研 修 日 記
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××年○月○日
突然の仕事依頼であった。某メーカーの得意先二世教育研修の依頼が1か月前にあった。一日で財務の基本を教えることになった。B/S・P/L・損益分岐点などを理解してもらう研修である。ただし、今度は受講者が三人とのこと。えっ、さんにん〜?受講者にしてみればこんな贅沢な研修はない・・・。もちろんプロの研修講師は1000人でも3人の前でも行うが、あまり少人数だと受講者が緊張する。なんせ居眠りなどできないから〜。それだけに講師サイドとしては入念な準備が必要になる。受講者を退屈させずしかも飽きさせないようなプログラムを組まねばならぬ。しかも中味は財務研修・・・。おかげで準備に一ヶ月もかかってしまった。でもそのおかげか受講者以上に担当者が喜んでくれた・・・。
××年○月○日
今年初めての仕事は大阪から始まった。それも500人を前に話す講演である。テーマはズバリ「意識変革」。事前にパワーポイントのスライドを用意して会場に臨む。型どおり担当者と挨拶を済ませた。そのとき、担当者が済まなそうに言う。「先生、申し訳ないのですが参加者が増えてしまいました」「ほう〜、それはいいことじゃないですか。でっ、何人になりました」「それが倍の1000人になってしまいました」「せんにん〜?」一挙に倍増とは〜。会場を覗いてみると確かに千人分の椅子が用意してある。それは壮観だ。ただ、一番後ろに立ってみるとパワーポイントの文字が見えない。こちらは500人のつもりで準備してきたのだから当然だ。仕方ない、開場まで30分あったので自分のパソコンを取り出し、急遽スライドを作り直した。文字の大きさを最大にする。なんとか本番には間に合わせることができた。聴衆の反応も上々であった。ただし、汗だく、疲労困憊。こうして汗まみれの一年が始まる。
××年○月○日
真夏の出来事であった。某県の研修所では受講者が50人と大人数のため会場の冷房がきかない。しかもその日は外の気温は37度。冷房を最高にしても会場は蒸し風呂状態。う〜、暑い!暑すぎる〜。だから一度に50人は多すぎると言ったんだ!受講者は暑い暑いとテキストを扇子代わりにして煽ぎ出す始末。あまりの暑さに居眠りする者はいなかったが、放心状態の者が何人かいた。予算の都合で研修を一度に行いたい気持ちはわかるが、やればよいというものではない。その効果の程もぜひ考えていただきたいものだ。研修終了後講師控え室で「いやー先生、暑い中申し訳ありませんでした」と担当者がダメ押しをするかのように熱いお茶をいれてくれた。
××年○月○日
とある真夏のある日、某企業の研修中突然午後から冷房が壊れた。せっかく涼しい環境の中で快適に研修をすすめてきたのに、冷房が効かなくなってしまった。不可抗力とはいえやっぱり暑い!う〜、暑すぎる!窓を開けてもほとんど効果がない。全身汗まみれになりながらも講師として研修を中止するわけにもいかない。あとは受講者とがまん較べ大会。受講者からは「暑くて集中できませんよ」という苦情が聞かれる。おー、おー、わしだって講義に集中できんわい!
