新しい傷
運動オンチのくせして、怠け者のくせして、根気がないくせして、
色々やってみたくなる。で、昨年暮れ、骨折なんかしてしまったのである。
ちょっとしたことで、背中から、落ちた。ははははは。
落ちた直後は普通、浅い息しか出来ない。しかし、そのうち座れるようになり、
立てるようになり、一見普通に歩けるようにもなった。外野からは「誰でもやる
のよー、大丈夫ー!」という声さえも、とんだ。
おばさま、その節はありがとう。でも、皆がやるとしても、痛いものは痛いです。
これが骨折というのがわかったのは後になってからのことで、その時は少し休み、
自分で運転して帰宅した。痛みはあるが打ち身の痛みであろうと思い、しかし一応
医者に行こうとしたが、ここ3年健康診断以外に病院には行ったことがない。
同じ外科でも形成じゃなかったよなあ、すると整形外科かなあと悩み、あげくに
すぐ近くに「外科」があるのをイエロー・ページで発見、同じ外科ならとそこに行って
しまったが、後になってみれば、いつもの通り道の、もっと近くにちゃんとした
整形外科があったのだった。どうやら最初っから自分に関係ないものとして、街並み
から病院の存在を無意識に消していたらしい。私の脳内の街並みは空き地だらけか。
背中を見ての医者のセリフは「別に変形してもいないし骨が皮膚を突き破っても
おらんなー」というものだった。なんと味のあるコメントであろうか。が、そう
言われてみればなるほど大したこっちゃなかったんだなと思うこっちもこっちで。
その後、この医者に酒飲んでいいかと聞いたら、「酒は・・一番の薬やなあ〜」
と、うっとりと言った。痛みはなくなるし、気持ちは明るくなるし、だと。
センセ、何考えてんですか、まったく。聞くほうも聞くほうだが。
私は、怪我らしい怪我をしたことがない。骨折ったら吐き気がするほど痛い
らしいが、それにしては自分で帰ってこれたし、歩いて病院まで来れた。てことは、
たいしたことないのかも。というわけで、2日ほど湿布を貼って過ごし、1週間後には
痛みもとれた気がして、やはりあれは打ち身だったのねと一人で納得していた。
が、レントゲンを撮ったほうがいいとしつこく言う人はいるし、そんなに言うなら
と帰ってすぐまた例の医者に行って撮ってもらったのである。そしたら。本当に折れ
てやんの。背中側の肋骨と背骨の狭間がー。3本だっけかな??医者は医者で今更の
ようにビビり、「痛み止め、だそうか?」って、もうあまり痛かないのに、今更
のんでどうするー?
肋骨のお約束的治療法といえば、消極的治療法。つまり、安静にしとくだけ。
安静にったって、市立病院にも
MRI撮りに行けっていうし、患者さんて、けっこー
忙しいのよねえ。第一、安静ってどの程度の安静?家事でも無理しない程度なら
いいって言うんだけど、無理な家事なんて、普段からしてないぞ。それともなにか?
世間の主婦というのは逆立ちしながら足で窓掃除なんかしてるっつうんか?
そして、市立病院の駐車場の細かいこと細かいこと。私、運転始めてまだ2ヶ月
だった。今にして思えば、何故タクシーを使わなかったのか??折れたところの
構造上、タテにさえなっていれば自分自身があまりになんともなかったからで、
自分の状態がいまいち身に沁みてなかった。最初に行った医者も悪かった。骨折して
外科に行っちゃう私もひどい。ああ、健康ボケ。
そして、肝心の市立病院の整形外科の医者はと言えば、上から下までとっくりと
視線を走らせ、不思議そーーな顔して「あなたですか?」と言った。悪かったな、
元気そうで!!横になって、と言われたから、やっと患者としての本領が発揮できた
のだ。そう、横になろうとすると背中に痛みが走り、動作は緩慢になり、顔はゆがみ
声がもれ、やっと患者らしくなれるのだ。でも、そんなもんになってどうする。
医者の視線が語るごとく、私はタテになってさえいればどう見ても健康人だった。
ただ、やはりいびつな状態にあったのか、すぐ眠くなった。昼間にも関わらず、横に
なると3時間かっきり熟睡出来た。病人ではなく怪我人である私は・・・結果的に
太った。骨折のばかー。
ところで、MRIって、うるさくて狭くてこわいとご近所の奥様に脅されていたんです
けど、なんてこたあなかったです。もっとこう、真っ暗な穴蔵みたいなところに
突っ込まれてですな、キュイーーーン・・みたいな耳触りでSFな音がするのかと
思ってた。ちゃんと明るいし、ガタゴトいうだけじゃありませんか。まったく。
いくじなしが。違うか。
それにしても、レントゲンなんかなかった頃の骨折ってどんな風だったのか。
私の骨折状態が一般的なものなのかどうかわからないが、もしそうならば、少なく
とも肋骨の場合はテキト〜にやり過ごされたんだろうなあ。
あれから半年、いくらなんでも私の骨は補修されてる頃だと思う。
しかし、あまりに私がぽやんとしてるものだから業を煮やしたのか医者の奴、
「アンタも古傷を一つ持つ身になったんだからね。」と脅してくれた。
確かに時々背中がヘン。でも、それくらいのことはあるのだろう。なんたって骨折
だもん!←大得意。
ところでセンセイ、その脅し言葉、間違いじゃないにしても、少しヘン。
そう、人生における「古傷」って言い方もあるんだから、少し考えてくれないと。
こないだだってなあ、兼六園の横をおばあちゃんが「一つ二つの古傷は〜」って歌い
ながら歩いてたんだぜ!?挙げ句にこちらを振り返って、「お葬式に出す電報って、
何て言うんでしたっけ?」って聞くから。「弔電です」って。
弔電の宛先は古傷の相手なのかどうかなんて、私には聞けなかった。
そしてちなみに、私の古傷の相手は、馬である。おまけに牝馬だった。うくく。