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読書の日記


2006年5月28日(日)
最近のLogから

●2007.06.29. 「探偵はバーにいる」 東直己
★★★☆
 友人から勧められて図書館から借りたが、なるほど愉快だ。
 北大を中退した後、ススキノ周辺で私立探偵をやりながら飲んだくれの毎日を送る主人公に、後輩からガールフレンド捜索の依頼が来る。面倒くさがりながらも探しているうちに、思わぬ大きなヤマにぶつかる・・。
 主人公がとても魅力的。酒ばかり飲み、女も腕前もいまいちという設定だが、主人公の独白スタイルで語られるこの小説は、面白いせりふがちりばめられていて、読んでいて飽きない。
 シリーズ化されているそうなので、これからぼちぼちと読みたいと思っている。



●2007.06.26. 「警察庁から来た男」 佐々木譲
★★★★
 「うたう警官(改題後は「笑う警官」)の続編にあたる。北海道警に突然東京からキャリアの監察官が緊急監察に訪れる。その詳細は分からず、じれる道警の首脳陣。そんなおり、前作で「うたった」警官として疎まれる津久井は、この監察官から「話をききたい」と呼ばれる。前作のヒーロー佐伯もからみ、道警の謎がまたひとつ暴き立てられる。
 今回も謎の正体がしばらくは分からず、謎解きにも似た緊張感と期待感がページをめくらせて心地よい。やがては想像も付かない道警の暗部にたどりつくのだが、それもまた面白い。
 前作ほどのスピード感、衝撃度は少ないが、これはこれでまた、一級のエンターテインメント小説だ。シリーズ化してほしいものである。



●2007.06.26. 「カワセミの森で」 芦原すなお
★★★☆
 書評が面白かったので図書館で借りて読んでみた。といってもヤングアダルト、つまり10代後半向けの若者小説である。ややオヤジっぽく理屈の多い女子高生ミラの周囲で突然起こる殺人事件を面白おかしく描いている。
 芦原は直木賞作家らしい。私よりもひとまわり年長か。そのせいもあって、この物語はストーリーとしてはあまり面白くないのだが、文体が実に美しくて、読んでいて安心感が沸いてくる。いまどきのライトノベル小説家なんて及びもしないほど、文章が美しく律動的だ。
 文章家の品格、みたいなものを考えさせられた。このミラの小説はもう1本あるらしいので、それも借りて読んでみたい。




●2007.06.13.「孤宿の人」宮部みゆき
★★★★
 ひょんなことから友人から借りた。友人のも図書館から借りた本だったので又貸しとなり、急いで読破したが、さすがに面白かった。
 江戸後期、丸亀藩とおぼしき四国の小藩に江戸幕府中枢の政治犯が流されてくる。奇怪な殺人を犯したと風評のある不気味な巨魁であり、その到着を見越したかのように不吉なことが丸亀を襲う。
 寡黙で知恵遅れで数奇な運命の少女「ほう」は、その巨魁の世話係りをするうちに、藩には存亡を揺るがすような大事が降ってくる・・。
 様々な事象を噴出させながら一気にクライマックスを築くやり方は、宮部独特の素晴らしいもの。しかし、もうひとつ浄化された結末が欲しかったかも。オススメ。



●2007.05.13.「風が強く吹いている」 三浦しをん
★★★★★
 図書館の予約が届いた。三浦しをんは直木賞をとった「まほろ駅前」が私にはあまりに陳腐だったので、やや斜視ぎみに読み始めたのだが、同じ年に書かれたこちらの本はとんでもない秀作だとわかった。
 高校陸上界からつまはじきにあい、弱小の寛政大学に入学した蔵原は、ふとしたことから陸上の4年生清瀬に誘われ、素人ばかりの駅伝チームで箱根駅伝に挑むことになる。
 前半は反目しあいながらも予選会へ挑む彼らの練習振りを描き、後半はいよいよ初出場となる箱根駅伝の走路を選手十人十色で描いていく。一種の群像劇であるが、この十人の個性の創出と、陸上を通じて人生の深遠を描いていく著者の力量に感服した。
 おそらく今年最高の読書の1つとなるだろう。後半は何度も涙しながら読んだ。



●2007.05.06.「バイアウト(ハゲタカ2)」 真野仁
★★★★☆
 テレビドラマが極めて秀逸だった「ハゲタカ」の続編。ハゲタカ鷲津は日本い戻り、米国からの攻撃的買収に苦しむ電機メーカーを日本のために買い取るべく死力を尽くす。
 いやいや、すごい迫力である。テレビで見せてもらってはいたが、活字になると現代の買収劇のすさまじさを改めて思い知ることになった。この小説の良いところは、単に買収のディテールを描くだけでなく、そこに歴史と文化の相克を感じさせてくれることだろう。ために悪役の鷲津に心惹かれることになる。テンポの良い現代小説の秀作。


●2007.04.29. 「容疑者Χの悲劇」 東野圭吾
★★★☆
 はずみで前の夫を殺害した母子。恋慕を寄せる彼女らのために、天才的な数学教師は完全無欠のアリバイを作るが・・。
 一昨年、大評判になった本をやっと図書館で入手。しかし、トリックはまあまあだったが、私としてはこのような純愛物よりも、娯楽小説はもっと強いストレートなものを好む。ひとときを過ごすには適した本か。


