イチゴ

植物はすべからく園芸品種と野性種(原種)とに分けられる、とは
おばさん園芸趣味家らしい色々手落ちがありすぎる言い方であって、
もうちょいまともに言うなれば、
園芸品種とは

「種子増殖、栄養増殖を問わず、形態、特性が異なる一定の遺伝子組成
をもった個体群を園芸品種と呼び、−中略−園芸品種(栽培品種)は、ときに略して
品種と呼ばれる。園芸品種は果色、花色などの小さい形質(単因子)の差の他、
早生性、晩生性、高性、矮性などの生態型の差のみでも区別されている。」
小学館:園芸植物大事典より抜粋

ということになる。その園芸品種というのは品種登録っちゅーのをされ、その
品種固有の名前で呼ばれるわけで、例えばバラならバラ、リンゴならリンゴで、
同属の植物の中で同じ名前をつけられることは、ない。

バラで「ヘリテージ」と言えば薄紫ピンクのぐるぐるした花をつける、オースチン
が作出してそれを殖やしたところのイングリッシュ・ローズであり、
リンゴで「紅玉」と言えば、輸送に向かないうえに酸っぱいので一時すたれたが、
料理加工用として改めてマニアックな見直され方をしたあれ、である。

品種登録というのは農水省がやっている。一消費者にとっては、品種名は
そのまんま品種特性のことである。つまり、変な言い方だが、見ざるが如くして見る
のが正しい品種名への接し方なのである。だが、しょせんは言葉というものであり、
品種名が時に別のイメージを喚起してしまうのは、避けられないことでも、あった。

シンビジウム(蘭の一種)の中に「マリリン・モンロー」という品種名を持つものが
ある。これが、非常に売れたそうである。作出した人は、自分の花に女優の名前を
つけている人で、「ちょっとだらしない感じの花だから、モンローにするか」という
気分でこの名にしたと何かに載っていたが。

結局、シンビにたいして興味がない人でも、思わず買ってしまったのであろう。
シンビ自体、蘭の中でも手を出しやすい部類だった気がする。つまり、歯止めが
ないわけですな。

てなわけで、その日も友達に手紙を書いていた。
手紙というのはパソコン通信やHP、まして面と向かってする話とはまた違い、
ソレ用の世界というものが、ある。というわけでその日も、薄いんだか濃いんだか
わからない話をだらだらと書いていた。テーマは、イチゴの品種名であった。

「私、大分に住んで以来、イチゴは 豊の香 と決めています。大分の晴天率に
育まれた豊の香の美味しさが忘れられません。多分この名前は豊後で、豊の国で
育成されたからこの名前なのですね。

石川県には 豊の香 の他に、女峰 や あきひめなどが入ってきます。でも、やはり
豊の香ですよね。あれば必ず豊の香の方を買ってしまうんですの。そして、なんと
言っても豊の香は語感が上品です。

発音してご覧になればおわかりになると思います。あきひめ、はきれいだと思い
ます。けど、女峰、あれだけは許せません。語感が嫌いなんですの。発音してご覧
になればおわかりになると思うわ。にょほうですよ、にょほう!ね、にょ!ほ!う!
なんですもの。ああ、思い出しただけで嫌です。許せません。にょほほほほー。←?

・・あきひめ、は名前としては良いと思います。ただ、あの外見、あれは何とか
ならないものでしょうか。いえ、形が揃うということでは、立派なものです。あれは
1つ1つがまるで造り物のような、イチゴというものの見本のような形をしてます。
ただ、何なのでしょうか、イチゴの首のあたりというか、額のあたりがいつまでも
白いのですね。きちんと全てが色づかないのです。

あまりに完璧なあの形もさりながら、あの白い部分が何だかいかにも寒そうで、
それでいて熟しているというのですから嘘をつかれているようで、白くても甘い
というのなら、今までの、赤く熟してこその、軟弱果実としてのイチゴは
一体どうなるのかと、私、ふつふつと怒りさえもこみあげてくるのですわ。

あんなわけのわからないものを口にしては御先祖様に申し訳ありませんもの。
やはりいちごは豊の香が一番です!」

・・・なんでいきなり最後の結びになってしまうのか自分ながらわからない。
にょろにょろしてるなりに異様な勢いだけがあって、自分がコワイ。
が、これを読むのは5年もやりとりしあっている文通相手なので、遠慮会釈
なくにょろにょろしてしまうのである。

この調子で色々と便箋8枚(筆マメか馬鹿か自分でもよくわからない)書いて、
細密に植物を描いたオランダ絵画が印刷されている、美しいが定型外の封筒に入れる
のはHPの文書をも同封するためである。しかし、ぱんぱんに張った封筒に
無理矢理封をしてはかりに乗せればなんと55g。友情の重さ??

そしてその重さにちょうど良い額面の切手がなかった。しょうがないのでその昔の
皇太子御成婚切手(62円)を3枚、その下に1円切手(あの偉そーなおじさんは誰?)
を4枚。わあ、なんて格好悪い郵便物。大体この切手のインパクトの前には
ルーブルから仕入れてきたオランダ絵画の封筒は何ら意味をなくしてしまう。

ふざけているととられてもしょうがないが、馬鹿にしてるわけではない。
ただ、気がおけないにもほどがある、とは言えた。その日の私の友情は定型外で
あり、重さは5g増しで190円であり、異様な外見をしていたのだ。やれやれ。

切手を補充しなければならない私に、返事が届いた。
彼女の文中の「女」という単語は、なぜか必ず「女峰」になっていた。
そして。「イチゴの品種名についてあなたがやけにこだわっているので、私も
ルビー・レッドというのを見つけ、主人に食べさせました。」

ルビー・レッド。こちとらはイチゴを使って大分の思い出に操をたてて(古い)
いる?というのに、この人はイチゴはイチゴで美味しければなんでもよく(普通は
そうだな)、そのくせこういうオシャレな名前のイチゴを発見したら、いの一番
(また古い!)に買ってきやがるのであった。

石川県でルビー・レッドという名のイチゴを見かけたことは、まだない。
いいよ、私は「豊の香」で。ふん。