a書評

先頭に戻る書評 2000

書名:ゴルゴダの迷路 

著者:ジョン・ガードナー 出版社:新潮社 価格:\400


会社に小さな図書室があって、そこにはご多分に漏れず、ソフトのマニュアルとプログラミングに関する書籍が並んでいる。その片隅に、リサイクル・コーナーがあって、利用者が不要になった本を他の利用者に提供している。この本は、その最中の一冊だった。最初はSFかと思ったんだが、20年前に読みたかったなあ。今では歴史シニュレーション小説だわ。でも面白かった。一体、誰が読んだ本なんだろうか。他にも、『エミール』だの『ロードス島戦記』だのがあるんだよね。少なくとも、もう一人、私の趣味に近い人物が会社にいるわけだ。それにしても、図書室に、百科事典を置いてはもらえないだろうか…。(2001,12,1)

書名:ノモンハン 

著者:アルヴィン・D・クックス 出版社:朝日文庫 価格:\960 \940 \940 \940


合衆国の軍事史家のノモンハン事件に関する学術論文。非常に面白かったわ。読んでいる間中、映画『スターリングラード』の冒頭場面の殺戮シーンを思い出していた。圧倒的な物量には、決して勝てないのだということは、合衆国の対テロ戦争によって、改めて明白となったが、テロ組織アルカイダと、これを支援するタリバンの、徹底抗戦を叫ぶ精神主義には、1939年当時の日本軍の歪んだ武士道を彷彿とさせるものがある。戦死傷率が70%を超えるというのは、どう考えても不条理な数字である。事変終了後の、生き残った将校に対する自決の強要には、腹立ちを超えて涙を禁じえない。著者の冷静な筆致は、日本人の文化としての玉砕至上主義を白日の下に晒した。上官の命令なしに撤退してはならない原則がある以上、現場の将校の判断で撤退せよという補足命令を、決して忘れてはならないのだということを、肝に銘じておかなければならない。日本人的文化論としても良書。(2001,11,29)

書名:黒人は武装する

著者:長田衛 出版社:三一書房 価格:\650


マルコムXの演説集。1968年に出版された本だが、今読むと示唆的で面白い。イスラム原理主義者によるテロの可能性について言及している部分は、先日の合衆国に対するテロを暗示するかのような説得力があった。合衆国の国民は、件のテロで、何故ここまで憎悪の対象になったのかに当惑していると、ニュースでコメントされていたが、歴史的に常に人種差別を容認してきた最悪の結果が、テロに集約されたと言えるのではないかと思う。もちろん、テロを容認するわけではないが、その原因は確かに存在した。基本的人権は尊重されなければならないという原則を、幼児期から、教育によって叩き込まなければならない。同時に、白人であるというだけで、彼らに対して人種的な偏見を持ってはいけないのだということを、有色人種社会に知らしめる必要性を、真摯に考慮するべき時が来ているのではないだろうか。全面的に賛同する必要はないが、知っておいて良い考察がある。(2001,11,21)

書名:大聖堂の悪霊 

著者:チャールス・パリサー 出版社:早川書房 価格:\2200


『五輪の薔薇』と同じ作者だったので、ついでに読んだのだが、これも面白かったわ。でも、内容の濃さに比して短かったという印象が残る。全部を理解するには、この量では足りない。もの凄く悪いことが、ただのイケナイコトだったのは、ちょっと脱力するが、伏線が面白いので是としよう。作者、チャールズ・パリサーは、つまりは学者なんだね。『ガラスの仮面』もどきの演劇論には笑った。(2001,11,2)

書名:五輪の薔薇 

著者:チャールス・パリサー 出版社:早川書房 価格:\4000 \4000


メル友のWimさんお勧めの本。面白くて、面白くて、視界が揺らいで活字が識別できなくなるまで、読み耽ってしまった。複雑という一語で片付けるには、余りにも複雑な陰謀が複雑に絡み合い、その複雑さを面倒に感じる暇もないうちに、次の陰謀が展開する。著者の頭脳にはほとほと感心するばかりだが、よくもまあ翻訳してくれたもんだと、甲斐萬里江さんに感謝。眠らなくても支障がない読書家には、是非ともお薦めしたい作品だ。常々、連続殺人事件の動機が、たかが遺産相続ってのは、納得がいかないと思っていたが、今回ばかりは納得したね。私が一番印象的だと思ったのは、「私を一緒に連れて行って」というヘンリエッタの台詞だった。どういう場面なのか知りたい方は、ご一読あれ。(2001,10,25)