●2007.04.28.「ブラバン」 津原泰水
★★★☆
 高校時代にブラスバンドで過ごした青春時代と中年となった現在の哀歓とを交互に混ぜながら進む私小説。
 ブラバン時代の描写がやはり素晴らしい。昭和の最後の時代をよく描出しており、懐かしさがこみ上げてくる。
 惜しいな、と思うのは、中年になってからの話のもっていき方。もうちょっとカタルシスを最後に出せるようにすれば、かなり読み応えがあったのに。まあでも、なかなか良い小説。




2007.03.21. 源氏物語の面白さ
 一昨年、丸谷才一の「輝く日の宮」」を読んでから、源氏物語に興味を持った。この年まで源氏物語すら読んでないことも恥ずかしかったし。しかし源氏はそうたやすくは読めない。谷崎や与謝野はもちろんのこと、瀬戸内源氏だって難しい。そういうわけで、昨年からぽつりぽつりと読み進めているのが、田辺聖子の「新源氏物語」である。まだまだ読了にはほど遠いが、最近は源氏物語の奥の深さが少し垣間見えてきた。
 ことに私が感心するのは、中年になってからの源氏の心の複雑さである。若い頃の勢いは無くなり、世の中と折り合って生きなければならない、誰しもが通る苦しい道は、源氏もまた例外とはなっていない。その普遍性が面白い。
 その他、芸術観なども現代と全く変わらないのを発見し、うーん、昔も今も同じか、と独白し納得する今日このごろだ。



2007.03.17.
●「うたう警官」 佐々木譲
★★★★☆
 最近の佐々木は、北海道警を題材にしたものが面白いと聞いた。その第1作「うたう警官」を読む。「笑う警官」をもじった題か。
 札幌のアジトで変死体で発見された美人の婦人警官。その彼で明日の証人喚問を控えた警官に容疑がかかり射殺命令が下る。かつて彼と決死の公安捜査をした仲の主人公は、彼の無実を信じて独自に捜査を開始する・・。
 わずか24時間のできごとをびっしりと凝縮して描く。そしてそのスピード感。意外な事実が分かるのはこの手の話の常套として、主人公の誠実で緻密な態度に胸をうたれる。
 今年読んだエンタメ系の小説としては、今のところナンバーワンの面白さであった。



2007.02.27.
最近読んだ本をまとめて紹介したい。

●「世界一周恐怖航海記」 車谷長吉
★★★★
 老作家が妻の求めに応じて、世界一周の船旅に出るが、本人は出不精なのでちっとも嬉しくない。そんな作家の困惑がつづられるノンフィクション。この作家はちょっと変わり者のようだが、それでも各国でながめる人間模様は鋭い。船旅をいやがりながらも、けっこう糧にしているあたりが人間臭い。



●「夜は短し恋せよ乙女」 森見登美彦
★★★
 京都の大学生の「私」はサークルの後輩の女の子に夢中だが、その子は現実離れしたおかしな子だった。彼女と私のおかしな学生生活を描く。評判の高い本だが、私はたいして面白くなかった。たぶん若者向けなのだろう。



●「王様と私」 プレスリン
★★★★★
世界最高のテノール歌手、ルチアーノ・パヴァロッティ。彼のマネージャーが描く、彼の天才振りとだらしない私生活。私はパヴァロッティがあまり好きではないが、予想通りの私生活で、なるほどと思ってしまった。しかし彼をめぐる音楽界の大物たちの赤裸々な姿が面白い。私はこの手のクラシック音楽家たちの伝記や暴露本が大好きだ(笑)。




2007.01.21.
●「図書館戦争」 有川浩
★★★☆
昨年前半、もっとも話題になった本。大学を出て図書館を守る兵士となった若き女性の奮闘を描く。読みやすく、さらさらと読んでしまった。評判どおりの面白さである。面白さがあまりにストレートに表現されていて、深みがないのが物足りないが、まあこれはないものねだりだろう。まずは第1作を読めて良かった。

●「町長選挙」 奥田英郎
★★★★
妙な精神科医、伊良部のシリーズ3本目。2本目の「空中ぶらんこ」が直木賞をとったのがつい昨年のことだが、その余勢を駆った本作の第1話「オーナー」が、エンタテインメントと人情味を兼ね備えた傑作である。誰もが知っている実話をベースにしているが、語り口のうまさで読み手を納得させてくれた。残念ながらこれより後の作品は、まあまあのできである。とはいえ面白いことにかけては充分。未読の方には推薦。



●「失われた町」三崎亜記
★★★★
ある意思を持って町の人を消滅させる何かと戦う人々を描く問題作。今年上半期の直木賞候補になったが、「賞に該当する作品なし」との決定。また新聞記事を読むと、選考委員に近い筋からは「まるで話にならない」とか「飛んでる小説」などと揶揄されているが、私はなかなか面白い設定だと思った。すばる文学新人賞を得た「となり町戦争」よりもよっぽど緻密に書かれていると思う。しかし、いかんせんこの人の文体が、時に幼くてライトノベルを読んでいるような気になり、嫌気がさすときもある。その点を直してくれれば、文句無く推せる作品なのだが。年配の方には受け入れられない設定だろうから、若い人に読んでほしい。



2007.01.08.
●「四度目の氷河期」 荻原浩
★★★★☆
 先月の「神様からのひと言」などよりもずっと優れた作品である。
科学者の母と二人暮しの少年は日本人離れした体格と人相で、遺伝子実験で生まれたクロマニヨン人の直接の子孫に違いない。そんな少年が大人になっていく過程を面白おかしく、しかもしんみりと描いていく。年末から読んで面白がっていたが、先日の直木賞候補にあがったようだ。賞をとっても良いかな、と思える作品だ。推薦。