××年○月○日
とある真冬のある日、さる地方の山の上の研修所で管理者研修を行うことになった。駅からはタクシーで来てくれということだったので指示に従った。しかし、当日はあいにくの雪。しかも道路は昨日からの雪で積雪は上に行くほどその量は増す。突然運転手さんが言った「お客さ〜ん、悪いけどこの先は歩いてくれませんか」「えーっ!」「もうこれ以上は上れそうにありません。大丈夫ですあと100メートルも歩けば研修所です」
そうは言っても雪はまだ降り続いており積雪もかなりの量だ。それでもしかたなく歩き始めた。革靴はびしょびしょになり足場も悪く何度も転びそうになった。しかもどんどん時間ばかりが過ぎてゆく。時計を見ると研修10分前。本来ならとっくに会場に着いており、今ごろはくつろいでいるはずだった。だんだんあせりが出てきた。講師が来なければ研修は始まらない。どうしよう!息をきらしながらなんとか坂を登り会場に着いたのは3分前。担当者に「いや〜、申し訳ありません」と息を切らしながらわびると、担当者曰く「いや〜、大丈夫ですよ。受講者の乗ったバスも遅れておりまだ誰も来ておりませんから〜」。全身の力が一気に抜けていくのが自分でもわかった。
××年○月○日
とある真春のある日、新入社員研修を風光明媚な観光ホテルで行った。結構立派なホテルであった。しかし研修会場となる部屋を見て驚いた。豪華なのだけれどそこはどう見ても和室なのである。和室に絨毯を敷いて机と椅子が並べてあった。まあ、それはそれでよいのだけれど、ひとつ困ったことがある。部屋の入り口もドアではなく襖なのであった。訪問挨拶のロールプレイをドアをノックして入るところから行う予定であったのに、襖ではできやしない。両膝ついて襖に手をかけ「こんばんわ〜」と言う訳にもいかないだろ。これじゃ芸者さんだ!!
××年○月○日
とある真秋のある日、研修会場は有名なリゾートホテル。部屋も快適だし食事も申し分ない。こんなところで研修やるなんて儲かっている企業は違うなー、といたく感心する。昼食ですら秋の味覚懐石料理であった。それは確かに素晴らしい料理ではあったが、いかんせん懐石料理なので料理が一度にでてこない。12時から昼食が始まって40分経ってもまだご飯がでてこない。だんだん不安になってきた。係りの人に午後1時から研修始めるので急いでくれるように申し入れる。しかしまだ料理はつづく。10分前頃ようやくご飯が出てきた。そして結局昼食が終わったのが1時15分。受講者は昼食後の休憩抜きでそのまま研修に雪崩れ込んだ。
××年○月○日
うららかな秋の午後、舌も滑らかにリーダーシップの講義にもますます熱が入る。受講者の真剣な眼差しが研修講師に注がれる。そんな一瞬、どこからともなく三味線の音が聞こえてきた。およそ場違いな音ではあるが、心地よい調べが聞こえてくる。一瞬言葉に詰まる講師。受講者も苦笑。なぜ、こんな時間にこんな場所で!疑問は次の休憩時間に氷解した。隣の部屋で芸者さんの研修を行っていたのだ!もちろん研修とは銘打っていないが、「若草会」という名前で三味線と踊りのお稽古をしていた。部屋のドアが空いており、入り口には草履がたくさん脱ぎ捨てられていた。受講者とともにしばし見とれる。艶町のお姐さん方が大勢着物を着て全員で踊る。それは壮観な光景だ!講師の先生は男性で粋な着流し姿。う〜ん、カッコイイ。「どうせ講師をするならこちらのほうがいいな〜」思わず口走ってしまった普通の研修講師でした。
××××年○月○日
外は木枯らしが吹き荒れる。しかし研修会場は暖房が行き届いておりほかほか陽気。しかしこんな日の午後は受講者にとってはむしろ苦行となる。昼食後2時から3時くらいは魔の時間帯と呼ばれ、受講者は睡魔に熾烈な戦いを挑まれる。研修講師としても講義は避けたい時間帯だ。そこで今日の財務知識に関する講義は午前中に集中して行うことにした。しかし、朝9時に講義を始めたとたん堂々と居眠りを始める女性がいた。ちょっと部屋が暖かすぎるのかな?と思い設定温度を下げた。目を覚ました女性が次の休憩時間に設定温度を自分で上げていた。そして休憩後講義を再開するや、また居眠りを始めた。私は再び温度を下げる。すると女性が目を覚まし私を睨みながら手を挙げた。「ちょっと寒いんですけど!」かなり強い口調である。こう言われては仕方がない。温度を再び上げる。女性は満足したように再再度寝入ってしまった。この女性はいったい何をしに来たのだろう?講義がつまらなくて眠くなるということはあるが、この人は最初から寝ていたのである(トホホ)。
××××年○月○日
同業の研修講師の中には中堅社員研修は苦手という人が多い。新任係長・課長研修では受講者にもそれなりの心構えができているが、彼らは中堅とはいえ20歳台が多く、まだまだ中堅としての自覚も浅く、しかもストレートに講師に文句をぶつけてきたりするからだ。でも私は中堅は好きだ。
彼らは研修がつまらなければ、露骨につまらないという顔をする。そこでこちらサイドのテクニックとしては随所にワークをおりまぜる。今日もそろそろ講義にも飽きてきたようなので、すかさず全員に立ってもらいワークを行う。おおっ!みんな楽しそうに盛り上がっているではないか!こちらの期待以上に盛り上がっている。よーし、それなら今回はこの調子で行くぞ!