書名:赤い月 

著者:なかにし礼 出版社:新潮社 価格:\1500 \1500


最低の女だと思う。自分の思想をここまで曲解されたと知ったら、平塚らいてう先生は再び憤死しそうだわ。それでも、人は生きていかなければならないのなら、せめて裁かれなかった罪の重さを背負って欲しいものだ。満州であったと、戦争であったと言う人がある。しかしながら、犯罪は犯罪なのだという認識を、一個人として認識するべきではないか。(2001,9,18)

書名:屍鬼 

著者:小野不由美 出版社:新潮社 価格:\2200 \2500


上巻は面白くて面白くて面白くて、なのに何故下巻はあんなにベタなのよ。嗚呼、残念だった。絶望しただとおおおお!? 何故、絶望したのかを書いて欲しかったのに…。会社で仕事中に読み耽ってしまいましたよ。暇だったのよ。嗚呼、それにしても、残念至極。(2001,9,26)

書名:スターリン秘録 

著者:斉藤勉 出版社:産経新聞ニュースサービス 価格:\1619


この一冊で、5千万人くらいの人が死んだ。何と書けば良いんだか…。チェチェン紛争の根がどこにあったのかを、おぼろげながら理解することができた。私は、何にも知らなかったなあと、反省しきり。今度入院したら、ソルジェニーツィンの『収容所群島』を読んでみようと思っている。悪趣味かとも思うけど、以前入院中に『魔の山』を読んでたくらいだから、今更だな。(2001,9,14)

書名:永遠のファシズム 

著者:ウンベルト・エーコ 出版社:岩波書店 価格:\1600


『前日島』を読んだついでに、この本も読んだ。日本時間で9月11日午後10時頃、アメリカで同時多発テロが勃発した。翌12日、これを読みながら、テロリズムについて考えることになった。エーコは、「幼い時期からはじまる継続的な教育を通じて、野蛮な不寛容は、徹底体に打ちのめしておくべきだ」と書いている。その通りだと思う。多くの人に読んで理解して欲しい著作である。(2001,9,12)

書名:前日島 

著者:ウンベルト・エーコ 出版社:文芸春秋社 価格:\2286


メル友のWimさんに薦められて読んだ本。流石、ウンベルト・エーコだわ。面白かった。妄想パラノイヤの主人公が、日付変更線を越えて、前の日に行こうとする。奇妙に乾燥した妄想が、現実に取って代わる時、主人公は今日を捨てるのだ。物語とは関係ないが、以前から気になっていた記述がこの本にもあった。十字軍の話になると、テンプル騎士団、薔薇十字軍が絡んでくる。この薔薇十字軍には、必ず「ローゼン・クロイツ」とカタカナでドイツ語のルビが振ってあるんだな。一体、どうしてドイツ語で「ローゼン・クロイツ」なんだろうか。テンプル騎士団については、エーコの『フーコーの振り子』に詳しい解説があるので、興味のある方はどうぞ。Robertさんも読んだと言ってたが、日本人とオランダ人とアメリカ人が、イタリア人の書いた本について語り合うってのは、なかなか趣があってよろしいんじゃないの?(2001,9,11)

書名:悪霊 

著者:ドストエフスキー 出版社:新潮文庫 価格:\520 \600


ロシア文学者であり、翻訳家でもあった江川卓さんが亡くなった。ご冥福をお祈りするとともに、この作品を再読した。再再再読くらいかな。まあ、良い。ドストエフスキーの著作の中で、一番好きな作品だ。しかしながら、今回は以前とはちょっと違う感想を持った。主人公のニコライは、ジュード・ロウの顔をしているんだな。彼の映画を見過ぎたかも…。そして、シャートフだ。彼の悲惨さは、今回私の胸を強く打った。哀しいね。でも、やっぱりニコライかなあ。(2001,8,29)