2007.01.03.
●「おちおち死んでられまへん」 福本清三
★★★★
 東映映画最大の斬られ役、大部屋俳優の雄、福本清三が近況などを語る本第2作。前作は出演映画の説明が多かったが、今作はその必要も無く、「ラストサムライ」出演の日々を気楽に語っている。それがかえってこの人の飾り気の無さと俳優のプロとしての素晴らしさを現している。有名になった現在でも相変わらず貧乏な斬られ役俳優に徹しているそうな。ぜひ一読されたい。



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2006.12.31. 2006年の読書回顧

今年の回顧は、自分が得意とする小説部門と、その他の部門とに分けて、それぞれベスト10を挙げてみた。

■小説■
ネクロポリス(恩田陸)
夜のピクニック(恩田陸)
ローマ人の物語 ユリウス・カエサル〜ルビコン以前〜(塩野七生)
膚の下(神林長平)
沼地のある森を抜けて(梨木香歩)
チーム・バチスタの栄光(海堂尊)
韃靼疾風録(司馬遼太郎)
終末のフール(伊坂幸太郎)
図書館内乱(有川浩)
サッド・ヴァケイション(青山真治)


■その他■
黒澤明 vs ハリウッド(田草川 弘)
一枚のディスクに(井阪紘一)
カラヤン、自伝を語る
国家の品格(藤原正彦)
国家の罠(佐藤優)
窓際OLシリーズ(斎藤由香)


 今年もいろいろ面白い本をたくさん読んだが、こうして一年が終わってみると、もっとも心に残ったものは意外にも恩田陸の「ネクロポリス」。衝撃的な怖さと可笑しさが同居する奇妙な作品で、同じ恩田陸の「夜のピクニック」のようなヒューマニズムが好きな私としては意外な結果だった。
 次に良かったのは神林長平の超大作「膚の下」。神林は初めて読む人だったが、単なる軍事オタクでなく、人の心を深くえぐる作品を書ける人だとわかった。
 新人の海堂尊の「チーム・バチスタ」は評判どおりの面白いものだった。続編もあるそうで楽しみだ。
 梨木、塩野、司馬といった私の常連たちは今年も健在。司馬の「韃靼」は久々に司馬節に酔った。
 小説以外では、「黒澤明vsハリウッド」が力作。一晩かけて一気に読んでしまった。自分の趣味であるクラシック音楽関係の2作も良し。右傾化している国民を鼓舞した「品格」と「罠」には私も鼓舞させられた。最後に元気の無かった私を大いに笑わせてくれた、北杜夫の娘の斎藤由香の2作にはずいぶんと慰められた。
 まあしかし、よい意味でも悪い意味でも恩田陸に翻弄された今年の読書であった(笑)。



2006.12.31.今読み散らしている本など
 読んでいてだんだん面白くなってきたのが「四度目の氷河期」(荻原浩)。話の展開がどこへ行くのかが楽しみだ。
 現在、格闘している大作といえば「終戦のローレライ」(福井正晴)。映画はとてもくだらなかったが、原作は予想通り重厚なもの。
 同じく大作「イリアム」は、面白そうだが返却期限までに読み終わらなさそう。


2006.12.31. 読了した本から
●伊坂幸太郎「終末のフール」
★★★★☆
待ち焦がれた本をやっと図書館で受領。あと3年で小惑星が衝突し最後が訪れるという設定での、仙台のある団地の住民の静かな日常を描く。私は伊坂の本は初めて。この小説は、内容としてはそれほどでもないかもしれないが、私の大好きな設定である「近未来の日常」を淡々と描いていることで☆を1つ追加した。

●有坂浩「図書館内乱」
★★★☆
今年話題になった「図書館戦争」であるが、それはまだ入手できないまま、続巻である「図書館内乱」のほうが先に入手できた。近未来、焚書の復活した世界で図書館の自治を守ろうとする自衛軍の一女兵士の奮闘振りをコミカルに描く。一読して、まあなかなか面白いとは思ったが、モトの本を読んでないので、態度はやや保留の★★★☆とさせていただこう。



2006.12.06. 読了した本から

●荻原浩「神様からのひと言」
★★★★
 これも今年話題の作家である。話題作「明日の記憶」はまだ未読。というより荻原浩自体がはじめての読書。ユーモア小説に近い作家らしいが、最近はそれにヒューマニズムを添加した巧みな終わり方をすることで、ちょっと名を上げて来ている。
 今作は若い男性サラリーマンの話。社内の喧嘩で「お客様相談室」に飛ばされ腐るが、仕事としての謝罪を通じて本人が成長していくさまや、ある事実をつかんで会社をゆるがしていく最後の場面は面白い。
 気軽に読んでそれなりに満足感の得られる作品である。


●有川浩「レインツリーの国」
★★★★
 今年の話題作「図書館戦争」。その続編「図書館内乱」も好評のようだが、その中で扱われた本「レインツリーの国」を、作者がわざわざ別に書き下ろしたのがこの作品。つまりは劇中劇をきちんと作ったようなものである。
 さて、いま話題の作家だけに、平易な文章ながら読ませる力にたけている。最初は単なるメールのやり取りの物語だったのが、非常に意外な(そしてかなり苦渋をともなう)ラブストーリーへと展開していく。
 いったいに私はラブストーリーの読書は嫌いである。最近はやりの江國香織だの村山由佳だの、読んでいると「何じゃ、こりゃ」と本を放り出してしまうことが多い。もっと重厚な、もっと確かな手ごたえのあるものが読みたいからだ。
 しかしこの「レインツリー」は、なかなか読ませる。種明かしをするとダメだろうから詳しくは書けないが、特殊な状況にある男女の心のふれあいが繊細に描かれていて、なかなか良い。おすすめである。