3日間「問題解決」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「後輩指導」などについて学んだが、盛り上がるだけ盛り上がった研修だった。先方企業の担当者も大いに満足していた。研修最後に感想文を書いてもらう。後で担当者に見せてもらったら「楽しかった」「とっても楽しかった」「楽しい3日間でした」「とても楽しく過ごせました」のオンパレード。
研修担当者曰く「先生、私は今回の研修は大成功だと思ってます。研修のねらいはすべて達成できました。でも、この感想文だけ見た上司はどう思うでしょうか・・・?」「それはね研修というのはつまらないもの、という先入観をみんな持っていたからですよ」「そうですね。彼らの気持ちはよく分かるし、私も3日間立ち会って大変有意義な研修だったと思うのですが、でももう少し書き方があると思うんです・・・」「それなら次回からは感想文の設問を変えればいいのですよ」「そうか!先生それ先に言ってくださいよー」「・・・・」
社員研修とは受講者ばかりが満足してもだめなのです。
××××年○月○日
今日は新入社員研修だ。毎年毎年この時期になると新入社員研修の依頼がくる。毎度のことではあるがそれでも社会に巣立つ彼らを見ていると、こちらまで身の引き締まる思いがする。彼らにとっては初めての研修だけに、いいかげんな研修を行えばそれが彼らの研修イメージになってしまう。それだけに決して手抜きは許されない。
「社会人のマナー」「挨拶」「言葉遣い」「電話応対」「職場の対人関係」などなど2日間かけて行う。さすが超氷河期に難関をくぐり抜けてきただけあって、受講者は大変まじめで素直である。全員が熱心に取り組み、取り組んでいるうちに社会に巣立つ不安もだんだん払拭されてきたようだ。
緊張の中にもなごやかな雰囲気で2日間の研修も無事終わろうとしている。最後に全員に勇気づけの言葉を述べて終わろうとしたところ、先方企業の担当者が「先生、ちょっと待ってください」「なにか・・・?」「2日間お世話になった先生に我々の感謝の気持ちを受け取っていただきたいのです」。そう言うと新入社員の代表者が大きな花束を持って前に進んできた。あまりの大きさに一瞬絶句。プロの歌手にあげるような花束だ。
丁重に受け取る。おっ重い!気持ちは大変うれしいのだが、これを持ってこれから電車で一時間もかけて帰ることを思うと涙が出てくる。30分後、中年のおじさんが大きな花束を持って女子高生のたくさん乗った電車に一人佇んでいた。右手に花束、左手に黒革カバン。既に右手は麻痺し感覚がなくなりつつあった・・・。
××××年○月○日
若い女子社員研修は意外とむずかしい。むくつけき男を相手にするよりも華やかでよいではないかと思われるかもしれないが、実際には結構気を遣う。特に研修の最初の頃は受講者同士がお互いに様子を伺ったり牽制したりする。また、講師そのものを値踏みすることもある。だから、特定の人を誉めたり逆に非難するのは要注意だ。一つ間違うと全員を敵に回すことになる。
今回は対人関係を中心にすすめてきたが、盛り上がりもあり和気藹々とした雰囲気で無事終わりを迎えることができた。受講者にも笑顔が見られ満足感が見て取れる。会場を後にしてホテル玄関のタクシー乗り場に向かう。途中の売店では受講者の一人と研修担当者が買い物をしていた。その二人は私に気づくとタクシー乗り場まで後を追ってきた。タクシーに乗り込もうとする私に、手には大きな紙袋を下げながら「今日は本当にありがございました。大変勉強になりました」と丁重にお礼を言われた。
今までの経験からその紙袋が何を意味するかは大方察しがついていた。時折気を遣ってくださる企業さんがあることも事実だ。しかし今回は違った。担当者は紙袋を下げたまま頭を下げるだけだった。そしてタクシーはそのまま会場のホテルを後にした。
いや〜、うっかり手を出さないで本当によかった!
