溝の口、駅前中華の巻

 東急田園都市線溝ノ口駅、にしてJR南武線武蔵溝ノ口駅前、には
ヘンな中華料理の店がある。駅前ったって、どこの出口だと思われるかもしれない。
高津区役所方面出口である。一応、バス停はあるのだが、こちらは丸井が
ある方とは全然趣を異にしている。寒々しいとまで言っていいのかどうか。

 で、その駅の方からバス停を見ると通りを渡ったところにカラフルといえば
聞こえはいいが、悪趣味な色に塗られたビルがあって、その2階の窓には
「新しいタイプの居酒屋中華」とこれまた怪しい文句が躍っている。

 ここを通りかかるたびに、「怪しい・・・絶対に、怪しい!!」そう思ってきた。
元々溝ノ口といえばラーメン・グルメの街で、同じ出口を行った先には割と有名な
「むつみや」なんかあって、ラーメン屋の数が非常に多い。そして中には、
「泥のようなスープのラーメン」を出す店もあって、元気に営業してたりする。

 何故、「泥のよう」かと言えば、味噌だからか何なのか、スープの色と食感が
限りなく「泥」を思わせるからである。これを食べたとき、私はパール・バックの
小説「大地」の映画版を思い出した。飢饉で食べるものがない中、煮炊きの煙が立ち
上っている家があり、入っていくと、鍋の中で温められていたのは、泥であった、
というシーンである。味覚のストライク・ゾーンというのは、存外広いのかも
しれないと思わせるお味であった。

 ・・・何の話であったのか。とにかく、私はこちらに帰って以来、まともな
中華料理を食べたかったがありつけず、近場にあるのはラーメン屋ばかりだった
という話である。問題のビルの2階の広告には、中華と言ってもラーメンを数に
入れてないところが気に入ったのであった。

 で、例の如くある日、いてもたってもいられず、「まずいなら、まずいとわかった
ということで、いいじゃない!!」と自分に言い訳して入ってみたわけだ。
外見も怪しいけど、中もまた怪しかった。以前は居酒屋だったらしい店のつくりで、
イスもお座敷もある。

 店をやっているのは中国人達だった。中華料理屋というだけでは流行らないと
思ったのか、酒を色々安く出して居酒屋ということにしたらしい。しかし、料理は
中華一辺倒なのである。よくわからん。だが。うまかった。料理は香港下町の
テーブルむきだしか、ビニールクロスがかかってる店、といったふうだが、
久しぶりに火傷しそうなのを食べたのである。

 その後、夫を連れこむのにも成功した。というか、夫だってまともな中華料理が
食べたかったのであろう。夫も気に入ってくれたのは良かったのだが、心配なのは、
店の構えがあまりといえばあまりなので、料理に比べてお客さんが少ないことである。

 連れて行く相手は、限りなく選ばなければならない。余程親しい間柄でないと、
まず、その店に入って食事をしてみる気になったということに対して、軽蔑される
かもしれないからである。それくらいヘンな店なのだ。カップルで来ているのを
見ると、デキているとかなんとかを通り越して、その結びつきの強さというか、その
特異性がうらやましくなるくらいである。簡単に言えば、「似合いのカップル」だな。

 ものは中華であり、なるべくなら大人数で行きたい。それで妹に電話をかけて
みたのだが、妹の奴、あれから一週間も経ったというのに、まだ微熱なんか出して
いやがる。役に立たないなー(おいおい・・・ ^^;)と思いつつ、たたみかけた。

 「その店のメニューには値段の違うのがあってね、おつまみメニューの量少なめの
やつと、本格中華でまともな量が出てくるのなのね。で、今度はオマエ達と一緒に
来なければダメだわね、と話したのよ。その時には、こっちの高い方を食べなくちゃ
って、そう言ったのね。

 ・・・そしたらあの人ったら、安くて少ない方でいいって言うの。何故かと
聞いたら、安くて少ないのを、人間の数を頼んで全種類食べようって言うのよ〜。
なるほどそういうのもアリかもしんないなあって。」妹の返事はと言えば、
「アリだと思うよ、お姉ちゃん。ごほっ、ごほっ、ごほっ・・・はーーー」だと。

 そんなわけで、病気なんか早く治して、一緒に美味しいものをた〜んまりと
食べましょうね、という結論に持って行ったのであったが。ああ、早く食べたい。