コロンビアのノーベル賞作家ガルシア・マルケスの回想録『語るための人生』の第1巻が、10月の半ばに、スペインのモンダドリ社から刊行された。回想録の一部は、すでに数年前からスペインやラテンアメリカの新聞などに掲載され、その刊行が間近いとされながらも、なかなか刊行されずにいた。

 マルケスの新作は6年ぶりだ。コロンビア軍と麻薬密輸組織との攻防を描いたノンフィクション『誘拐』(96年)以来である。

 一時重病説の流れたマルケスだが、ロサンゼルスとメキシコ市で療養生活を送りながら、この数年、朝の8時から午後の2時まで連日書きつづけてきたという。この夏、回想録の校正刷りを持って、バルセロナを訪れたおりの写真がスペインの新聞に掲載されたが、やつれた様子がなく、だいぶ健康を取り戻したようだ。

 『語るための人生』第1巻の校正刷りは、最終的には9百ページから6百ページに圧縮された。マルケス独特の、あの密度の高い、心地よい語りは健在だ。

 あいまいな人名などの確認作業は、「彼女を見ればわかること」の映画監督として日本でも知られるようになった長男のロドリゴ・ガルシア氏が一手に引き受けた。

 ところで、何年か前に、メキシコでおこなわれた国際スペイン語学会で、ガルシア・マルケスは、スペイン王立アカデミーをやり玉にあげ、スペイン語の表記をより単純なものに改めるように訴えて物議をかもしたが、あの唐突な発言の遠因がどこにあったのか、この回想録を読むとわかってくる。単語のスペルは子どものころから苦手で、今なお、それがいやしがたい自分の弱点になっているというのだ。彼の原稿を校正する人間は、ノーベル賞作家の信じがたいような稚拙なスペルミスをつぎつぎに見つけて、あぜんとしてしまうらしい。

 とはいっても、このエピソードも、マルケスにかかると、どこまでほんとうなのかわからないのだが……。マルケスは、記憶のなかにある人生こそが、自分の生きた人生であるという。そしてさらに、こうして語るためによみがえらせた人生が、自分のほんとうの人生だともつけ加える。それがタイトルの「語るための人生」だ。

 第1巻は、生家を売りはらうために母親と故郷へ帰る若き日のエピソードにはじまり、最初の長編『落葉』を出版した55年に終わる。第2巻では『百年の孤独』(67年)までの歩みが語られる予定だ。
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GARCIA MARQUEZガルシア=マルケス