冬の出来事

 夫の会社の、家族検診に行ってきた。
それはいくつもある指定病院の中から本人が選ぶというシステムになっていて、
私は毎年同じ築地の近くにある病院にお願いしている。

 何故、築地近くなのかはいうまでもないだろう。わっはっは。
しかしここは余計な人気がある病院で、今年はどうこうしてるうちに予約が遅くなり、
キャンセル待ちでやっと予約に入れたのが暮れの28日。

 暮れのせわしないときに何もわざわざ、と皆が言ったが、暮れのせわしない時
だからこそ、キャンセルが出たのであった。ラッキー??しかし私はその3日前に
風邪をひいて熱まで出した。とっとと治して検診に行かないと、今年度中に検診の
予約がとれない!てなわけで私は全力で治し、健康診断、に向かったのである。

 それで治るんだから、もしかすると健康診断なんて要らないのかもしれなかった。
でも、自覚症状がない病気はいくらでもあるから、やっておくに越したことはない。
今年は自覚もあった。いまいち胃の調子が良くないのである。だからいつもパスする
バリウムを久しぶりに飲むことにしていた。

 バリウムは記憶にあるものより少しばかり飲みよくなっており、技師も医者も、
これといって変化はないと言ってくれた。考えてみりゃ、胃潰瘍やったときには
うずくまる程の痛みだったから、調子がおかしい、という程度では問題にならないの
かもしれない。自覚症状がないといえば、肝機能がちょっと。うん、診てもらって
よかった。他はなんてこたあなくて、血圧なんて上が96だあ。

 血圧も面白いもので、2年前、手術受ける直前に測ったら上が130だったか
140だったか、生まれて初めての数値を記録したことがある。自分では納得していた
つもりでも、やはり緊張していたのだ。マイ・血圧は本当の気持ちに正直だった。

 検診が終わった後で、軽食が出た。
毎年そうだが、この軽食がカロリー表示つきの寂しいサンドイッチ。ちまっと置いて
あるポテトサラダがものすごいカロリーになるということもさりげなく教えてくれる。
さる教会が経営するだけあって、人生の楽しみなんぞは健康に比べれば二の次でよし!
という、プロテスタンティズムのあらわれなのかもしれない。

 いいんだもーん、この後築地で美味しいもの食べるんだもーん。
というわけで何もかも一口づつ食べて残りは返して。一応は食べてみたけどやっぱり
美味しくなってなくて。さて、築地に赴く途中でふと気がついた。全然、お腹が
すいてないということに。

 何だろうか、この満腹感??
しばらく考えた後で気がついた。さっき飲んだ、バリウムのせいでは?。
私としたことが、この築地をバリウムでお腹一杯にした体で歩いているのである!

 暮れの28日である。築地の街はいつもよりにぎわっている。
私は自暴自棄に近い気分になり、卵焼きとか、凍ったままで売られている毛ガニとか
まで、恨めしく睨んだだけで、買わずに帰ったのであった。


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 隣が火事になった。
幸いなことに隣とウチとの間は10mほどあり、風も殆どなかった。おかげで死人も
出なけりゃ類焼もなく、盛大な焚き火をしただけで済んだのである。とは言え、
パンパン音はする(発砲事件が起こっていると思った人もいた)し、夜中のこととて
恐ろしく、ご近所一同、手に手をとって震えあがったのであった。

 火事といえば身一つで行く先がなくなることを意味するが、お隣はそのまんま
ご主人が普段住んでいるところの事務所近くのマンションに住むこととなった。
普段から二重生活をしているので、当座の生活には困らないのである。

 鎮火して再び寝床に入ったのが午前4時頃か。朝日と共に日常がやってくる。
例えば隣のはす向かいの家は建て替えのため、整地に入ろうとしている。目が合った
職人さんに挨拶はしたが、いまいち元気がないのは仕方のないことだった。

 向かいからは、植木屋の鋏の音が聞こえてくる。
この近所一帯がひいきにしている植木屋である。この植木屋は2日ほど前には、
隣で仕事をしていた。今度はお向かいの番、というわけで彼はつい2日前の仕事と
焼け跡を眺めながら、鋏を動かしているのである。

 火事と言っても何ブロックか離れたところでは気がつかない人もいたらしい。
夫の行きつけの床屋さんがそれで、新聞の地方版で読んで初めて知ったとのこと。
雨戸が安眠を守ってくれたらしい。

 ネコは本格的にうちで預かることになったが、時には自分の家にも戻っているらしい。
真っ黒けの足で帰ってくる。燃えたプラスチックとか、燻製のような匂いまでつけて。
何をやっているんだか、お腹とか足先とか、白いはずの部分も灰色になっている。
・・・なんと余計なことをしているのか。風呂に入れるとハンストするくせに!

 昨日、灯油を配達してもらおうと、業者に電話した。
住所を告げたら、相手は「あ。」と小さな声をあげた。やがて灯油を配達にきた彼は、
「大変でしたね。」と夫に言った。彼は消防団に属していて、その夜も呼び出されて
出動したらしいのだ。

 現場に行ってみたら、それは前日自分が灯油を配達した家、の隣だった。
あの日は後始末に随分時間がかかりましたっけ、と彼は言ったそうである。
彼は夫の方こそが、「大変でしたね。」と言うべき相手なのであった。