宇奈月、八尾(おわら風の盆)、魚津
夫は元旦から早出の仕事だった。
雪の降りしきる早朝、夫を送り出した直後、外から
「タロー!!タロー!ああもう、言うこと聞きやしない・・」という声が聞こえて
きた。M上さんちのタロー(犬)がまた逃げたらしかった。
本当に1年の計が元旦にあるのなら、タローにとっては、今年も脱走しまくり
の楽しい年となるはずであり、M上さんちではタローに悩まされるはずであり、
夫は仕事で忙しいはずである。ま、全然外れてないだろうな。
というわけで、正月が休みでない我が家では、例の如く正月過ぎてから改めて
お休みをとったのであった。どうせこの時期どこにも客なんかいやしないだろう、
いないにきまっとるわい、わっはっはっは〜!という、実にタカをくくった態度で
行き先を決めたのは、1/10日、つまり当日の朝、であった。
JTBに行き、ホテルの手配をお願いする。初日は黒部峡谷に開かれた温泉街、
宇奈月温泉。最初はニューオータニに泊まろうとしたのだが、なんと休館日だった。
なるほどこの時期、客なんかいやしないわけだった。お客さんいない間に従業員を
休ませてしまおうというわけね。トホホ。
結局、同じ宇奈月温泉でも延対寺荘なるところに宿をとった。
金沢から食事やらあわせてのんびりと車で3時間ばかり。金沢から富山市内までは
雪が溶けていたが、車を山の方に向け、トンネルを一つ越えるごとに雪は増える。
途中、宇奈月ビールという地ビールを飲ませる建物があったが、しかしこちらは
車なのにどうしろというのか。
宇奈月温泉の旅館街は、深い峡谷にはべりついていた。雪かきはしてあるが、
積雪は20cmくらいだろうか。道端にはタヌキを描いた道路標識。
旅館の部屋には「JTB湯めぐりパスポート」なるカードが置かれていた。JTBの
顧客に限り、宿の指定するところの暇な時間帯に余所のお風呂にも入れることに
なっていて、その数8箇所。しかし、雪が残っている中、わざわざそのへんの旅館の
風呂をハシゴする気になれるものだろうか?
自分の部屋まですぐ、の旅館の風呂だから何度も入ろうという気になれるので
ある。ただでさえ冬の北陸の天気は変わりやすい。雪がちらつくどころか、帰りには
吹雪になって横から吹きつけるかもしれないってのに、どうして丹前一つで土地勘も
ないのにうろつける?おしまいにゃ自分の旅館がわからなくなって凍死するぞ。
この、お得というよりは物騒なサービスはおまけに年末年始を避けて設定されて
いた。これこそが論より証拠、つまり必ず自分の旅館がわからなくなる人が出ると
いうことであり、年末年始の忙しい時期には遭難?した客などかまっていられない
ということなのだ。
食事はたいしたことはなかった。お風呂も、まああんなもんだろう。露天風呂は
お風呂の浴槽をじゃぶじゃぶ横切って入ることになっていた。部屋から見えるのは、
黒部峡谷、ということになる。黒部ダムはここからトロッコ電車で行く。
景観ははるか下にある川であり、目の前のまだらに雪を被った山肌となる。
山肌の茶色い部分は、雪崩で削られたものである。今は枯れ木で覆われた山だが、
紅葉の季節はさぞ素晴らしいだろう。
翌日は、雨の中、八尾に行く。
おわら観光リゾートホテル。「おわら風の盆」で有名な八尾の川沿いにある。昨日の
宿より高いのに、建ってから10年と言ったか、施設は古くていまいちしょぼい。
ここの露天風呂、屋根は透き通った素材のトタン板で、その上には枯葉が積もり
積もっていた。屋根は多少破れてもいて、そこだけは北陸の施設には珍しい本物の
露天風呂と言える・・・???体を洗う場所も一応は設定されているし、シャワーも
ついているが、ひさし程度の屋根しかないので、雨の日には天然シャワー。
翌朝は、雪だった。そうそう出来ない経験をしに、雪の露天風呂に行くワタシ。
明るい中で見れば見るほどしょぼくて、板塀の隙間からは車が停まっているのが
見えて、悪いことをして逃げて来たような気分になれるのが素敵??
おわら風の盆は有名になりすぎたのです、と八尾にお嫁に来た人が言う。
3千人の人口の街に、去年も30万人詰め掛けたそうである。それでいて、あまりの
ことに踊る人は嫌がって宵の口には出てこない。夜の11時、12時頃には観光バス
の呼び出しでうるさいらしいが、そんな時間までいても踊りを見ることが出来ない
という。たまに踊り手達が出て来ても、観光客に騒がれたとたんにまた引っ込んで
しまうとのことである。
もちろん、競演会を駅近くにしつらえた舞台ではやるが、本当のおわらは街の中を
数人でいくものです、ビデオでは見られますが、あんなもんじゃありません。
午前も3時頃になって、胡弓の音で走っていくと踊り手さんたちが坂の下から
すうっと現れます。幽玄、とはあのことです、と。
普通の人が普通の生活していたら、「幽玄」なんてものには出会えない。
まして普通の人間が幽玄と言われるものになることも、ない。
この観光リゾートホテルでも、本当はおわらを見せてくれるのである。観光用と
いえばそうなるが、おわらを踊る人には一人としてプロはいなくて、ここのも経験者
である人々のボランティアなのだそうだ。そして、我々はそれを目当てに来たにも
関らず、客が我々1組だったゆえに踊りは見られなかった。うええーーん。(T^T)
「風の盆の間は、お店もどこも、皆お休みになるのですか?」と聞いてみた。
「いえ、お店でないところもお店になります。」・・・踊り手は25歳まで、だった
そう言えば。八尾は飛騨と富山を結ぶ交通の要所にあり、かつて富山藩の税収の
6割を占めたという街だった。さすがお嫁に来た人は、見る目がシビアである。(^^;)
八尾を出て、魚津に向かった。
目当ては埋没林博物館。展示されているのは富山湾内で見つかった埋没林の中の杉の
根で、樹齢500年以上。なんでそんなのが海の中で見つかるのかと言えば、その
杉が生きていた当時、そこは海ではなく陸だったからである。
例えばヴェネツィアなどは温暖化のせいで街全体が海に沈もうとしている。
が、それとは逆に、地球がもっと涼しかった頃には海面はもっと低い場所にあった。
その証拠が、富山湾から掘り出された杉の根っこなんだというわけで。
それなら杉の根っこはもっとあちこちで見つかってもいいはずなのに何故ここに
限って見つかるのかと言えば、その周辺には海水ではなく地下水が湧き出ていて、
ゆえに腐らずに残っていたのだそうだ。
てことは、珍しいのは杉の根っこもそうだけど、それが残る環境でもあるわけか?