2006.11.22. 読了した本から

●井阪紘一「一枚のディスクに」
★★★★☆
クラシックレコード会社「カメラータ」の創立者兼プロデューサーの井阪氏が、これまでの録音の思い出をつづった本。私はレコード(CD)好きなので、この手の裏話が大好きである。彼が大手のレコード会社をやめて、録音機ひとつひっさげてウィーンで仕事を始めてはや30年。室内楽を中心に、きわめて良質のレコードを作り上げてきた秘訣がここに詰まっている。その話の数々を堪能した。



●恩田陸「ユージニア」
★★★
加賀の旧家が青酸カリで一家惨殺される。この昔の事件をルポ風に描いていくうちに意外な真実が分かるミステリ。恩田らしいアイデアが満載だが、タネがいまひとつであった。これなら私は近作のうちでは「ネクロポリス」に軍配をあげたい。あちらには少なくとも隠された夢のようなものを感じた。この「ユージニア」には悲劇あるのみである。



●斎藤由香「窓際OL会社はいつもてんやわんや」
★★★★
いやはや、前作も楽しかったが、これは筆が乗ったのか、さらに良いできである。特にサントリー株式会社の引越し騒動は面白かった。この人の文は悪意とスキャンダルが無いのが良いと思う。読んでいて元気の出る本。




2006.11.06. 読了した本から

●三浦しをん「まほろ駅前多田便利軒」
★★★☆
 直木賞受賞作。東京の小都市まほろで一人働く便利屋のもとに、高校のクラスメートが転がり込んでくるが、これがとんでもない奴。2人で便利屋を続けるうちに出会う、社会の様々なひずみ。
 ユーモア小説の体裁をとりながら、社会の問題をついたのかもしれない。しかし私はどうも感心しなかった。悪くないが、直木賞をとる作品ではないような気がする。読んだときに庶民の哀歓が表面的にしか感じられないからだ。
 三浦には、あと一歩の精進を望みたい。




2006.11.03.読了した本から
●斉藤由香「窓際OLトホホな朝ウフフの夜」
★★★★
斉藤由香は私が若い頃愛した北杜夫の一人娘。サントリー勤務のOLの彼女が、雑誌社に頼まれて身の回りのことを書いたエッセー。斉藤茂吉の孫、斉藤茂太の姪、北杜夫の娘と文学一家の枕詞には欠かない彼女なので、文章はそれほど品を落とさずに、OL生活のおかしさを伝えてくれる。題名ほどに下品ではない。読んでいて心が元気になる本。



●小川洋子「ミーナの行進」
★★★★
 「博士の愛した数式」で大ヒットを飛ばした小川洋子が、少年を題材にした「博士」と対をなす作品として、少女を題材にした「ミーナの行進」を上梓。岡山から親元を離れて親戚に身を寄せた中1の少女の日常を、1972年を舞台にして描く。
 当時の世相、特にミュンヘン・オリンピックや山陽新幹線をていねいに描いて懐かしい。決して悲劇に終わることなく、日常の不可思議をたんねんに紡いだ小川洋子の最近の進境に感心する。
 個人的には「博士」や前作の「ブラフマンの埋葬」のほうが面白かったが、これはこれで心の休まる良い本である。本年度の谷崎潤一郎賞を受賞。





2006.10.28. 読了した本から

●高橋弥七郎 「灼眼のシャナ」
★★☆
なぜか今、少し評判になっているシリーズだそうなので読んでみたが、まずまずの本だった。しかしこれは、若い男の子が読むものだろうな。



●田草川弘 「黒澤vsハリウッド」
★★★★☆
 真珠湾攻撃を誠実に描いたハリウッド映画の大作「トラ・トラ・トラ」。私の好きな映画でもあるが、これは当初、日本側監督は黒澤明だった。しかし、芸術至上主義の黒澤とメジャー・ハリウッドの意識の違いから、黒澤は追い詰められていき、ついには自滅した。黒澤は撮影開始後すぐに降板させられ、日本人監督は人を変えて、無事にできあがった。
 謎とベールに包まれたこの事件を、新しく発見された資料から、ていねいに掘り起こしていく。芸術を追い詰め、逆に追い詰められていく黒澤の姿が悲しい。久しぶりに夜を徹して読んだ面白い本だった。




●2006.10.22.最近の読書から
しばらく病床に臥せっていた間に読書が進んだせいもあって、ここ1ヶ月は多くの本に親しんでいる。いくつかをまとめて報告。

稲見一良「セントメリーのリボン」
★★★☆
 デビュー後まもなく亡くなった作者の短編集。男の哀愁がただよう優しいハードボイルドだ。昨年の文庫の売り上げの2位というのも頷ける。




「カラヤン、自伝を語る」
★★★★
 大指揮者カラヤンの死の直前に、インタビュアーが長時間にわたってインタビューし彼の人生を再構成したドキュメンタリー。翻訳文体がわずらわしくて読みにくかったが、今まで知られていたカラヤンとは違う一面をいくつか発見できた。特に1960年代〜70年代にかけて彼が作ったあのヘンな映像記録たちを、何より彼自身が今では嫌っているということ(驚き!)、フィルハーモニア管弦楽団のことを「リハーサルも本番も完璧な団体。でもそれだけの団体」と言い、彼が愛するにはさらにもう一つのポイント「本番ではリハーサルを超える何かが必要」と語るなど、完ぺき主義者として知られた彼の意外な思いを知ることができた。貴重な記録。




