もっと遠くまで行こうとする発想なんですね。
〜佐藤文明さんの講演会感想文〜
土屋聡
実は、9/22の10周年記念講演会が、別姓を考える会の解散記念講演会にならないかなって、心密かに思っていたんです。世論調査の結果が出て、森山大臣あたりも乗り気で、小泉首相も野党を絡めるために、自民党の反対論をよそに、意外の簡単に民法改正をするんじゃないかな...なんて思っていたんです。実際、にわかに新聞・テレビの取材件数も増えました。今回は、戸籍に焦点を当てた講演会なのに、民法改正後の別姓ハウツーを求める人がいっぱい来ちゃったら、どうしよう...なんて、皮算用していました。
しかしながら、9/11の事件で、取材予定も減っちゃったり、国会も民法どころじゃない!という事態。むしろ新たな課題が、見えてきてしまっている今日です。みなさんは、今後の展開をどう展望していることでしょうか。どのへんから、どう打開していったらいいもんでしょうか。
さて、今回の講演会のことです。私としては、初心を振り返り、今後の展望を明らかにすることを、一つのめあてにしていました。安易な「とにかく改正されればいいんじゃないか」というこの頃の動向に、とても批判的だったんです。かつて、法制審議会の中間報告を巡り、「同戸籍」「別戸籍」「個人登録」と、論議したはずなのに、いつの間にか、子どもの姓をどうするかばかりです。私たちは、何がほしいの?と、問いたいと思ったんです。そこで、10年前の別姓を考える会の講演会にお招きした佐藤文明さんを、再びお招きしたんです。やっぱり、こういうときは、文明さんなんです。
今回の講演会で、文明さんは、とっても多岐に渡るお話をされました。「さすが文明さん!」と感じましたよ。文明さんの話が聞けて、ほんとよかったなあ。やっぱり、なぜ別姓なの? 何を求めているの? という問いは、必要だと思いました。「便利な別姓」「おとくな別姓」を進めたくない。そうあらためて感じました。
文明さんのお話を聴きながらメモした幾つかを、書いてみますね。
■欧米では、結婚証明を出してくれる。結婚は、あくまで個人と個人の契約。公にすることなく成立する密約としての契約。しかし、個人と個人の契約なので、どちらかがうそをつく場合もあり得る。そこで、トラブルを防ぐ目的で、公にする。それが、結婚登録。国家のためではなく、あくまで自分たちのために登録をする。けれども、日本の場合は、初めから国家のため。婚姻を把握しようとする人たちのための制度になっている。欧米では、事実(結婚)を報告することが登録だが、日本では、報告(届け出)することによって事実(結婚)が形成される。
■欧米では、ファミリーネームがある。〜ジュニアとか、親などとすっかり同じ名前とか。それは、商売などで仕事を得るために、自分で選んでいること。会社の名前を付けるのと同様に、名前を付ける・変更する自由がある(ただし、変更することによる損失も考えられるので、それは信用問題としては、大変)。ところが日本の場合は、氏は家制度によって、否応無しに付けられているもの。自分で選ぶ自由・変更する自由がない。明治時代以前には、一人の人に、俳句用の名前・お花用の名前などいろいろ名乗る自由があったのに。
■人々の暮らしの動向を見張る。結婚を見張る。出産を見張る。変化が生じたら、すぐに届け出をさせる。それが日本の届け出制度。届け出ない者を生じさせないように、届け出ない者を差別する。これが、現在の法律上も残っている、子どもへの差別だ。国が、作った差別。明治時代以前、婚外子差別は、日本にはなかったのに。
■戸籍制度の導入期、軍・警察・学校で、戸籍制度(届け出制度)の徹底が図られた。届け出なければ、いじめられても仕方ない...という指導・教育。軍隊では、結婚は許可制。市長・村長などのお墨付きがなければ結婚ができなかった。戦後、戸籍法の改定が模索されたが、戸籍護持派の強い反対で、滞った。結局1965年の法制審議会で「届け出する習慣が定着した」ゆえ、戸籍法を変える必要はないとのことになった。しかし、1967年に起きた飛行機事故で、たくさんの新婚旅行客が亡くなり、届け出をしていないカップルがほとんどであったことが露呈。届け出が定着していないことを証明してしまった。政府は、慌てて届け出キャンペーンを張ることになる。
■民法改正案についての議論について。結婚年齢が、現行法だと、女性が16歳から、男性が18歳からになっている。改正案は、平等を図る意味か、両性共に18歳ということで、とくに議論もない。けれども、これは両性共に16歳にすべきではないだろうか。結婚というものは、こういうものだという発想が、私たちの中にあり、それが結婚の要件を狭くしてはいないだろうか。
私としては、メモの最後に書いた「結婚の要件を狭くしている」という話が、一番心にずんと来ました。いろんな生き方あっていいと言いながら、結婚とはこういうものだ、と狭く考えていたんですよね。自分の生き方は自分で選びたいと考えているなら、
「16歳で結婚なんて、まだ早い」
と、未知なる若者たちの意志をよそに、一律に生き方の幅を制限すべきではないんです。いやはや、たくさんの気づきがあった文明さんの講演でした。文明さん、ありがとうございました。
初心を振り返り、今後の展望を明らかにする...私としては、文明さんのレジュメにあったように「もっと遠くまで行こうとする発想」を、売り渡さないように!と決意しているところです。たぶん、遠くない未来に民法改正はなされるでしょう。しかし、それはきっとどこか不十分な...新たに差別を生むような...ものになってしまう可能性が高いと思っています。何だか敗北的ですが、子どもの姓の選択を出生時にしても、婚外子差別を法律上改めても、結婚が「制度」である限り、「制度の中」と「制度の外」とが生じる限り、やはり問題は生じると思われるからです。
「別姓だけを考える会」ではありたくないので、私は、これからもっと遠くを見ながら、私たちにつながるたくさんの人とつながっていきたいと思っていますよ。まんず、とりあえずジョンレノンさんの「imagine」でも、歌いましょうか。...あなたは、これからどこへ向かうのですか?
ps
◆パスポート取得って、海外渡航の権利を手にすることだと思っていましたが、違うんですよね。国境を自由に行き来できない象徴なんです。パスポートなんてなければいいのに。
◆ここのところ、イスラムについての学習をしています。知らないことのなんと多いことか! 私はとっても反省しています。「いろんな生き方あっていい」だなんて言いながら、私のイメージの何と貧困なことよ! だから、今までより一層、たくさんの人に出会う必要性を、痛感しています。片倉もとこさんの著「イスラームの日常世界」岩波新書 660円...お勧めです。
◆イスラム(念のため、イスラム=中近東とは限りません)では、結婚するときに、離婚のことも契約するそうです。人間は弱いものだから、別れることがあるかもしれない...。安易に、永遠の愛などを誓わない...。な〜るほど!と思いました。「結婚契約破棄宣言」にも、そんなくだりがありましたっけ。相手を大切にするというのは、無理をすることとは限らないのですね。
◆言わずもがなですが、私は人殺しに反対です。人を殺したくありません。もちろん殺されたくもない。この星で今「いろんな生き方あっていい」と、互いを理解し合う優しさを、勇気を、私たちは失わせてはなりません。事態は、自分だけよければよいという、経済至上主義の行く末だったのかもしれません。まずは、沈黙せずに、自分の気持ちを自分のことばで語りたいものです。