自分の家にて

 社宅から出て行くための荷造りが24日だった。
通常の転勤における会社さしむけの引越し屋と、自分たちで頼んだ引越し屋の
サービスの違いに驚いた。もっとも、これを引越し屋のせいにしていいのかどうかは
わからない。一括注文をネタにして会社が引越し屋を値切っている可能性も
あるからである。(←普通はやるでしょね)

 サービスの違いの一つとして、荷造りが料金に含まれている、というのがあった。
24日には運送会社差し向けのよそ様の奥様方が5人、どどどっとやってきて、
ばしばしと荷物を詰めてくれた。まさか5人も来るとは思わなかった。階下の引越し
には2人しか来なかったのを見てるので、なんか、勝ったような気分??

 その日もトラック一台分の荷物を搬出していってくれたが、搬入は翌日。
社宅内は、階段は狭いし、もう一度敷地内の階段を降りないとトラックまでたどり
つけないという、厄介な構造になっている。しかし、引っ越し屋のスタッフは実に
感じよく重さも感じさせず、仕事をこなしてくれて、その態度さえもが会社が
さしむける引越し屋とえらい違いである。

 搬出は大変だったのではないかと思う。しかし、搬入は簡単なはずだった。
だって、平屋だし階段ないし車の通行も殆どないし。どの部屋にも掃出し窓があり、
庭から直接問題の部屋に荷物入れられるし。

 引っ越し屋さんの一人などは、口を開けたまま腰に手をあててしばらく私どもの
家を眺めていた。「いやあ、うちなんか3階建てでしてねえ。階段なんか、狭いの
なんの。」そうかもしれないが、その代わり、駅に近かったりするのだろう。
同じような値段でも、私達は、駅から遠くても古くても、庭つきのこっちを選んだ
というだけの話なのだ。

 そして私達にしてみれば、古い平屋というのは「田舎の祖父母の家」、といった
イメージなのだが、引越し屋のお兄さん達くらいの年齢だと、下手すると祖父母も
マンションに住んでいるのかもしれなかった。

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 翌朝。いきなり、風邪をひいている自分を発見。
一戸建ては寒い。それから何日か、最初はクシャミだったのがセキとなり、
おしまいには熱でふらふらしながら片付けることになったのだった。

 友人からも母からも妹からも電話があったが、「どう?」と問われた答えは、
「一戸建ては寒い。風邪ひいた。」というものだった。例外なく、ウケた。
友人のところでも、久しぶりに来た姉を実家の12帖の部屋に泊まらせたら、
いきなり風邪ひいて熱を出したそうである。

 で、同じ敷地内にあるところの妹である友人の、
「6帖間に泊めて・・・」ということになったそうな。

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 妹、手伝いに来る。
しかし道案内をと聞かれても、あまりにたくさんの道がある。丘のてっぺんから
ちょっと下ったところとしか言えず、とりあえず近くにある小学校、これなら誰でも
知ってるはずだから、人に聞きながらそこを目指してちょ、ということになる。

 で、たどりついた妹が言うには。「このへんの人って、しょっぱくて、いくら聞い
ても、坂をのぼりきったところとしか、答えてくれなかった。」いや、それは人間が
しょっぱいのではない。現実にそうとしか教えられない場所にあるからだが。

 ナンの変哲もないうえに何もないこの住宅街の、わかりやすい特徴と言ったら、
地形そのものでしかなく、そうでなくとも普通の人間はそこまで意識して自分の
住所を把握しているわけではない。(はずだ、多分。)

 で、それはいいのだが、妹はこう続けたのである。
 「困った挙句に私、目が見えない人に道を聞いちゃったよー。丁度良く歩いてたし
全然気がつかなくて。その人が一番親切にわかりやすく、詳しく教えてくれたの。」

 意識して目の見えない人に道を聞いたというなら、非常に良い選択かもしれない。
つうか、「その手があったか!」と私は感動したのだが、しかし、一般的な選択で
ないことは間違いない。聞かれた方もさぞ驚いたことだろう。

 そしてそれでもなお、妹のしでかしたことは、すごく良いことではなかったかと
思う。

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 昔の家だからか、施主の好みだからか、部屋は一々広いし、天井は高い。
このぶんでいけば、夏は最高かもしれないが冬は最悪、ということになる。
もしかすると、台所一部屋で冬を過すことになるのかもしれない。

 実際、田舎の広い実家でも、両親が友達とおしゃべりするのは台所、ダイニング・
キッチンだそうである。しかし、そこは両親が普段使っている、どうでもいいものが
手の届くところに全てあるという、くつろげるといえばまあそうかもしれないが、
実際には自堕落そのものの場所でもある。

 あれを堂々とお見せしているとなれば驚いたが、本当のところは娘として、
そこまで気のおけない友達が両親にいることを喜ぶべきなのであった。

 しかし、今や両親が使っているのは、殆どこのキッチンと寝室だけ、らしい。
実家の場合、台所と寝室になってる奥座敷の間には、コタツとTVのある居間やら、
仏間やら、座敷やらあるというのに、これ全て畳の敷いてある廊下に成り下がって
いる、というのもまたなんだか。田舎の家なので、巨大1LDKなんですな。

 しかし、家がどう出来るわけでなし、いっそ、気のおけない友達、がいる方を
見習うべきなのかもしれない。それは、家よりも大事なことなのである。
幸い、時間はたっぷりとある。