青山真治「サッド・ヴァケイション」
★★★★
 三島賞の青山の最新作。自分がメガホンをとった日本映画の名作「ヘルプレス」「ユリイカ」の登場人物のその後を語り、再び悲劇にみまわれる悲しい人の性を描いていく。その暴力的な荒々しさにもかかわらず、九州弁で語られることによりかえって日本の土俗っぽさが魅力になっている。



井上尚登「T.R.Y.」
★★★★
 辛亥革命前夜の日本を舞台に、革命派のために兵器を日本の武器商人から詐取しようとする稀代の詐欺師の活躍を描く。時代背景も含めて、とにかく面白い。この続編が最近上梓されたそうで、そちらも読むのが楽しみ。





 このほかに読了したものとして「窓際OLトホホな朝ウフフな夜」「灼眼のシャナ」「黒澤明vsハリウッド」「一枚のディスクに」「ミーナの行進」「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル〜ルビコン以前〜」などの面白い本があり、加えて読書中のものが「まほろ駅前多田便利軒」「ティンカー」「などの話題作・大作が続いている。ほかにも積んであるのが「神様からひとこと」「ドクター・ヘリオットの素晴らしい人生」「ナイチンゲールの沈黙」などの新作がずらり。まさに読書の秋となった。




●2006.09.29. 三崎亜記「バスジャック」
★★★
 デビュー作「となり町戦争」のシュールな世界があまりに素晴らしかったので、すばる文学新人賞受賞後にかいた短編をかき集めた第2作。
 正直言って、こういう本を商品化し世に出すのはどうかと思われる。いかにも習作、いかにも急かされて書いたショート・ショートばかりで、最初は読んでいて吐き気がしてきた。特に表題作などは「何をくだらないことを書いてんだ」と怒鳴りつけたくなるような幼稚な文体で、この人、本当に作家として生き残っていけるのか知らんと心配した。
 しかし後半の、やや長めの2つはまずまずか。動物園に雇われて動物のリアルな幻影を写す特殊技能者の悲哀、死体ともマネキンとも区別のつかない愛する人の体を介護する不思議なグループ、やがて満月の夜にその中の1体が船に乗せられ海に押し出され、どこへとも無く流れていき、彼らの今月の「葬式」が終わるという不思議な世界。これはよかった。
 まあとにかくこの人は、もう少しじっくり構想を練って、多作にならず寡作で勝負したほうがいいのでは、と思った。




●2006.09.25. 小川洋子をテレビで見る
 NHKの「週間ブックレビュー」で小川洋子がゲストに招かれていた。「博士の愛した数式」「ブラフマンの埋葬」と、非常に好感の持てる作品を生み出す彼女。素顔も化粧っ気のない少女のような顔が印象的(実年齢は私とほぼ同じ)。
 公開録画で、お客から「博士の愛した数式」以来、作風が明るくなったような気がするが心境の変化か、と聞かれ「題材によりけり。私自身は題材をコントロールできない」と答えていたのが印象的だった。
 友人から借りたまま積んである最新作「ミーナの行進」は谷崎潤一郎賞を得たらしいし、早く読んでみたいものだ。




●2006.09.16. 秋元康「象の背中」
★★★★
 バリバリ働く49歳のサラリーマンが、余命半年の肺ガンと告知される。延命を拒否し、自分のやり残したささやかなことを遂げようと努力する。
 作詞家の秋元が小説を書いたわけだが、世間で評判が良い。私が読んでみても、細やかな男の情感が描かれており、しかもそれが重松清のような意気地の無い作風にはなっていないのが好ましい。
 女性が読めば「勝手な小説」と評するかもしれないが、中年男性は一読してもよいのでは、と思った。




●2006.08.28. 神林長平 「膚(はだえ)の下」
★★★★☆
 若者向けの軟弱な?本ばかり読んでいたこの夏だったが、この「膚の下」はそうではない。非常に読み応えのある戦記、特に近未来の戦記を書かせたら日本での第一人者である神林長平の、2004年発刊の最新超大作である。
 自らが創造した機械人との戦闘で月を破壊されて失い、すさまじい環境激変の中で生き延びるわずかな人類たち。国連軍は全人類の凍結睡眠による一時的な火星移住を推し進め、その地球の留守役に、DNAがまったくヒトと変わらない人造人間戦士「アートルーパー」を創造して、地球の回復と監視を任せようとする。自らの運命を国連に委ねたくない惟任教授のグループはナノマシンを使った都市破壊+再生ミサイルで独自に地球の改良をはかり、はからずも発足したばかりのアートルーパーは、国連軍より本来の任務でない惟任グループの鎮圧に使われ始める。
 このアートルーパーのリーダー、慧慈(ケイジ)の苦悩が、この本のバックボーンとなっている。彼の悩みとはとどのつまり、人間とは何か、アートルーパーとは何か、生命とは何かという根源的な問いかけ、存在意義である。読者はこれに数百ページも付き合うわけだが、彼の心が次第に変容していく過程が素晴らしい。彼はやがて国連でも機械人でも惟任でもない、第4の解決策を見出し、時間ぎりぎりでこれを実行に移すのだった。
 正月過ぎより読み始め、途中、何度か中断したが、決して興味を失ったからではなかった。この本は、未来記の体裁をとっているし、軍記でもあるが、とどのつまり「生命とは何か」という哲学書でもあるのだ。そこに私は惹かれつづけた7ヶ月間だった。少しづつ読みながらも、終わってほしくないような、そんな立派な本だった。出会えたことに感謝したい。





