愚直

 落ち葉の季節となった。
落ち葉はあまり嫌いではなく、さっさと片付けるような無粋な真似はしたくない
・・・なんちって、最近の私は御近所でも評判の、お掃除おばさん。
暇さえありゃ、箒とチリトリ持って門を出ていく。

 どう見えているのかはわからない。たまにお礼は言われるが、これは奇特な行為
でもなんでもなく、私はたんに落ち葉を集めて裏庭に埋めているというだけの話
なのである。すぐそこの小学校や幼稚園の、なんとありがたいことか。うひひ。

 そう言ったら、夫は、「バカだなあ、せっかくお礼を言ってくれるのだから、
市民の義務ですからとか、川崎市民憲章にもあるでしょうとか、相手の期待に
答えてやらなきゃ〜。」と無茶苦茶を言う。

 そりゃまあそうかもしれないけどさ。
私が欲しいのは落ち葉なわけじゃない?だから実はゴミなんか混ざってたら、
そっちは置いて来てしまうんです。ガムもタバコのセロハンも堆肥にはならないし、
後でより分けるのも面倒だし。これで市民の義務だなんて持ち出したら、そりゃ
詐欺ってもんでしょう?私にも、良心ってものがあるんです。些少ですが。

 思い起こすのはその昔、あぜ道ガーデンをやってたころ。
犬フンを置いて行く人が絶えなかった。隠したつもりで、花の横にフンを置かれて
涙出るほど悔しかった。こんな悲しみ、私一人だけで味わってたまるもんかと
思ってね。それで犬フンは道の真中に置き換えておいた。

 それをまさか自分が踏むとは思いませんでしたけどね。
考えてみりゃ、あそこを一番良く通るのは自分なんだったなあ。
作業してるうちに犬フンのムカつきなんかすっかり忘れて夢中になってたわけで、
そこで改めてフンでしまったわけなのよ。

 あれはあれで、幸せの一種であることを認めています。
明日も私、サクラの落ち葉をかき集めに行くことでしょう。

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 具合が悪い、ような気がしていた。
泣き続けたせいで目はハレまくり、世界と私との間には透明のゼリーが充填されて
るように見えた。自分んちの門扉も門柱も、向かいの門扉も、隣との間の道路まで
見ると泣けた。というのは、通いのネコをなくしたと思っていたからである。

 家の前の道路などは、あんまり思い出が多すぎて掃除が出来なかった。
涙がぼたぼた道に落ちるのは、箒の音をさせても、ネコが顔を出さないからである。
同じ道を、暗くなってもまだ遊んでいるネコを無理やり抱きあげて送って行った
こともあれば、買い物に行こうとしたら追って来たのもこの道で、庭でした私の
クシャミを聞きつけてお向かいの家から横切って来たのもこの道で、そしたら
平気で掃除など出来るわけがない。

 そのネコが顔を見せさえすれば、何をしていてもやめて出ていき、母ネコのように
いつまでもいつまでもなでてやった。おかげで、来るなり「伏せ」をするネコとなった。
尻尾を振りながらなでられていた。時々ひっくり返って、ノドまでなでろと催促
した。カンがいいネコで、自分がしてほしいことを伝えるのがうまかった。

 なでるのもさりながら、遊んでやった。
ツツジの陰でねこじゃらしを狙いすましている猫を待つこと、たっぷり2分。
全速力で走ってきて、力いっぱいジャンプしたはいいが、勢いあまってサボテン
(金鯱・実生)の上に着地、驚いてそのまま枝垂桜まで走って行って幹を駆け上り、
屋根に飛んでその上でしばらく足をなめていたこともある。

 遊び足りないとネコは、私が家に入ったあとも待っていた。
ある日などは、玄関に背を向けて、待つともなく座っていた。私は台所の窓から
それを見ていたのだが、ネコが二度目に玄関を振り返ったのを見たらどうにも
こらえきれなくなり、結局出て行ってネコの相手をしてしまった。

 外出からの帰り道、今日はつかれているからネコの相手は出来ないなと考えた
こともある。下手に音をさせるとカンづかれるから、門も玄関も静かに開けなきゃ
とまで考えていたが、ネコは既に庭で身づくろいしながら待っていたのである。
この時も結局、なでて遊んでのフルコースつきあった。

 そんなふうだったので、ネコが来なくなって3日めにはどうにもならなくて、
よろよろとホーム・センターのペット・ショップに行ってしまった。通いの
ネコの御先祖様の一員であるはずのロシアン・ブルーの子猫も、わけがわからない
様子でぽけっと座っていた。それは、全然別モノだった。

 私が欲しいのは、ゴルフ場で拾われた、薄い灰色にトラ縞が混ざる、足先が白い
ネコであり、隙あらばうちの花壇でトイレをしようと目論みつつ、私の目の前では
しないというネコだった。「ロシアン・ブルー」という肩書きや外見ではなく、その
ネコの個性であり、関係を培うことの出来る知性だったのである。

 飼い主には聞きにくかったが、ある日、お向かいの奥様が出て来たところを
つかまえることが出来た。ネコは、誰かに尻尾から何からやられて血だらけに
なって帰ってきたところを発見され、安楽死させるかそれともどうするか、相談中
ということだった。

 それで私はしばらく「具合が悪かった」のである。
今朝になって、ネコは入院していると飼い主自身から聞くことが出来た。
ネコはしっぽを中心に何者かに刃物で切られたらしい。一時は安楽死させようか
とも考えたが、まだ3歳でもあり、他のところは大丈夫なので、なんとかやって
みましょうと獣医が言ってくれたのだそうである。

 そんなわけで、ながらく入院することになるとのことだった。
また泣けた。でも、今度は具合が悪いわけではなかった。
獣医の名前と場所を聞けたので、心細くすごしているだろうネコの、
お見舞いに行くつもりである。