書名:バトルフィールド・アース 

著者:L・ロン・ハバート 出版社:朝日出版社 価格:\1200x5


昨年のワースト映画の原作。このSF小説には、個人的に紆余曲折があって、やっと今回読むことができた。面白かったよおお。やっぱり、ヒーローは地球の平和のために戦うとか、人類滅亡の危機に立ち向かうとか、頑張って欲しいもんだと思う。私はサイエントロジストではないことを、一応追記しておこう。(2001,8,7)

書名:ラディケの死 

著者:三島由紀夫 出版社:新潮社 価格:\476


人間の醜さの描写さえも美しい三島の感性に脱帽するのみ。表題作他の短編集。『魔群の通過』にある台詞に絶句。「わたくし体格のよい肺病やみがいちばん好きなの」私もです。(2001,7,4)

書名:葉隠入門 

著者:三島由紀夫 出版社:新潮社 価格:\400


山本常朝の『葉隠聞書』の入門解説書。『葉隠』ってのは、サラリーマンとはかくあるべしというビジネス実用書みたいなもんだなと思った。しかしながら、頑固偏屈親父らしい常朝の論理は、その破綻をものともしない勢いがある。三島の解説も楽しい一冊。(2001,7,3)

書名:メイプルソープ 

著者:パトリシア・モリズロー 出版社:新潮社 価格:\3200


ロバート・メイプルソープの伝記。想像以上にとんでもない男だったのね。本書に関して何か書こうとすると、放送コードに引っかかるような単語が並ぶことになる。別に放送するわけじゃないけど、躊躇せざるを得ない。面白くて、一気に読んでしまったが、これを出版した新潮社には、本気で感謝したいと思う出来栄えだった。翻訳者の田中樹里さんにも、感謝。(2001,6,29)

書名:ハプワース16,1924

著者:J.・D・サリンジャー 出版社:荒地出版社 価格:\980


グラス家の長男シーモアが7歳の時に書いた手紙。こりゃ、自殺するわ。(2001,6,27)

書名:蒼ざめた馬 

著者:ロープシン 出版社:現代新潮社 価格:640


あるテロリストの罰当たり小説。しかしながら、ここまで哲学的な思索を披露してくれる書籍は久しぶり。面白いことこの上ないと思うが、内容が過激過ぎるため、18禁にするべきだと思う。何故、人を殺してはいけないのかという疑問の答えの一つが、ここにはある。(2001,6,26)

書名:ローザ・ルクセンブルクの暗殺 

著者:エリザベト・ハノーファー=ドゥリュック他 出版社:福村出版 価格:\1300


この件に関して良く知らないので、読んだのだけど、裁判記録と新聞記事で構成された本書は、非常に難解であると言わざるを得ない。一般的な歴史認識がどういうものだったのかさえ、必死で考えなければ分からなかった。今尚、私の認識は固まっていない。もう一回読むつもり。馬鹿?(2001,6,25)

書名:インドへの道 

著者:E.・M・フォースター 出版社:筑摩書房 価格:\1600


世の中には差別を誘発する要因が山ほどあるのだと考えさせられた。結局、問題は利権なのだろうかと思う。哀しいね。(2001,6,21)

書名:ガルガンチュアとパンタグリュエル物語 

第一之書〜第五之書

著者:フランソワ・ラブレー 出版社:岩波書店


アメリカ人のメル友Davidさんから薦められた大長編。面白かったという一言で言い表すには、余りにも不謹慎で下品な物語である。興味のある方は、書名をクリックしてください。詳細な感想にアクセスできます。(2001,6,18)

書名:戦争犯罪とは何か 

著者:藤田久一 出版社:岩波新書 価格:\380


とちあえず読めば、そういうことかと思う。戦争犯罪に対する自分の認識を、再確認したい人にお薦めの一冊。毎日、新聞を賑わせている戦争、紛争、テロ、事件、その他諸々が、犯罪として認識されるために、何が妨げとなるのか、また被告の定義とは何かについて、きっちり解説している。(2001,4,11)

