまして盛んだから、私はこっちの方なら葬式や法事ぐらいでは
動じないのだが。ま、葬式と言われて動じないのも考えものだけどなあ。
はりきっていた物知りの妹が大風邪をひいて倒れこんだのには困ったと思ったが、
たかだか33回忌でもあり、ほんの内輪でやることもあり、実際には私はたいして
やることがなかった。新横浜の駅で叔母達へのお土産として月餅を買い、それとは
別にお茶菓子を買い、それで終わり。帰宅したら、料理も手配も出来ていて、あとは
墓参りの下ごしらえにつきあい、仕上げの掃除をするだけだった。
久しぶりの田舎の話題は、近隣の有名生臭坊主。
仏門とか説法とか帰依とか衆生とか、他にそれらしい単語が思い浮かばないが、この
お坊さんこそは困った人で、酔払い運転で半年ばかり別の場所にお勤めに行って
しまうは、賭け事と女の人が好きだは、そんなお坊さんが近隣の寺にいるのだそうで
ある。
女の人も、よそに囲えばいいものを寺に呼びつけるのだそうで、檀家一同怒り狂い
「その気があるのなら、こちらもちゃんとする気がありますから。」と談判すれば、
冷静にも、「今来ているあれは、そんな女じゃありません。」ときて、
「嫁はちゃんとした人を迎えたいので、是非皆さんにお世話願いたいのです。」
と、しれっとして言ったそうな。
この発言、中々深い問題をはらんでいると言っていいのか、それともたんに、
そんな奴はさっさと皆で海に沈めるか山に埋めこんでしまえと言っていいのか、
ともあれ、田舎にはそうそうない、久々のココロときめくスキャンダルらしい。
私も不思議だ。一体、どこの「ちゃんとした人」に、どんな人がどんな風にそんな話
を持って行けるものなのか。大体、「その人って、どんな人?」って聞かれたら、何と
答えるのか。このお坊さん、面白すぎる。そして、翌日の担当者がこのお坊さん
なのである。・・・私は、こういう場面に立ち会わせてくれた祖母に感謝した。
翌日。食事して掃除したらお昼。問題のお団子は比較的簡単な10個盛り(10個の
お団子をピラミッド型に積み上げるやつ)なのだが、少し大小があったらしく、
きちっとなっていない。こねて丸めるときはわかりにくいが、蒸すとふくれるので
大小があるのが目立ち、下手すると崩れたり転がり落ちるのである。
しかし、母もこの家のヨメとなって?十年のキャリア、なんとかごまかしおおせた。
中にはこのお団子一個の分量を、定規をあてて決める人もいるらしい。蒸し器の中を
想像してドキドキするくらいなら、最初からそうして間違いなく作った方が早いの
かもしれない。
で、団子を含むお供えものや花を持って、母の車でお寺に行く。
子供の頃、庫裏で祖母とお茶をいただいた記憶がある。祖母が、ここは夏なのに
冷えると言ったら、寺守りのおばあさんが、ここはあの世とこの世の境目だから、
と面白いことを言った。おばあさんが飼っているネコをかわいいと言ったら、この
おばあさんが実にうれしそうに笑ったものだ。
だというのに、そんなところで破戒坊主がお経なんか読んでいいものなのか。
境目もなにもなくなってしまうのではないか。・・・って、この年齢になれば本気で
そんなことを考えるわけもないのだけれど。
やがてやってきたお坊さんは、私とたいして年の違わない、中肉中背の人だった。
お坊さんは、お供えは自分がしつらえるからと言って母から供物を受け取ったは
いいが、包みから出してきれいに盛りつけるわけでなく、そのままお盆に載せるだけ
でいやがる。母、陰の方で私相手に大怒り。