●2006.08.23. 恩田陸「上と外」
★★★
 最近、恩田陸にご執心だ。今回は古書店で偶然みつけた、文庫本全6巻からなる大作を買って読んだ。しかし活字大きく、内容はそんなにボリウムがあるわけではない。
 スティーヴン・キングの「グリーンマイル」という小説は、文庫書下ろしで、1ヶ月に1冊づつ5冊分刊で出たが、出版社が恩田に頼んで同じ手法で書いてもらったらしい。
 というわけで大きな制約の中、書き上げた小説であり、いろいろな思惑なのか、主人公の中学生の兄妹が家族旅行で来ていた南米の国でクーデターに巻き込まれ、そこで先住民族の不思議な儀式に出会うという健康的な?冒険小説である。
 まあしかし、正直言って、「ネクロポリス」のような技巧の粋を極めた面白さからは遠く、「ただの小説」という感じ。それなりに面白いが、「六番目の小夜子」「夜のピクニック」「ネクロポリス」といった傑作群に比べると、何だかなあ、という気持ちがある。まあまあ面白いので、冒険小説好きの少年少女にすすめたい。





●2006.08.23. 小野不由実「風の海 迷宮の岸」
★★★
 今年はやっとこの超大作シリーズ「十二国記」に取り組むことができて嬉しい。このシリーズ第2作は、主人公は交代して少年になったので、やや興を殺いだが、読み物の面白さとしてはまずまずの出来である。何よりスケールが大きいのがいい。このへんが村山と違うところだろう。
 なお余談だが、最近の本は表紙のイラストが素晴らしく美しいものが増えた。このシリーズの山田章博のは、特に気に入っている。




●2006.08.23. 村山由佳「キスまでの距離」

 村山由佳は過去に直木賞を受賞し、現在もばりばりと書き続ける売れっ子作家である。最近も「おいしいコーヒーの入れ方」シリーズの最新刊が文庫化したとたんにベストセラーになった。私は村山は未読だったので、その評判のいいシリーズの第1巻「キスまでの距離」を読んでみた。
 ・・が、何というくだらない小説だろう。私は若者向けの小説も自分の勉強だと思って読んでいるが、この小説の単純馬鹿さ加減にはあきれてしまった。うーん、マンガを読んでいる方がもっとましだぞ、こりゃ。同じ荒唐無稽さでも、スケールの大きいものには賛辞を惜しまないが、こんな恋愛小説は活字の無駄のような気がする。私には拒否感が大きかった。




●2006.08.04. 恩田陸「ネクロポリス」
★★★★
 近作「夜のピクニック」ではホラーやサスペンスに頼らず、高校生の一途な心を描いて評判になったが、これも近作の「ネクロポリス」は、本来の恩田らしい不気味で、しかしどこかおかしいホラー・サスペンスである。
 ある国の島で毎年行われる死者との再会行事。主人公ジュンは研究のためそこに渡るが、さっそくそこで猟奇的な殺人事件。たびたび死者と遭遇する不思議な環境の中で、しだいに真相に気づいていく。
 とにかく面白くて怖くて、読み出したら止まらなかった。一気に読んでしまった。怖いものが嫌いな私、そして1つの本に集中せず複数読み散らすのが好きな私としては珍しいことである。
 しかし、読み終わってしまうと祭りが終わったあとのように虚脱感に襲われ、再び読みたいという気になれないのは、純文学と違うところか。まあしかし、現代最高の語り部、宮部みゆきが陽だとすれば、恩田陸はそれに匹敵する陰の語り手であろう。面白さにかけて、両人にまさる人はいないと言えよう。



●2006.07.17. 宇月原晴明「安徳天皇漂海記」
★★★☆
 今年発刊された本だが、以前から気になり少しずつ読み進めていたが、今日読了した。
 この作者は初めてだが、伝奇ロマンを得意とするらしい。この本も、前半が琥珀の中で生き続ける幼帝安徳天皇と悲劇の将軍源実朝との悲しい交流を、後半はマルコ・ポーロが目にする安徳天皇と、蒙古襲来が失敗に終わった意外な事実を、ものすごく大きなスケールで描いている。
 とにかく話が大きすぎて、私にはついていけない部分もあるが、作者の空想力の巨大さに圧倒される思いであった。面白さにかけては評判どおりである。ただし日本人として安徳天皇のや源実朝の悲劇を知っていないと、この本を読みこなすことはできないだろう。
 山本周五郎賞を受賞したと聞く。また今回の直木賞の候補作でもあった(選外だったが)。歴史モノが得意な人にお薦めしたい妖しい作品である。



●2006.07.07. ヘッセ「春の嵐(ゲルトルート)」
★★★★★
 友人に勧められて、久しぶりに文芸作品を堪能した。事故で足が不自由になった主人公が作曲家として再生していく過程で、最愛の少女を無遠慮な親友にとられたり、敬愛する父を失ったりと悲劇を何度も迎える中で、苦しみ傷つきながらもなお立ち上がる姿の感動的なこと。古典は私たちにはかり知れない大きな指針を与えてくれる。




●2006.06.22. グレッグ・ルッカ「暗殺者」 
★★★★
 ルッカのボディガードシリーズは、ミステリ・ハードボイルド・ファンの間で大好評だと聞いていた。初めて読んだが、いや実に面白い。主人公のアティカスはフリーの凄腕のボディガードだが、不幸な事件で友人を亡くして傷ついている。そんな彼に新たな保護の依頼が来るが、それを追う暗殺者は世界でも10本の指に入る怪物だった・・・。
 最新のボディガード術の詳細を知ることもでき、また常に相手との知恵の比べ合いと激しいアクションで読むものを飽きさせない。シリーズは何冊も出ているそうなので、さっそくこれから古書店で買いあさることにしよう。




