8/20:新岩間温泉に

  来年の今日、金沢にいないかもしれないとなれば、何もかも秒読みである。
日曜なので、どこかへ出かけようという話になり、最初は懸案の九谷焼の美術館へ
行くはずがガイドブックを忘れてしまって、それじゃしょうがないから白山の
新岩間温泉に行こう!!ということになった。懸案は、たくさんあるのである。

  関係ないが、白山近くの勝山ではただいま恐竜博が開かれていて、中々の人出
なのだそうだ。30万人目のお客さんがTVに映っていたが、それはいかにもその場に
相応しいカワイイお嬢さん、そしてその家族連れだった。

  一方、県立美術館では 5万人目のお客さんを迎えたが、これがもそっとした
一人の大学生だったそうで、まちかまえていた館長が記念品をささっと渡して
ハナシは終わり。当然クス玉が割られることもなく、報道陣のフラッシュもないが、
それはそれで場に相応しいのであった。

  家を出たのは昼前。途中、本屋に寄って懸案の登山地図を入手した。
新岩間温泉というのはどういうのかと言えば、白山スーパー林道の直前から右に別れ
て奥に入り、なお 1時間ほど歩いたところにある露天風呂、そして、もう1時間
多少の山登りをしたところにある噴泉群あたりのことらしい。

  その日は道中の途中にある一里野スキー場で野外音楽祭があるとのことで、道は
混んでいた。車間距離を充分とりつつ 50km/h で走り続けられるが、車は数珠つなぎ。
そう、混んでいるが渋滞ではない。当の一里野スキー場でちょっと早めの昼食。

  途中からスーパー林道へ行く道と別れ岩間温泉を目指すが、これがサムい道で!!
ガードレールもろくにない、右も左も断崖絶壁。途中、カモシカ親子に出会うが、
さすがは山の中、カモシカの態度がでかい。さっと逃げるくらいならまだしも、
しゃあねえなあ、ど〜れ、よっこいせ。ってかんじ。

  カモシカも平らな道を歩きたいのかもしれない。
道路から絶壁の方に降りて行ったカモシカであったが、天然記念物なりに、彼らの
体質なりに、死因の 9割は墜落死だろうなあ、なんて考えてしまう。ついでに
高所恐怖症のカモシカなんてのは、存在しないんだろーなー、なんて。

  狭いS字カーブを少しづつ車で登っていくと、やがて1軒のふるびた旅館に着く。
山崎旅館、といって、これはこの新岩間温泉を開いた人が作った。多分、夏だけの
宿である。白山スーパー林道だって冬は閉鎖される。除雪車は一里野スキー場あたり
までしか来ないに違いない。旅館の近くに車を置いて、これから先は足で登る。
道端に、ピンク色の小さな花を発見。これは多分、ハクサンフウロ。

  白山の名前を持つ植物は多いらしいが、総数どれだけになるのか私にはわからない。
こないだのスーパー林道で見つけたピンクのオカトラノオは多分、カライトソウで、
これの学名は Sanguisorba hakusanensis Makino  。わかりやすい学名だ。つまり
白山の Sanguisorba 属で、牧野富太郎が見つけたよ、と。日本原産。

  柵も何もない山道を歩く。もっとも山道と言ったところでその気になれば車も入
れる程度の幅はあり、舗装されてないというだけのハナシで、この道、はっきり
言って、ちょろい。坂も急坂ということはなく、階段でもなく、ただゆるゆる
のんびりの上り道。途中、山の斜面から落ちてくる細い小さな滝が作るこれまた
ささやかな、握り拳二つぶんほどの滝壷に、ビールが1缶冷やしてあった。

  目をひいた花は、草牡丹(Clematis stans)。クレマチスをきれいだと思ったのは
初めてだ。ハンゴンソウらしきもの、アザミらしい、大きな葉に特徴があるものは
まだつぼみだった。
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  ここは豪雪地帯、である。冬の雪は、道にも山の斜面にも積もる。山の斜面から
ズリ落ちてきた雪は道にたまる。たまりたまった雪はやがて、道をはさんだ反対側の
崖の斜面の雪とも一緒になって、さながら道が出来る前の状態に戻る。

  春になると、雪は溶けて雪崩れ落ちる。このとき、下手すると、道も一緒に崖下に
落ちる。実は、この、新岩間温泉への道は1年ほど通行止めだったのである。
道に残った雪は、ブルドーザーか除雪車かで崖下に落とされる。落ちるときには
斜面の土に紛れた植物の種子も一緒である。

  途中、男女が降りて来てすれ違ったが、女の手には草ボタンやらシャジンやら、
青紫系統の植物があった。(ああそうか、だから手の届く範囲になかったのか!)
道の反対側は覗き込むのもいやになるようなコワイ崖で、はるか「下」に見えているの
が、滝。もちろんそのまたはるか下にあるのが、川。
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  道への、雪の干渉を思い出してみれば、なるほど山側にある花は、反対側の崖の、
手に届かないところにも生えているのであった。ここでは雪のおかげで、たえず植物
は更新されているような気がする。それが結局変異の多さにつながるのではないか
と思うが、雨ノ森、しろーとだからわかんないや〜。(^^;)

  もう、ツリフネソウが咲いている。去年某所で種子をとろうとしたが、駆けつける
のが遅くて、どれがどれだかわからなくなってしまっていたっけ。今年こそは採取
出来るといいな、と思う。時にすれ違う人々は、私達が登山らしい服装をしてない
のに驚いた顔をする。階段ひとつないだらだらした道に、どんな格好をしろと言う
のやら。私達がのんきなのではない。彼らが大袈裟なんである。ほほほほほ。

  50分歩いて、岩間温泉の露天風呂に到着。岩で作った浴槽の横で、おじさんたちが
トランクス1枚でくつろいでいた。その手前には、建物が建築中だったが、はたして
これは共同浴場なのだろうか?水は川からひくとしても、お掃除とかどうするんだ
ろう?いっそ吹きっさらしの露天風呂の方が清潔な気がしないでもない。ここまで
きたら、カモシカやクマやタヌキと一緒の風呂でもいいじゃないか。

  ここからもう少し急な山を登ったところに噴泉群があるはずである。
そこまで行けば、また別の植物と出会えるのかもしれない。しかし、時間が押して
いた。ついでに言えば、噴泉群は見飽きている。引き返そうと振り向けば、露天風呂
の横にいた一人のおじさんの白いお尻がひとつ。今まさにぱんつをおろしてお風呂に
入ろうかとしてたわけで。ああ、露天風呂。

  また50分かけて同じ道を戻った。小さな滝壷の中の缶ビールはなくなっていた。
車を置いてある旅館前の自販機で、普段は飲まないコーラを飲んだ。一里野から先の
道はすいてるわけでもなかったが、2時間かかることもなく、帰宅できた。

  今年こそ採取しようとしたツリフネソウが咲いている道が、落石で通行止めに
なってるのを発見したのは、それから3日も後のことだった。トホホ。