書名:スターリンの金塊 

著者:パトリック・ムトン 出版社:丸善ライブラリー 価格:\640


『スターリングラード』が公開されている。見るつもりなので、タイトルが目に付いて買ってしまった。タイタニックを引き上げるより、その動機がより直接的に欲望に根ざしている。これを正直だと見るか、それとも浅ましいと見るか、読者のライフ・スタイルによって受け止め方が違うだろう。ただ、金が欲しいという欲求が、金moneyそのものに対する直接的な欲求であるとするなら、これを全ての人間に共通の欲求であると普遍化しないでもらいたいもんだと思う。金が欲しいのは、そもそもの欲求の対象が支払いを要求するからだ。スターリンの金塊を探すダイバーたちは、何が欲しかったのか。今一つ、納得しきれない不自然な感覚が残った。面白かったけどね。(2001,4,10)

書名:ラムセスU世 

著者:P. ファンデンブルク 出版社:アリアドネ出版 価格:\1600


単純に面白かった。古代エジプト文明は、世界史の授業では、あっという間に終ってしまうが、3000年前に生きた人物を知ることができるのは、学者の皆さんのおかげだと感謝している。もっと、論文をたくさん書いて欲しいもんです。そうした論文の中でも、この著作はエンターテイメントしてると思うので、読んでみてはいかが? 160人の子供の父親ってのは、未だ破られることのない世界記録らしい。(2001,4,9)

書名:密偵 

著者:コンラッド 出版社:岩波文庫 価格:\720


『寒い国から来たスパイ』って小説があったなあ。スパイは哀しい商売。日本で機密費なんて恥ずかしいだろうと思うけど、そんな機密費を浪費していると非難され、リストラされちゃったスパイの物語。どうしろって言うんだってのが、私の感想。哀しいよねとしか言い様がない。(2001,4,6)

書名:カンディード 

著者:ヴォルテール 出版社:岩波文庫 価格:\410


「全ては最善に仕組まれている」というストア的な現状肯定の認識を、こてんぱんにぶっとばしてくれる。笑っても良いんでしょうかと聞きたくなるほど、他人の悲惨な運命は面白い。ワイドショーって、こういうフランス的な皮肉な笑いを、昼間っからTVで放送しているってことなのかしら。(2001,4,5)

書名:現代人の攻撃性 

著者:福島章 出版社:太陽出版ロゴス選書 価格:\1400


犯罪心理学の論文をまとめた著作。先頃はやった、プロファイリングだな。一昔前の犯罪を分析しているのだが、これが面白い。現在の状況が異常だと考えている人が多いが、確かに私も正常な状況だとは思わない。でもね、今に限ったことではないと思っている。その根拠が、この本で解説されていると言えるだろう。これから犯罪を犯そうとしている青少年諸君に言いたい。君らの発想は、決して独創的なものではない。もっと、勉強しなさいね。'(2001,3,30)

書名:パリス・トラウト 

著者:ピート・デクスター 出版社:早川書房 価格:\1700


こんなことが、実際に起こった可能性があると考えただけで吐気をもよおす。全ての人種差別主義者に問いたい。あなたはどのようにして、人種差別主義者になったのですか? (2001,3,28)

書名:薔薇忌 

著者:皆川博子 出版社:実業之日本社 価格:\1300


演劇ネタの短編集。程好いエロさが、心地好い一冊。嗚呼、私もこういうテーマで書きたいと思っていたのに…と、身のほど知らずな感想を書かせていただこう。面白かった。「戯曲ばっかり読んでいる人が、生きてるはずがない」の台詞には爆笑。私もそう思います。(2001,3,27)

書名:世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド 

著者:村上春樹 出版社:新潮文庫 価格:\590 \522


近頃メル友になった合衆国在住のMarkさんから、これのエンディングが彼の実存主義者としての感性を不快にさせたというメールが届いた。その原因を知るために、読みました。ファンの人には申し訳ないが、つまんなかったと思う。更に作品中の引用の仕方が、大馬鹿者と言いたくなるんだな。↓の『舞踏会へ向かう三人の農夫』とは逆に、常識的に知っているだろう知識を、さも特別な知識のように書いている。こんなこと知っている奴なんて、いないだろうと書きながら、知っているだろう事柄を引用している。この読者に媚びたような作風には、げんなり。さて、件の実存主義者は、一体何を不愉快に感じたのか。(2001,3,21)