●2006.06.10.阿刀田高「ホメロスを楽しむために」★★★★
 春の欧州行きの時に持参し、その頃からぽつりぽつりと読んでいたが、本日読了した。前半に有名な「トロイア戦争」を拾い書きし、後半にはその後のオデュッセウスの運命、これまた有名な「オデュッセウスの帰郷」が語られる。
 阿刀田の古典翻案シリーズを読むのも、かれこれ4作目になるが、どれも彼一流のエンターテインメントと、嫌味にならない古典教養がいい塩梅にミックスされて、稀有の好シリーズとなっている。
 私もホメロス作と言われる「イリアス」「オデュッセイア」の2大叙事詩は、存在や小話は知っていても、それを読もうという気は起こらない。そんな怠惰な私にうってつけの入門書となった。3000年前といわれるトロイア戦争の詳細と、その後の悲運にもてあそばれた英雄オデュッセウスの感動的な帰郷をさらりと描いてくれて楽しさいっぱいである。
 多くの方におすすめしたい、軽くて楽しくて教養と娯楽にあふれた一品である。


●2006.05.20. ル=グウィン「ゲド戦記2 こわれた腕環」★★★★★
 これも久しぶりに読み返す。この物語ではゲドは脇役に過ぎない。暗黒の墓所の巫女、テナーの葛藤を描く読み応えのある作品だ。作品の3分の2は漆黒の地下の物語なのに、読む心がせきたてられるのは作者の筆力のなせるわざか。20年後に書かれるテナーの後日談を思うと、最初に読んだ時とはまた違った感慨が生まれてくる。名作。


●2006.05.15. ル=グウィン「ゲド戦記1 影との戦い」 ★★★★★
 久しぶりに読み返した。こんにちではハリーポッターをはじめとするファンタジーばやりだが、その原点の一方にイギリスのトールキンの「指環物語」があり、もう一方にこのアメリカのル=グィンの「ゲド戦記」があると思う。ゲド戦記の素晴らしさは、その孤独な戦いと、己を克服しようとする過程、哲学の深さである。
 ゲド戦記は全部で6冊出版され、後半の3冊は大人向きのやや複雑な話だが、最初の3つは青少年のために書かれた分かりやすい作品だ。しかも文体は高雅にして簡潔、純文学といってもなんらおかしくない。
 この本は、やはり子どもの、あるいは10代の時代に読んでおきたい。まだ若く、己の道を探す人々に読んで欲しいと思う。まだ読んでない方には、今からでも遅くない、おすすめの書である。



●2006.05.06, 海堂尊「チーム・バチスタの栄光」 ★★★★☆
 2006年「このミステリーがすごい」大賞受賞作。心臓のバチスタ手術に驚異的な成功率を誇る大学病院の医療チーム。しかしここ数例は原因不明の失敗続き。単なるミスでないと考えた病院長は、昼行灯の神経科医田口に内偵を命ずる。後に破天荒な厚生労働省の技官、白鳥も含めた田口の聞き取り調査の中で驚愕の事実が判明する・・。
 賞好きの私としては「待ってました」という本だが、やはり面白い。もう少し重たい感覚があれば、なお私向けだが、軽いノリでぐいぐい進んでいくストーリーは、一気に読ませるだけの力を持っていた。この白鳥なる人物はなかなか良いキャラクターなので、彼を主人公にして、続編をぜひ書いて欲しいものだ。



●2006.05.01. 梨木香歩「沼地のある森を抜けて」 ★★★★☆
 すごい本である。「家守綺譚」でその天才ぶりを認識した梨木だが、続く「村田エフェンディ滞土録」ですっかり梨木ファンになり、こうして今、超大作の「沼地」に出会った。
 死去した若い叔母のマンションと、一族に古くから伝わるという古い「ぬか床」を遺産継承した孤児の娘が、ぬか床の世話をしているうちに、不思議な現象に出会う。娘は自分の両親の不可解な死も含めて、一族の謎を解明しようと、孤島へと旅立つ。
 最初は読んでいるうちに気持ち悪くなり、これはホラー小説かそれともグロ小説かと思ったが、読み続けているうちに、とんでもない深い小説なのだと感心した。
 大江健三郎を思わせた。梨木はノーベル文学賞レベルにまで達し始めている。


●2006.04.23. 湯本香樹美「ポプラの秋」 ★★★☆
 人から勧められて読んだ。前作「夏の庭」に続き、幼い子の目から見た大人の不思議で優しい世界を描いている。とても瑞々しい感性で書かれており、時折はっとさせられることもある。この著者は最近は書いていないようだが、もう少し書き続ければ良かったのにと思う。10代〜20代の人に読ませたい物語だ。



読書の日記 2006年1月〜

●2006.04.20. 司馬遼太郎「韃靼疾風録」★★★★☆
 司馬遼太郎最後の長編小説。漢民族の国である「明」が滅び、北東の一部族であった「女真」が「清」となって中国大陸を制覇した1600年代中期、たまたまその場に居合わせた一人の日本人の目を通して中国大陸の騒乱を描く。
 私は小学生のときからの司馬遼太郎のファンである。私に限らず多くの日本人男性は司馬が好きである。今回もページをめくるのが惜しくなるような読書の時を過ごした。司馬が描くと、ありとあらゆる史実が新しい光をともなって輝く、その瞬間が好きだ。
 たっぷりと堪能した。司馬遼太郎には、もう10年、長生きしてほしかった。


