| Kabuki
Review by Sekidobashi Sakura
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みやこ ど り ながれ の し ら な み |
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都鳥廓白浪 |
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2004年10月歌舞伎座 |
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『都鳥廓白浪』は、所謂隅田川物と呼ばれる歌舞伎の一つで、謡曲『隅田川』の松若伝説、近松門左衛門が書いた浄瑠璃『雙生隅田川』を基にして書かれた作品である。吉田家のお家騒動、松若と梅若の兄弟、忍ぶの惣太、遊女花子らは、多くの先行作で使われてきた素材なのだ。今回花子を演じた菊五郎と、惣太を演じた仁左衛門の共演は23年ぶりのことという、見逃せない公演となった。事実、仕事が忙しいがための体調不良でボロボロだった私が、身動き一つできないほど舞台に見入ってしまった出来栄えだった。お見事の一言である。 先ずは惣太が梅若丸を介抱して、その胸を擦る場面に始まる。少年梅若丸の儚げな様子に観客の感性覚醒し、惣太の男の色気に陶酔する。そして、遊女花子の登場に、観客の期待は胸を裂かんばかりに膨らむのだ。その遊女花子が、実は盗賊の首領天狗霧太郎であるという驚き、更に実は松若丸であったという混乱は、舞台を楽しむしかないという気にさせる。丑市を演じた左団次の、スケベな雰囲気は絶品の域に達していた。おっさん、結構、おみ足が美しいではないのと感心したぜ。 さて、吉田家の嫡子松若丸は、如何なる少年だったのか。父親が政治的に陥れられて失脚した上殺害され、お預かりの重宝も奪われ、お家は断絶となった。この混乱の最中、盗賊となって重宝の行方を追い、尚且つ遊女に身をやつすことで当局からの保身を図る。このような知恵を、どんな経緯で手に入れたのだろうか。弟とは言え、儚いばかりの印象を与える梅若丸とは、違いすぎるよなあ。 ここまで考えて、山本鈴美香の漫画『七つの黄金郷』を思い出した。主要登場人物の一人、アーサー・マンスフィールド伯爵は、若くして爵位を継いだが、王家とイギリス国家のために働くことを期待され、幼い頃から特殊な専門教育を受けた。つまり、帝王学と暗殺術を身に着けた貴公子というわけだ。その資質を買われ、王家の血を引くレッドフォード伯爵家の双子の兄妹の妹オリビエの付き人に抜擢される。当時、イギリスはエリザベス一世統治下にあり、法王と旧教国勢力に対抗すべく、あらゆる局面で戦うことを余儀なくされていた。 アーサーがそうだったように、松若丸もまたこうした特殊な教育を受けたのかもしれない。その教育の成果は、吉田家の名誉を守り再興するという、かなり利己的な目的のために活用されたわけだが、松若丸の奮闘を思えば批判するには当たらないだろう。しかしながら、松若丸とアーサーとは、大きく異なる点がある。アーサーは女装をしない。 歌舞伎作品において、女装は通常とは異なった意味を持つ。ご存知のように、元々歌舞伎役者は全て男性なので、舞台に登場する女性は女装した男性ということになる。男性である登場人物が女装している場合を、どのように区別するのかは難しいが、つまりは役者がどういうつもりで演じているかが最も重要なのである。 『都鳥廓白浪』では、二幕目に遊女花子として登場した松若丸は、仁左衛門演じる惣太との恋の絡みに、観客をうっとりさせる。三幕目では、松若丸は天狗小僧霧太郎としての正体を現すが、姿は花子のまま、声だけが男の発声になることで霧太郎を表現する。丑市に、霧太郎が花子の姿のままなので、妙な気持ちになると指摘されると、松若丸は女の発声に戻って、丑市が混乱するのを楽しんでみせる。ここで言う女の発声、花子の声というのは、歌舞伎役者の女形の発声であって、本来の女の発声とは大きく異なっている。同時に、花子は松若丸という少年なのであるから、本来の女の発声とは違っていることは、物語の構成上正しいという認識も成り立つわけだから、丑市が妙に感じる発声は、むしろお梶やお市に対して観客が感じるはずの不自然さなのだ。しかしながら、観客はその不自然さを問題にしないことで、舞台を楽しむ術を心得ているわけだ。 観客は、丑市の混乱を、自身の混乱として体験する。ところが、丑市は霧太郎の女装を結果的に楽しんでいるが、観客はそうではない。丑市が酔って寝入った後、姉さん被りをした手拭を取り、天狗霧太郎/松若丸の姿に戻る場面を、観客は最も興奮する瞬間として心待ちにしているのである。この時、観客は舞台の上に役者菊五郎の、真の登場を見るのだ。拍手。 観客は、歌舞伎における女装を、服装倒錯であるとは認識していない。今回の場合、丑市が服装倒錯マニアであることは明白であるが、女装している松若丸は服装倒錯マニアなわけではないのである。この辺りが、歌舞伎ファンのぎりぎりの倫理観を満足させているのではないだろうか。歌舞伎ファンは、決して道徳的な社会規範を逸脱することはないのである。従って、確かに正しい認識ではあるものの、私が自己分析するように、歌舞伎の不道徳な不謹慎な倒錯した世界観は、一般歌舞伎ファンにとって論外であり、私の歌舞伎劇評は、もっぱらインテリ外国人に好んで読まれる「面白い論考」に止まっている。 吉田家の再興を果たした後、特殊な専門知識と能力を備えた松若丸は、幕府の隠密を組織する影の将軍として、治安維持に努めるのかもしれない。前述した『七つの黄金郷』は、未完のまま、作者山本鈴美香は違う世界に行ってしまったらしい。完結編の連載開始を心待ちにしているファンがいることを、どう考えているのだろうか…。幕。(2004,10,9) |
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