電網売買

「はじめまして、彩香で〜す」
「30代で年収1000万円!」
そんなタイトルのE-MAILが来て、そのつもりではいたものの、夫に「即、削除!」
と言われる。「いいか、向こうから来るのは災いだけ!お得なのは、相手だけ!
大体、タイトルは用件を端的に表すものでなければいかん!」だってさ。

 そういううちの夫と言う人は、パソコンに関してはオーソリティーとやらである。
パソコン通信なんて、アルファベットの頃からやっていた。うるさいがとても重宝
する、と言っていいのか悪いのか。で?そんな夫が最近ハマっているのが、ネット・
オークションである。

 ネット・オークションの記憶と言えば何年前なのか、それは「ちゅらさん」の頃。
夫の姪は、ドラマの中でかの主人公が着ている制服の学校出身者だった。
当然、同じ制服を持っていて、「あの制服、ネット・オークションに出せば高く
売れるかなあ?会社の宴会で随分使っちゃったけどー。」という時事ネタで
笑いをとった。それが身近な人の話題として聞いた最初の記憶だ。

 そして現在、夫は家の中のガラクタを売りまくるようになった。
「人生に必要な天体望遠鏡の数というのは一体いくつなのか。もしかしてオレは
必要以上のものを持ってしまったのかもしれないなー。」というのが夫のセリフで、
もっと早く気づけあほたれが、と言いたいが、家が片付くことは吝かではない。

 夫の持ち物は理数系マニアまっしぐらで、レンズからわけのわからない基板から、
まーほんとーに無縁な私には、虫が湧かないから許そう、てな意識しか持てない類の
ものばかり。例えば40年前に1ドルかそこらで買ったという、米軍の放出品だった
マイクなんぞは、買った時に既に生産されていなかったらしいが、40年間レトロとして
時々取り出してはにっこり笑い、そして今回売れた金額が2000円。

 ここまで来ると、捨てるに捨てられないということだけは、わかる。
しかし、私に理解できるのは誠にそこまでなのだ。例えば夫によれば、
「何度か使ってる」とのことだが、元々米軍の放出品で、そのうえ買ってから40年
経っているから、未使用か否かという言い方さえ成立しない。

 で?40年持ち続けたものが2000円。それでいいのかと少しは聞きたい気がしない
でもない。しないでもないが、それでいいという気持ちも、わからないでもない。
ゴミに出すのでなく、必要な誰かに渡さなければ、という意識がわかるのである。

 ちなみにネット・オークションでは買う人も売る人も、どのような取り引きを
しているのかたどれるようになっているらしいが、買った人というのは、どうやら
マイクを収集してるらしい。なるほど渡るべき相手のところに行ったわけだ。
・・用もないのにお金払う人もいやしないけどさ。にしても、マイクの収集をする
人物像が想像できない。・・無理に想像しなくてもいいわけだが。

 そしてネット・オークションの売買にはメールのやりとりが不可欠だが、さすがに
そこまでマニアックなものとなると、買う方も熱狂し、長い思い入れのこもった
身の上話的メールが来たりするらしい。特に多いのが、埼玉や千葉の奥地(失礼!)
に住んでる人々で、時にはタメイキが出るほどディープらしいのだが。
出来れば、夫には負けて欲しいものである。勝って欲しくない。

 いつだったか「本の雑誌」に、本の収集家と結婚したせいで外に働きに出たという
人が載っていた。家にいると気が狂いそうになるので、外に目を向けようとした
のだという。離婚は考えないところを見ると、本以外のことは悪くなかったとみえる
が、本の収集癖って離婚の理由として通用するのだろうか??マイクの収集は?

 ネット・オークションが始まって何年になるのだろう。
「ちゅらさん」は再放送され、夫の姪は結婚して2児の母となった。(制服は。
大事にとってあることだろう。案外、再就職したらまた宴会で着るのかもしれない。)
怪しいメールは相変わらずやってくる。夫がガラクタを売り払うおかげで、うちは
少しづつ片付いていく。

 それでは問題は?時々荷物が届くこと、である。
やはり、売るだけでは済まないらしい。