伯方の塩は、いいらしい

  以前、「あなたのお値段はいくらか?」というテストが流行ったらしかった。
何故「らしかった」という言葉になるのかと言えば、ダカーポ誌に書いてあった
からで、自分がそんな現場を見たからではない。

  で、くだんの「あなたのお値段」の設問の中には、「あなたが死んだら、何人の
人が泣いてくれるか?」というのがあるらしい。これが中々考えているらしく、
少なすぎても、あまり多すぎてもペケ、なのだそうだ。

  で、私が死んだら何人の人が泣いてくれるかと考えたが、とりあえずは一人、
という答えが出た。泣く、というのが純粋に悲しむ、という意味なら、夫一人と
いうことになりはしないか。(と聞かれても困るだろーけどなー)

  大体がとこ、親兄弟であろうとも、多少の利害関係は含むから、単純に泣くとは
思えない。考えてみりゃ、夫だって私に対して多少のアテはあるだろうから、たんに
泣いてくれる人って・・・ゼロか。あらまー。

  しかし、本来そんなもんであるということは、多少の年齢になった人間なら、
誰しも知っている。いい年の人間であれば、なんらかの責任やら役目やらを果たさ
なくてはならず、そういった関係の中に感情がちょっくら混じって、少しは涙くらい
出るだろうが、純粋ってわけにはいかないのである。つまりこれは、質問の言葉の
方が間違えている!

  ・・・実は、少し前に、同じ社宅で人が亡くなった。
突然死というやつだった。一家の柱を亡くした人も困っただろうが、会社の方も
困った。「冥福を祈る」なんていう言葉は、たいして関係のない人のセリフなの
だということが、非常に良くわかった。故人と近しい人々は、責任を分担する人々
こそは、普通、忙しくてそれどころじゃないのである。

  急な葬式ならではのバタバタのはしっこを分担しながら、人並みの人間なら
人並みの年齢まで、人並みに生きて人並みのやり方で死ななきゃいかんのだなあと
力一杯、教えてもらったもんだ。なるべく、がつくが。

  最近、その部屋の表札が落ちてしまう、ということがあった。
私はお当番なので表札を修理した方がいいのだろうけど面倒くさいなあと思って
いたら、夫が「あれはそういうことだ。」という。へ???

  つまり、あの部屋は次の人が入るまで、ないことにしておけという意味なのだと
いう。なるほど。そんなわけで、その表札は付け直さないまま、同じ部屋の
ポストに入っている。

  その後、同じ社宅の奥様方にそのことの了解を求めようとした。
「あのー、コワイ話、平気?」「平気平気ー!」
「それじゃその、XXX号室の表札のことだけど。」「ぎゃーーー!ここの話は
やめてーーーえええ!!」・・・どこが平気やねん。(^^;)

  「平気よー、もうここにはいないって。」
「だけど、何か思い残すことがあるかもしれないしー。」
「そんなら余計にここにはいないでしょうが。」って、ああ、やっぱり人並みの時期に
人並みの死に方をしなければならないんだなあ。大体、自分の場合に置き換えて
みりゃ、そこまで気合の入った不人情な話は出来ないはずだが。

  そんなこんなであったが、ある日、お友達から電話があった。
彼女とは色々連絡とりあっているので、事件のことも知っている。

  「あんたさ、あれから何も言わないけど、結局あの部屋、どうなったん?」
「ああ、あの部屋はですね、当分空き部屋にしとくらしいですよ。」
「ふーーん。お盆、じゃない?何もしなくていいわけ?」
「帰るのはここじゃありませんよ。こんなとこ、何の未練もないはずです。」

「あんたね、地縛霊ってもんがあるでしょうが!!」
あるかもしれませんけど、そんなの見たこともなければなったこともありません!
「しょーがないわねえ、いい、お盆を迎えようというのだもの。教えたげるわ、
これだけはやっとかないとね。」新盆を迎えるのはご家族であって、私じゃないん
ですけどー。

  「いい、塩をね、玄関先に盛るのよ。こう、三角にね。」
盛塩って、お商売じゃあるまいし、逆に先客万来とばかりに余所のいやなもんまで
招いてしまいません?「何言ってんのよ!!いい、伯方の塩を使って・・・」
「最近のうちの塩は、知人がくれたフランスの塩なんですけどー。フランスの塩
ではいまいち役に立たないような気がしません?」

  「あんたって人は、九州に暮したことがあるくせに。何故、伯方なのかわから
ないのっ?」「・・・何故、伯方なんですの?」「ええいっ、しゃらくせいっ!
いい、伯方の塩の湿り気、それが大事なのよっ!」へっ??

  「伯方の塩はねえ、かなり水分を含んでいるのね。それを盛塩にすると、時間が
経ったあたりでその水分が蒸発してねえ、なんかこう、いかにもなにかがそこを
通って、塩を壊したかのように見えて、とっても気持ち悪いのよ。その為にやるん
じゃないの。」

  どーでもいい伝説を作らない為にも、人間は人並みのときに人並みの理由に
よって人並みの死に方をしなければならないとほんっとーーーーーーーーおおおに、
思った瞬間であった。なるべく、がつくが。