二十世紀最後の歌舞伎座昼の部は、楽しい芝居が揃った。中でも猿之助の俳名を冠した『華果西遊記』は、活気に溢れた芝居に仕上がった。てっきり猿之助が孫悟空を演じるのだと思っていたが、右近の登場は嬉しい驚きだった。右近の孫悟空が、正に舞台にあった。 芝居の物語の内容は、インドへの旅の途上、蜘蛛妖怪に拉致された三蔵法師を、弟子の孫悟空、猪八戒、沙悟浄が救出するというものだ。分かり易いお伽噺である。既にあらゆる媒体で、孫悟空は大活躍を演じている。となれば、小細工は出尽くした。演出の手際を見せる場面は、最早ないと言っても過言ではあるまい。 今年猿之助一座はスーパー歌舞伎『新・三国志』を上演した。この時招いた京劇役者たちに、右近らはアクロバティックな棒術の指導を受けたという。京劇のスピーディな立ち回りと比して、歌舞伎のそれは、様式美を謳ったところで如何にも悠長である。念のために書いておくが、歌舞伎にスピーディな立ち回りがないわけではない。しかしながら、そのスピーディさは、四天の皆さんに一任されているので、主役の年老いた役者が自ら激しいアクロバットを演じることはない。それが、歌舞伎の立ち回りを冗漫に見せている原因なのだ。 更に、猿之助演出の立ち回りは、しつこい。四天の皆さんは、他の芝居より余計に宙返りをするのだが、四天の皆さんの見せ場に拍手喝采を贈ろうとすると、猿之助が舞台中央でその拍手を受ける。そのために、猿之助が舞台をうろうろする時間が必要なものだから、しつこく見えてしまうのだ。 ところが、今回は若い右近が孫悟空を演じている。京劇役者にこってり絞られたのではないかと思えるほど、なかなかスピーディな立ち回りを、四天の皆さんと共に演じてくれた。若いというのは、それなりに意味があることなのだ。冗漫さを廃した、つまり猿之助の登場しない猿之助の演出による『西遊記』は、四天の皆さんの宙返りも存分に楽しめ、面白かった。 今年は、あれこれ猿之助批判をしてきたような気がするが、面白ければ異論などない。今更『西遊記』で、孫悟空なんて、どんな演出になるんだかと思ったが、猿之助と右近に座布団一枚。嗚呼、今世紀最後だというのに、書くことがない。劇評になってないな。
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