加賀麩

金沢には、不室屋、というのがある。お麩を扱うお店である。
私はこちらに来て初めて生麩を見た。もしかすると、本当はよそでも見ていたのに、
気がつかなかったのかもしれない。そういう食べ物って誰しもあると思う。

加賀料理ではお麩は大事な素材となるらしい。と言っても私は治部煮に入れる
くらいしか思い浮かばないし、この店で売っている様々な種類の生麩に手を出そう
と思ったことはない。つまり、本当に興味がないのだが。

しかし、お好きな方々はいるのであろう。麩を扱うこの店、デパートにも
入っている。あんなくにゃにちゃした食べ物の何がいいのか、とまで言ってしまう
のは、多分こんにゃくやなるとの悪口を言うのにあたる。

わかりやすい食べ物、だけで世の中は出来ていない。そして、そうでない食べ物
に限って人類の知恵にあふれている。例えば、あのこんにゃく芋からこんにゃくが
出来る、そういう類のことである。

そういうことである一方で、こんにゃくや麩に文句をつけようなどと考えると、
お終いには勢いで三食ビタミン剤飲んで生きることになる畏れも、ある。というわけ
で、意味のない文句は一応やめておこうかなと思ったりして。←?

で。お麩に興味のない私にも、実はこの店で買うものがある。
馬鹿みたいだな、と思いながら買っている。馬鹿と思われるかもしれないな、
と思いながら他人にも教える。そのさいの言葉は、「お味としては、もちろん大した
ことありませんけど。」というものだ。もちろん、の部分に力が入るのは、見栄
というものである。

それが、コレ。一見最中だが、お椀に入れてお湯を注ぎ込むと乾燥麩、その他の
具がふわあっとふやけてキレイなお吸い物が一瞬にして出来上がる、というもの。
見栄えのいいインスタント食品と言えよう。そしてこれは1個200円もする。



この「ちょっと見」ならそれくらいの値段でなきゃいけない、というのはわかる。
ちょっと見だけ、というほどでもない部分も、ある。←歯切れが悪いなあ
だって、桃の形の最中の中華スープなんて、クコの実まで入ってるんだもん。
芸が細かいのである。

これは季節限定発売の商品も加え、何種類も出ている。それぞれ最中の皮の形も
違えば中身の乾燥麩や具のとりあわせも違って、面白いといえばまあそうだが
しかし、いくら凝っていたところでインスタント食品であることを忘れては
いけない。というわけで、面白いと思いつつ、他人様に見せるときには歯切れが
悪くなるのである。

これがたくさん入った詰め合わせも売ってはいるが、まともな主婦ならそんな
ものを送りつけられたら、怒らねばならない。一応は。本当はうれしくても。
少量ならば、「まあ、カワイイ」と喜んでもいい。←本当にか?

ちなみにこれは、留学中の息子に送るために社長の奥さんが考えついた(偶然手に
した「家庭画報」に載っていた)ものを商品化したらしい。さすが事業家の妻、かも
しれないが、母親としてはいかがなものか。留学させるならゴハンの作り方くらい
教えとけよとツッコミ入れたくなるではないか。余計なお世話だが。

しかし息子への母からの愛の創意工夫は結局、大売れに売れている。生麩と違い、
日保ちもするからお店としても一挙両得。そして、これだけ悪口書きながら、私も、
買うのだ。もちろん、気のおけないお友達用であり、「面白ネタ」としてである。

「インパクトはあります。しかし、意味がない。」・・これはその昔、三谷脚本の
TVドラマ、「王様のレストラン」の名セリフとして記憶している。これってまことに
その通りの食べ物だ。金沢の人間なら生麩を買いこそすれ、こーんなお高い
インスタント食品、口にするわけがない。口にするのは料理を知らない留学先の
息子くらいだ。←って、きめつけていいのか?

しかし、土産物ならば、買って来ることに意義があり、金沢土産ともなれば、
金沢らしさ、それ自体が意味である。というわけで、知人には「やっぱり金沢ね〜」
というインパクトを送るし、金沢に来た友人にはそれを見せるわけだ。
インスタントのお吸い物こそは金沢らしさの対極にあるというのに。ああ、くどい。

金沢らしさは、デパートのきんきらの中にではなく、近江市場の隅っこ、薄い
暗がりの中にあるのに。でもそんなの、マニアックでもなんでもない、一見の観光客
には手間がかかってしょーがないものなのだ。ああ、やっぱりくどい。

まあしかし、インスタントもここまで究めれば、しょーがないじゃないか。
というわけで、例のごとく遊び心にあふれた友人に送ったのであった。長い事情説明
であったが、友人からは、すぐさま礼状が届いた。だがその感想は、意外なもの
だった。

「最中、なので甘いものとばかり思ってました。思い込みとは恐ろしいもので、
お湯を入れろと読んだ時点で変?とは思いましたがその程度で、いざ口に入れて、
本当に驚きました。でも、お吸い物とわかったら、改めてあなたが金沢にもっと
いてくれたら、と思ったのでした。なんだか私、自分のことばかり考えていますね。」

どうやら思い込みが加わって、もう一段、余計なインパクトまで味わってくれた
らしい。そう来るとは思わなかった。でもま、いっか、面白いし。
元々どうせオモチャだしね。でも、この50行にものぼる私の苦悩は一体・・・?