2002年の正月
「正月」をやった。
ここ最近の正月は、正月で食いつめちゃった夫の独身部下達にぬくい食べ物を与え、
腹いっぱいにした後に、しかるべき時間までに自分の巣に返す、そういう使命を
遂行する時期のことである。
ゆえに正月は「やる」ものであり、正月料理で一番大切なことは、「カロリーの高さ」
とくる。数の子や紅白なますは、まあ、もののついでみたいなものであって主役では
ない。うちの正月料理の主役は、脂っけであり、肉の塊である。本当に。
しかし。今年は少々参ってしまった。去年までは牛肉の塊さえ出しておけば
なんとでもなったのに、今年ときたら例の病気が・・・!中には牛肉がコワイ
奴がいるかもしれない。
そんなわけでとりあえず、骨つきの仔羊を用意することにした。
で、暮れの28日だったか29日だったか、三軒茶屋のハナマサで冷凍ラムの塊を
買い、ついでにアイスクリームも買い、やれやれと電車に乗ろうとしたら
用賀で事故とやらで電車がとまってたのである。しかし、駅員にチケットを
差し出したら、振替切符とやらをくれた。
三軒茶屋からなら30分かそこらで帰宅できるのに、バスで小田急線まで
たどりつき、そこからまたバスに乗って家に到着したのは2時間後だった。
全てその「振替切符」とやらを使い、たどりついたのであるが、持っていたのが
アイスクリームや冷凍ラムでさえなければ、けっこー楽しかったのであった。
それはともかく、今度は牛で駄目なら羊でいいのか、という疑問が出てきた。
普段が普段なので、そのまんま羊にしちゃったが、考えてみれば羊が駄目な人って、
けっこーそのへんにいるではないか。
しかししかし、私ときたら牛の時代が長すぎたのか、鶏や豚のご馳走って、考え
つかないのである。鶏でご馳走くさいものを想像するに、ワイン煮込みくらいか??
所謂、「よくわからないけどおいしそうですね」って感じ。
いやあ、いまどき仔羊が食べられない奴なんて・・・おおっと、自分の妹がソレ
だったりするが。まあ、食えない奴は2度と来ないだけの話だろう。温かくて
それなりの味がついていさえすれば素材なんて、もう何でもいいに決まっているさ。
そこまで開き直ったところに、実家から荷物到着。これがなんと、イノシシ。
なるほど、こう来るか。問題は、自分がそう「行くか」ということだが。
羊でさえクリア出来ないかもしれないのに、これ以上ハードル高くしてどうする?
まあいいや、顔みて決めようというわけで、下ごしらえだけしておく。
初日は、ワイン好き男が一人、来ることになっていた。
鯛のカルパッチョやらチーズやらとワインらしき料理を出しておき、探りを入れる。
大学は九州で、初任地も九州。この経歴で猪を食べたことないような奴が、うちに
来るわけがないなと勝手に決めつける。
そして、決め付け的中。この人、イノシシどころか韓国のド田舎まで行って
探しあて、かの哺心湯(こんな字か?)まで食べたことがある豪の者だった。
イノシシの方も、元来の姿であるところの、皮つきの、下手すると毛までついてくる
ようなぼたん鍋、だったそうである。
というわけで、パルメザン・チーズを混ぜたパン粉をつけて焼くイノシシくらい
ではへのかっぱ、「これだと、イノシシという感じがしないですねえ。」って、そう
言われても。ほめ言葉と思っていいのかどうか悩むではありませんか。
やれやれ義務は果たしたわいと思いつつ出した最後のご飯は、鯛飯。
さばいた鯛の身はカルパッチョにし、アラでもって炊くという、実にリーズナブルな
鯛飯である。それはいいのだが彼、食べるというので出してあげたアラをいつまでも
いつまでもせせっていた。ワイン好きだろうがなんだろうが関係ない。「鯛」の霊験、
侮りがたしといったところか。
翌日は3人。去年の、会社から椅子まで借りてきた正月を思えば楽勝であった。
そして、さすがに犬を食べた人はいないが、大学が富山だった為、熊を食べたことが
ある人もいて、「牛くらいでぐだぐだ言う人はここにはいませんよ〜。」と言われた。
さすがはうちに来る客、と言っていいのか悪いのか。
骨付きの豚肉の煮物を配り、少ししたところでエビを揚げ始める。
これがまた、ダイエットしてる人は死んでも食べてはいけない高カロリー料理で、
揚げたエビにマヨネーズとトマト・ケチャップを半々に混ぜたオーロラ・ソースで
和えるのである。もちろん、オーロラ・ソースには「どっぷりと漬け込む」といった
感じにしないと、美味しくない・・。
途中、熊を食べた富山君から、「xx君から、雨ノ森さんとこには、お正月にお世話
になったと言ってました。」という報告が入る。そう言われても顔は浮かばない。
つまりその人にとって、上司であるところの夫が親切に仕事を仕込むのは業務の
一環だが、正月の食事は思いがけない僥倖だったわけか。うむ、愛いやつじゃ。
お客の中には、夫の20年後輩、というのがいた。今回は沖縄料理はたいして作ら
なかったが、優秀にして将来を嘱望される彼が、私が出した御椀物を見て、
「きゃあ!これ、中身!?」と嬌声を上げてくれる。もちろん、「な、中身って何!?」
とびびる奴も出て来る。
「中身の汁」とは沖縄の代表料理であり、兼高かおる(古い!)が評するところの
「世界三大スープの一つ」である。と、権威をつけておいて、やおら「中身」とは
豚モツであり、大腸なのだがこれを下ごしらえするのは非常に大変で、最後の方では
匂いとりのために小麦粉で洗う人もいる、と加える。
次いで、あれが上手に作れたら素晴らしいのだが、残念ながら材料の中身が
こちらでは入手できないので、うちで出せるのはたんなる赤身を使った汁である旨
話し、あちらの顔をたてつつこちらの恐怖心を押さえ込む。・・しかしこの赤身の汁
だって3〜4時間は煮ないと、「らしくならない」。
その後輩の母堂は、息子が帰るとなるとその中身の汁かソーキ汁を用意して
待っているそうである。ちなみにソーキとは豚のあばら骨の骨付き肉のことであり、
これをやわらかく作るのはまたまた時間がかかる。(いい年した男のコが「きゃあ!」
と嬌声を上げる背景をわかってもらえたろうか。)
客達は、いずれも「楽しかったです〜。」と言って帰って行った。
うちは会社から1時間はかからないものの、帰宅するためには全然逆方向に2時間
かかる人もいて、帰るまでの手間を考えれば上司宅での食事など「ご遠慮申し上げる」
人もいるはずなのだが。逆か、そこまでしても来たい人だけが来るのだ。
なんでこの人達はこんなにさばけているのかと不思議に思う私が馬鹿でした。
しかし、この調子だと、来年はもっと来るような気がするな。
それも来るのは、酒が飲めてなおかつイノシシくらい何ともないような奴らである。
「ナンでもあり。」か。腕の奮いがいがあるというか、今から迷いまくるというか。
・・・それだけならいいが、もしかして私は今年の正月以上の「意外性」を期待
される身の上になったのではないか。げげ。
こりゃー困ったかもしれない。