××××年○月○日
最近はプレゼンテーション研修もパソコンを使って行うことも多い。今日もパソコンをプロジェクターにつないで、スクリーンに映し出しながら研修を行っていた。全員の視線がスクリーンに釘付けになる。
そんな時、突然研修所の人がドアをノックして前のドアから入ってきた。「講義の途中で申し訳ありませんが、ちょっとマイクひとつお借りできませんか」と言う。マイクは2つあったので私が「どうぞ」と答えるとその人は、おずおずと部屋に入ってきた。
その時である。「あっ!」という声とともにパソコンとプロジェクターの電源が落ちた。そう電源コードを足に引っ掛けてしまったのである。私が注意しようと思った矢先、一瞬のことであった。そのため研修は急遽10分間の休憩。さっき休憩したばかりなのに・・・。
××××年○月○日
先日さる研究所から問題解決研修の依頼があった。事前の打合せで先方担当者から「先生、私どもには大卒は一人もおりませんからそのつもりでやってください」と言われていた。「研究所なのに大卒が一人もいないなんて・・・」と思いながらも、研修会場へ向かった。
行ってみて驚いた!確かに大卒は一人もいなかったが、全員院卒であった。マスター、ドクターの集団であった。中には世界的権威と呼ばれる人までいたのである。ギョギョ!
××××年○月○日
今日は20代を対象にした「若手社員研修公開講座」を担当した。定刻には全員集まっていたのだが、中にどうみても20代には見えない参加者が一人いた。どう贔屓目に見ても40代後半にしか見えない。しかし神妙な顔をして席に座っている。時間がきたので「若手社員の立場と役割」などと始めたところ、その老けた受講者が妙に落ち着かないそぶり。それは始めてから10分もしたころであろうか、その受講者が突然手を挙げた。「すみません。この研修はライフプラン研修ですよね?」「えっ?それは隣の教室で行っているはずですが・・・」突然その受講者は荷物をまとめ脱兎のごとく部屋を飛び出した。他の受講者の間に苦笑が漏れる。皆もやはり違和感を感じていたようだ。
××××年○月○日
講演は限られた時間であっても一人で話し続けなければならないので結構疲れる。今日も企業の監督者200人を前に半日程話をしてきた。熱気に包まれた会場で私は大勢の受講者に尋ねた。「この人だったらどこまでもついていきたい、と言えるのはどんな上司でしょう?」皆は真剣に考える、しばし沈思黙考。会場は静まりかえる。その時、突然隣の部屋から「わたし〜が〜捧げたその人に〜」下手な歌声が聞こえてきた。そうここはホテルのパーティ会場。隣では何かの会合の懇親パーティーの真っ最中。私は言った「そう自分を捧げたいと思うような上司なのです!」会場は隣に負けないくらいの大爆笑の渦でした。