書名:舞踏会へ向かう三人の農夫 

著者:リチャード・パワーズ 出版社:みすず書房 価格:\3200


面白い。これは、殿堂入り決定ですね。小説などに登場する引用が、知っているものだと嬉しくなるし、皮肉がわかれば楽しいものだが、この作品に登場する引用は、私の知識の限界を超えている。最早、解読不能と言いたくなるような難解さに、久しぶりに脱帽である。『失われた時を求めて』がマルセル・プルーストの作品であることは知っている。シャルリュス男爵がその登場人物の一人だということも知っているが、男爵のモデルとなった人物なんて知らないもんねえ。ヨーロッパ現代史に関する著者の膨大な知識とともに、科学文学に関する知識の趣味の悪さが、私にはぴったりフィットの一冊である。読んでみてと言いたいところだが、かなり厳しいぞと言い添えておこう。(2001,3,16)

書名:フレームシフト 

著者:ロバート・J・ソウヤー 出版社:早川文庫 価格:\880


ホロコースト・ネタは、現在を過去に設定しなければ成立しないまでに時代が進んでしまったため、既に辛いものがある。それにしては、良くできた作品だと言えるのではないだろうか。主人公は、1万人に1人というハンチントン病の患者で、死亡することが物語の最初から決められている。多発性硬化症の患者は、10万人に2〜3人という数だが、健康な人にとっては、大した違いなどないのだろう。遠からず死ぬのだと思いながら、遺された時間を削るように生きるのは、なかなかしんどいものだ。最早、自分にとっての特効薬はないのだと自覚しながら、だからこそ何らかの生きた証を残したい。こうした主人公の思いを、私自身も共有している。こうして書くこと、それ自体が、何らかの意味を持っていて欲しい。そう思いながら、キーボードを叩いているのかもしれない。書評になってないな。とりあえず、合格というところか。(2001,3,5)

書名:アンジェラの灰 

著者:フランク・マコート 出版社:新潮社 価格:\2900


仕事が暇だったので、会社で就業時間中に読んでしまった。回想録とあるが、これは本当に実話なんだろうかと吃驚するくらい悲惨。貧乏であることでは、近代日本の貧困層の生活は人後に落ちないと思っていたが、アイルランドの貧困層もかなりのものだったのね。スタインベックの『怒りのぶどう』を思わせる。生活能力のない夫とさっさと決別することができなかったことを、信仰のせいにしてはいけない。一人なら、なんとかなったとのではないかという感想を持ったのは、私だけではないだろうと思う。家族って、何? 殿堂入り決定の一冊。(2001,2,23)

書名:1941年パリの尋ね人 

著者:パトリック・モディアノ 出版社:作品社 価格:\1800


小説ではないという記述があるが、小説として読まなければ辛すぎる半ドキュメンタリーである。ドイツ人は何が行われていたかを知っていたということは、既に知られていることだが、フランス人もまた、知っていたのだということを、当事者であったのだということを、明確に知らしめる作品になっている。果たして、この尋ね人広告を、直視できる人がいるのだろうか。保険証、年金手帳、社員証、運転免許証、各種クレジットカード、これらのものが、私が生まれ生きていることを、客観的に証明してくれる。これらが抹消された時、果たして私は存在し続けることができるのだろうか。疑問…。(2001,2,22)

書名:穴掘り公爵 

著者:ミック・ジャクソン 出版社:新潮社 価格:\2200


四六時中、不確実な思いつきを相手かまわず喋りまくる公爵にとって、トンネルを掘ることもまた、彼の世界を構成する一つの宝物に過ぎない。公爵の思いつきは、私にとっては然程珍しいという印象がないが、地道に生活することに精一杯な人たちにとっては、公爵は、奇妙を通り越した、不気味な存在として認識される。時折、公爵の口からこぼれる珠玉とも言える分析が、周囲に理解されないのは、気の毒としか言いようがない。私なら、良い話し相手になれたものをと思わざるを得ない。公爵の感覚の解放が、結果的に成功しなかったことは残念に思うが、あれはやっぱりやり過ぎだろう。(2001,2,16)