だから何だというのか。地下水をくみ上げて作ってあるプールに沈む巨大な杉の根
は、なんかもう、すっごく気持ち悪くてね。お近くまでお越しのさいは、是非ご覧に
なってください、って感じでした。はい。
この埋没林博物館のもうひとつの呼び物は、魚津名物「蜃気楼」で、ハイビジョン
で映像を見せてくれる。この博物館近くには、これまた名物の「ホタルイカ」の博物館
もある。富山県魚津の海とは、何と色々忙しいことか。
だって、海底には埋没林とそれをとりまく怪しい地下水、海中にはホタルイカが
回遊する一方で、海上ではどこのものとも知れぬ蜃気楼が浮かびあがっちゃったり
するのである。これをして忙しいと言う以外の何なのか。こんな充実した海、他に
あるかと言うのである。いやー、すごいわ。
氷見に向かう。
氷見は富山では有名な漁港であり、そこでは安価に魚介類を売っているはず、だった。
殻つきの牡蠣を買って帰ろうという計画をたてたはものの、しかし、氷見では牡蠣は
養殖してないせいか、どこにも売っていなかった。
悔しいので、牡蠣を養殖している七尾方向に向かう。七尾には「能登食祭市場」なる
ものがあり、ここなら入手できるはずだった。で、雪の中、建物に駆け込んだが、
売っているものの、それほど安くない。1コが180円という値段は、普段近江市場で
1コ100円を目安に買っている身の上には、どうにも納得できない。
しかし、も少し奥の店に行ったら、1コ130円だった。牡蠣そのものの大きさも
変わらないし、何もなしに帰るのもシャクだし、おばさんがおまけしてくれるという
ので買ったんである。10コ入りで1300円なのを、おまけが3コ。これで1コ100円
ということになる。ガソリン代のぶんだけ高いが、まあそれは許してやろう。
つまりあれは、雰囲気を買わせる店である。土地の言葉の、化粧っけのない、
潮枯れた声を出すオバサンから買う楽しみを売る店である。そこには「浜焼き」なる
設備もあり、炭火で牡蠣を焼いて食べられるようにもなっている。
建物の中で浜焼きもなにもあったもんじゃないし、本当の浜焼きはそのへんに
落ちてる流木で焼いて食べるものなんだろうが・・・雪が横からたたきつけるような
さっむーーーい浜で煙でむせながら牡蠣を食べたいかと言えば、ええっと、建物の
中でぬくぬくして、殻は開けてもらって食べたいです。私、雰囲気、買います。
金沢に、帰る。
七尾から、道にもよるが、2時間ほど。途中、鹿西町を通る。
雪の下になっている水田の向こうには、北陸郊外の名物とも言える大きな家が
たくさん立ち並んでいる。その家並みが、どれだけ見ても見飽きないほど美しい。
あまりに大きくて立派な家を見ると、「んまあ、お宅様、よっぽど悪いことでも?」
などと言いたくなるものだが、それだとしたらここは極悪人ばかりが住む町であり、
北陸中が悪い人だらけである。が、たんなる立派な家なのではなく、同じような
造りの、広大な家の群れであるということはつまり、ここではこれが「人並み」なのだ。
色んな言い方が出来る。職人やその技術が残っているんだなあ、とか、ここまで
地縁に縛られたら住みにくかろう、とか、大きくて天井が高い家は寒くて大変、とか、
家にかける以外に金の使い方を知らんのか、とか、でなかったら最初に戻って、
どうやって普通に暮しながらこんな大きな家が作れちゃうの?とか。
なんでもいい。とにかく、同じ様式で建てた家が並ぶさまは、きれいなんである。
ヨーロッパの家並みは美しいのに日本はどーのこーのという奴らに見せてやりたい。
ここにこんなに残っているのに、合掌造りの集落のように、一種不便を強いられる
ような、商売用のような、そんなんじゃなくて、うえーーーーんん・・・って、何を
盛り上がっておるのか、私。
「きれい」というのもそうだし、「金はどっから出てるんだ?」というのもそうだし、
あまりに端正に徹底してるので、見た人によって感想の方向は変わりこそすれ、
一種異様な盛り上がりを見せずにはいられないのが、北陸の家並みなのである。
私だけでは、ないのだ。いやほんとに。
そして、休みだからというので一応温泉に行きはするが、本当の楽しみは移動しな
がらのこの家並み、景観の眺めなのであった。
帰宅して牡蠣を開けた。カニもゆでた。
実は、私の肩からは既にハサミが生えつつある。どうせなら、もう少し大きく
育てたいなと思っている。がんばってカニを食べなくては。うふふふふ。