カエル
カエルって、そりゃまあ蛙のことである。
ここに来て驚いたのは、蛙の声だった。転勤時期は
6月、前と横が田圃とくりゃ、
そらまあ鳴いてないほうがおかしい。しかし、その前は世田谷だったし、
その前は大分だったが海の近くだったしで、蛙の声なんて久しぶりに聞いたのだ。
夜ともなればカエル達は騒がしく人間にはわからないことを何やら訴えていた。
そのうち、その、がわがわという蛙の声が、一斉にぴたっとやむ瞬間があるという
ことに気がついた。カエルを黙らせる、人間にはわからない何かがそこを訪れて
いるらしい。
何かって何か。一応のところ、ヘビ、あたりが無難な意見であろうが、幽霊、
なんてご意見も捨て難い。金沢は古いところだからか、霊感なんてなくてもあちこち
で幽霊が見える。それは恐いものではなくて、少し前までそこにいた人々の体温の
残り、みたいなものだ。私の勝手なイメージでは、それらは田圃の上を通るのでは
なしに、ちゃんとあぜ道を通る。
で、カエルの話だった。田圃のタマゴから孵ったカエルたちは、社宅の中にも
入ってきた。うちは2階だってのに、タンス横からホコリだらけになって出てきた
のがいたのには私も笑かしていただいた。←ひどい?
1階のおうちでは、毎日が大騒ぎだった。彼ら一家ときたら、お父さんにいたる
までカエルが掴めないのである。そのお父さんはこのあいだ転勤していったが、
とうとうカエルを掴めるようにはならなかったらしい。ヒマワリの葉にしがみついた
カエルをはじきとばしながら、奥様が笑って教えてくれた。この奥様も、カエルは
掴めない。はじきとばせても。
私がカエルを掴めるようになった時はけっこーうれしくて、自慢しまくりだった。
挙げ句に社会性のある友達に、叱られた。「馬鹿っ!そんなことを言っちゃ駄目っ!」
しかし、彼女はドームのガラス器が好きなのだ。ドームにカエルは付き物で、今更
カエルが嫌いだなんて言わせない。彼女ときたら、好きであることは許すが、言う
のはいけないと言ってるのである。ほんとにもう、社会性があるんだから〜。うふ。
この間、車を犀川ダムに向けて走らせていたときのこと。
道端の木の枝の上に、茶色や白のかたまりを発見、一瞬、死んだ鳥でもひっかかっ
ているのかと思ったが、よく見たらきちゃない泡ぶくのかたまりだった。
何か。田舎育ちのくせに初めて現物を見る、モリアオガエルの卵。
その日は雨で、卵の下は小さな流れが出来ていた。でも、流れは小さくて、
モリアオガエルの子供たちはきっちり生きていけるのかと心配になるような流れ
であった。「2階から目薬」ってこのことじゃないのか。ちゃんと流れに落ちるのか。
事典によれば、カエルは大量にタマゴを産んでそれっきりか、でなくば少数を
産んで自分で大事に大事に育てるかの、どちらかということになるらしい。
母親という観念はカエルにはないと思っていたが、持ち得るカエルもいるらしい。
ところで、あのびろんびろんの長い卵を産んでいるのは私はトノサマガエルだと
思っていた。が、調べてみたらヒキガエルだったことが判明した。あんな長いものを
あの体からどうやって産み落とすのかと不思議だったが、あれは産んだあと、周囲の
水分を吸ってふやけてああいうゼリー状になるのだそうだ。
もっとも、挙げ句に10m
にもなるとすれば、やはりすごいような気がする。
鶏の産卵も毎日大変そうではあるが、卵のサイズとしては、物理的に納得がいく。
しかし、カエルのあの体から生み出されたあれがふやけて10mにもなっちゃうって
そんな・・・。そんなこと何もしらぬ気にプリムラにとりついてるカエルに話し
かけてみる。
カエル君、君ってなんて感動的な存在なのよ。んで、モノは相談なんだが、ホコリ
ダニ、好きかなあ?もし、好奇心というものがあるならば、一度、うちのベランダで
味わってみてはくれないだろうか?
・・・一昨日は久しぶりに化粧品を買いにいったが、デパートの、化粧品売り場
という舞台で、ふと気がつけば、何故かまたカエルの話になっていた。ディオール
なんか売ってるくせして、彼女は「うちの方には、ウシガエルがいるんですよ。夜中
に足音が聞こえるんです。」と、うれしそうに言った。
あまつさえ、「あれって、食べるんですよね。」とまで、言った。
カエルは、田鶏、と中国語でいう。フランス語ではグルヌイユ。(何故中国語は漢字
でフランス語はカタカナなのか。食べたいにせよ、避けたいにせよ、問題は、現地で
メニューから拾えるかどうか、なのであるが。)
ウシガエル。山の中の水場で雑巾洗おうとしたら、茂みの奥からなんとも言え
ない鳴き声が聞こえてきたことがあったが、あれがウシガエルだったのだろうか。
今にして思えば、流行の茶色の口紅をひいた彼女に鳴き真似をしてほしかった。
まあ、贅沢は言うまい。
で、うちの近くにはタヌキが出没するらしいのよー、な〜んて話で警戒心を
ときつつ、さりげなく彼女にどこに住んでいるのかと聞けば、うちの近所だった。
いるのか、ウシガエル。知らなかった。出来れば、うちのタンスの横から出現するの
だけはカンベンしてほしかった。あれを掴むのは・・・ちょっと重たい。
敵の身も、私の心も、だ。