書名:フラッシュフォワード 

著者:ロバート・J・ソーヤー 出版社:早川文庫 価格:\840


近頃遠ざかっていたのだが、久しぶりに読んだSFらしいSFかも…。単純に面白かった一冊だと言えるだろう。描きようによっては、もっとサスペンスになれる主題なんだけど、登場人物たちの悪意のなさが、嫌味なく描かれているので、読後優しい気持ちになれる。作者の他の作品を読んだことがないので、これから読んでみようかなと思っている。未来を覗くことができたとしても、私は知りたくなんかないな。時空連続体に関して、丁寧な解説がなされており、SFファンとしては自分の知識を裏づけしてもらえたような嬉しさが味わえる。また、宇宙には観察者が必要だということも、改めて活字で読むと、自分の認識が正しいと証明されたような気がして嬉しい。量子力学に関しては、朝永振一郎著『量子力学と私』が初心者向けにはお薦めの一冊。誰も読まないか…。(2001,2,4)

書名:クリムゾン・リバー 

著者:ジャン=クリストフ・グランジェ 出版社:創元推理文庫 価格:\920


ジャン・レノが好きなので、映画を見る前に読んでおこうかなと思っていたのだが、映画を見た友人のKくんが「フレンチ・テイストのマークスの山」だったというメールをくれた。クリムゾンとスカーレット、どっちが「赤」なんだろうと考える時、クリムゾンは血の色だなという印象がある。読んでみると、やはり血の意味があった。終盤一気に事件は解明されるが、事件の真相よりも、二人の刑事の壊れ方が面白い。前代未聞の悲惨な死体の描写は、本気で痛い。グロさは、絶品の一冊。『マークスの山』とは、かなり違うと思うぞ。(2001,2,2)

書名:自由の地を求めて 

著者:ケン・フォレット 出版社:新潮文庫 価格:\629 \667


どこでもいつでもトラブルの中心に主人公がいる。自分の利益が社会の利益と一致しているからだと言うのに、彼は確かに社会病質者なのだ。彼が生きるには、社会の成熟を待つ必要があったと書きたいところだが、無理だね。どれほど社会が成熟したところで、彼は不正を見逃せないだろう。結果、彼は社会そのものを見捨てるのだ。戦う男の未来には荒涼とした未開地が広がり、彼を受け入れる社会はない。戦う女は、作者の作品の例に漏れずエロい。面白いぞ。(2001,1,22)

書名:審問 

著者:パトリシア・コーンウェル 出版社:講談社文庫 価格:\629 \629


検屍官シリーズの11作目。猟奇的連続殺人、FBI、ATF、インターポール、国際的犯罪組織、ありとあらゆる広がりを見せながら、主人公は、「誰も私の気持ちをわかってくれない」と愚痴る。30代後半という印象が強かったので、子供じみた自己憐憫はいい加減にして欲しいもんだと思っていたが、50代とは恐れ入った。責任重い職にあるいい大人が、あれじゃあ、情けないだろう。このシリーズは全作読んでいるが、読むたびに、主人公が嫌な女だと感じてしまう。今回は、その嫌な女が自分について語るので、嫌悪感が更に増したわ。ベニー少年の性的嗜好の描き方が中途半端だったことが、非常に残念。あんな書き方するくらいなら、女の子にしておけば良かったのにと思う。それにしても、どうして、国際的犯罪組織撲滅のために立ち上がらないのよ!? (2001,1,15)

書名:弾道衝撃 

著者:クリス・ライアン 出版社:ハヤカワ文庫 価格:\860


新春早々穏やかならぬ対テロ小説。同著者による『襲撃待機』の続編。第3、4巻も翻訳出版の予定とか。昨年末、『テロリズムとは何か』なんてタイトルの新書を読んだからと言うわけではないが、イギリスは戦争やってるんだなあと改めて思ったね。小説を読んで分かった気になるのは反則だけど、日本にいてテロリズムについて考えるのは難しい。主人公ジョーディの感情的な性格には、毎度困ったもんだと思うが、詳細を詰めて周囲を納得させてしまう辺り、最早トラブル・メーカーなどという可愛い代物じゃないね。精神的外傷を負った息子と恋人と、今後どう付き合っていくのか、次作の翻訳が待たれる。憎悪に満ちた北アイルランド紛争を、私は雇用問題だと思っている。本書のオリジナル・タイトルは、『Zero Option』だが、どんな場合でも選択の余地は必ずある。(2001,1,1)

先頭に戻る