一年経たずにお引越し

 引越し用の段ボールが届いた。
見積もりをとって選んだ会社は、今までの会社さしむけの運送会社と違い、
荷造りも同じパックになっている。で、触られたくないもの、見られたくないもの
などは自分でやる、そのための段ボール箱である。

 そうは言っても、自分で把握しておきたいものはある。
最初に取り出したいもの、やかんだのまな板だのカーテンだの、それは当然だが、
ついつい、自分で色々やってしまう。(もちろん、貴重品は自分が持っていく)
台所関係の荷造りは一番大変で、これをやってくれるのは助かる。

 見渡せば、やはり本が多い。というか、それと園芸資材しか私は持ってない
ような気がしてくる。夫はといえば、本は当然のことながら、ハードからソフト、
工作までこなす技術屋とくるから、部屋にあるのは木ぎれからネジにコードに
レンズなぞで、普通の家ではないみたい。

 結婚するとき、上司は私に「技術は日進月歩です。あなたの夫になる人は技術者
なのですから、とにかく勉強させてあげてくださいね。」と言った。
なんと美しい話なのだろうか。ちょっと見の悪さはともかくとして、話としては
家庭内「プロジェクトX」かい。

 で、そのへんのごちゃごちゃは、自分で梱包すると夫は言っている。(同じマニア
ならともかく、何も知らない他人には任せられないんだろうな・・・)で、本ばかり
多いことに関しては、引越しのたびに、業者さんに悪いなあと思ってはいたのだが。

 夫は、「普通の家は、うちみたいに四角四面な本やファイルや頑丈なものばかり
でなく、もっとこまごましたものばかりで、それがもっと大変だそうだよ。」と言う。
言われてみれば、うちには飾り物の類が殆どない。確かに四角四面な本は、荷造り
から何から、楽なのかもしれない。

 が、夫はなおも続けたのである。「つまりだな、うちに来る引越し屋に、脳みそは
要らないわけだ。筋肉さえありゃいいんだから、楽なもんなんだよ〜!!」
・・・そうかもしれないけど、あんたそれ聞いたら、引越し屋が怒るよ。

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 16日、は家の引渡しの日であった。
ウン千万円の預貯金や、それなりの金額のお金が、敵さんやら司法書士やら
仲介業者の手に渡り、私達は好き勝手に出来る土地と家を入手した。

 署名だの捺印だののごちゃごちゃの末、担当M村がご挨拶するには
「本日は誠にありがとうございます。今後とも土地、家の売買には、是非我々の
会社、xxxxxxをご利用くださいますよう、お願い申し上げます・・・。」

 新しい2世帯住宅を建てようとしている売主氏は、あまりの縁起の悪さに
半ば口をぽかんと開けたまま、声にならないまま笑っている。私も、今、売買の話
なんかされても、しょーもないのに。いくら慣例ったって、言う方も言われる方も。

 大体のところが終り、なんであんな話になったのか、転勤族として、どこが一番
気に入ったかと問われた。「大分も良かったですけど、やはり金沢でしょうか。」
と答えると、売主方の不動産屋が、「金沢なら、いいよなあ!」と、いきなり
感に堪えぬ声を出した。少し、のんきな人である。

 カギをもらって当の家に行く。
家の周囲をうれしく歩いたら、いきなりネコのフンを踏む。「ウンが着いた」とは
言うが、積極的に喜べるやつはいない。部屋の中で暗くなっていたら、そのネコ
なのかなんなのか、ブチの、首輪をしたネコが庭を横切るのが見えた。

 夫にネコフンの話をしたら、「あのネコかな。ブチの頭の悪そうなネコだろう?」
言われてみれば、確かにお利口そうではないネコだったし、犬猫にも薄倖そうなネコ
とか、間抜けそうな犬とか、色々いるもんだが、「頭が悪そう」と思われるのと、
どっちがどう致命的なんだろう??

 残ったひまわりの苗を植えつけようとするが、小さな枝垂れ梅が邪魔、なおかつ
虫だらけになってるのを発見。うれしく、切らせてもらう。しかし、切ってみたら、
なんというかこう、次の枝をどう出させるかと考えながら切ったとはとても
思えない枝ぶりだった。こんなものなのかと思えば、やってみるために残せば
良かったかもしれない。

 そうこうするうちに、畳屋さんとリフォーム屋さんが打ち合わせ通りにやって
来る。畳と縁を指定すると、畳を車で持って行ってしまった。私は、ああいう
作業はすべからく当の家の庭先で行うものだと思っていた。(実際、そんな風景が
似合う家を買ったのだが。)

 リフォーム屋のお嬢さんは広い広いとうれしがってくれる。
色々見て、「これならあと50年は保ちますね〜!」と、10年以内に建て直すつもり
でいる私達に、とんでもないことを言ってくれた。そんなことを言われると、
このまま売主の孫達の背丈が柱に刻まれてるこの家に死ぬまで住んでしまいそうで
嫌〜!!

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 17日、18日ときて、19日の日曜日。
前日の夕方に用意してあった焼菓子を持参、ご近所に挨拶まわりにいく。
皆様、お品がおよろしいような気がする。売主のおじいちゃんが丹精した松を切った
というので、文句たれてくれたご近所様もいた。

 よくもまあ他人が買った家にそんなことが言えるもんだとも思えるが、それ以上に
「そんなにあの松と、丹精するおじいちゃんが好きだったの〜!?」とも思え、
その人の庭はと言えば松なんかない、年季の入った、見たことのないような芝を
敷き詰めた洋風であることも考えてみれば、なんか、上半身アンダーシャツ姿で
出て来て、いきなり文句たれたおっさんが可愛くなってくるのだった。

 たんに松が残るよりも、いい人が来たのかもしれないなあと、
とりあえずそう思ってくれるよう、やってみようかい。
大丈夫だ、地でいける。

                       社宅にて、最後の書きこみ