2006.04.16. 最近読みちらしている本など
 少し時間がとれはじめた。重荷だった「ダヴィンチ・コード」(通俗的と私は判断)の読了と共に、最近読んでいる身の回りの本は、比較的実り多い本がそろってきたようだ。私は○○賞受賞というものが好きなので、そのあたり現在読んでいるものを連ねてみると
 ・「オルダード・カーボン」遠未来で体を自由に取り替えることができる時代の犯罪捜査。フィリップ・K・ディック賞受賞作。
 ・「韃靼疾風録」明が倒れ清が建国されるときに居合わせた一人の日本人の記録。大佛次郎賞。
 ・「ららら科学の子」全共闘時代に警官殺しの嫌疑を逃れ中国に潜伏した男が30年ぶりに日本に戻ってくる。三島由紀夫賞。
 どれも面白くて、毎日少しづつ読むのが楽しみだ。この後は積んだままになっている「チーム・バチスタの栄光」に行きたい。


●2006.04.16. 西尾維新「クビシメロマンチスト」★★★
 西尾維新のこのシリーズは若い人に人気があるらしい。私もメフィスト賞受賞作の1作目「クビキリサイクル」を読んで、著者の豊かな才能にびっくりしたが、
 今作はその続編。戯言使いの大学生の主人公、今回は自分の分身と思える殺人鬼と出会い、そして大学の友人たちに起きる連続殺人の調査を進める。
 日本語が達者な作者である。そのため、一種他愛のない物語に品格が付け加わっている、このあたりが他の凡百の若者小説と一線を画する所以だろう。
 このシリーズは数作かけて終了したらしい。その分析本まで出ているぐらいなので人気のほどが偲ばれる。私も好感を持って読み進めているところだ。


●2006.04.05. 阿刀田高「新約聖書を知っていますか」★★★★
 阿刀田が古典を面白おかしく読者に呈示してくれるシリーズ、確かこれは「ギリシャ神話」「旧約聖書」に次ぐ3冊目だったと思う。再読。
 このシリーズの最初の「ギリシャ神話」に出会ったのは、もう大昔、学生時代の頃。とかく読みづらい西欧古典の興味深いエピソードをうまく掬い取り、阿刀田流に解釈して読ませてくれる。その巧さに感心させられたものだ。
 このシリーズの「新約聖書」は昔読んだはずだが、最近読んだ「ダヴィンチ・コード」の影響で、マグダラのマリアの記述をもう一度確かめたいと取り出してみた。
 作者も書いているが、「旧約」と違って「新約」はその本の成立からして難解で、困難な作業だったらしい。時系列にできた本ではなく、同じ話(キリストの降誕と受難)を4人の目で別々に描き出している、そのた同じエピソードが4つもあり、しかもそれらが微妙に異なっているらしい。どれが本当なのかわからない、といったところか。
 マグダラのマリアの記述はほとんど無いが、作者が「復活はあったかどうかは別として、キリスト教には無くてはならないものだった」と書いているのが説得力有り。
 欧州の往路の機内で読んだ。退屈せずに済んだ。未読の方にはおすすめしたい。もちろんシリーズのほかの作品も。


●2006.03.23. 天童荒太「包帯クラブ」 ★★★★
 新書ながら書き下ろしの小説。若い人に読んでほしいという著者が、新書という安い価格の媒体で送り出した。
 天童というと「永遠の仔」という衝撃的な作品が思い出されるが、今回の「包帯クラブ」は若い人向けのせいか、それほどの悲劇性はない。むしろ爽やかな青春ドラマだといえよう。
 心が傷ついた場所に包帯を巻くことによって癒されることに気付いた女子高生は、次第に周りを巻き込んで、苦しむ人々の癒しを始めていく。
 着想がユニークで、しかも分量が少なくて読みやすい。年長の私には物足りない部分もあるが、おそらく多くの若い人の支持を得られるのではないか。おすすめである。


●2006.03.20. ダン・ブラウン「ダヴィンチ・コード」★★★☆
 購入して1年以上が過ぎ、途中で中断しながらもやっと本日読了した。遅くなった理由は、いつものように世評の高い本は「もったいない」ので読むのを後回しにしたのと、いったん読み始めるとつまらなくて(笑)、何じゃこりゃと放り出したからでもあった。
 期待したほど面白くなかったのは、通俗的すぎるからであろう。次から次へと謎を解かせるスピーディな展開はいいが、人物や背景の書き込みが不足していて、奥行きがない。
 まあしかし、この背景に語られる「マグダラのマリア」やシオン修道会の謎については惹かれた。新約聖書を読んでみたくなった。手軽な入門書、阿刀田高の「新約聖書を知っていますか」を探しているところだ。



●2006.03.14. 佐藤優「国家の罠」★★★★★
 暴露本である。鈴木宗男議員の逮捕にからんで逮捕された外務省職員佐藤優が、投獄の日々と真実を明らかにする。
 まずここで書かれていることのすさまじさに圧倒される。わずか5年前のことを実名でバンバンと出し、田中真紀子、鈴木宗男、小泉首相らを時に打ち据え、時にかばう。
 かてて加えて本人には失礼だが興味をそそるのが、投獄の日々である。刑務所に入れられるとはどのようなことなのかが赤裸々と語られ、興味は尽きない。
 本人は自分のことを「情報屋」「分析官」としか書かないが、要は非常に切れ者のス○イである。日本が世界に誇るス○イである。
 その彼が鈴木宗男を陥れる国家戦略の罠にかかって苦闘の日々を送る。まさに事実は小説より奇なり、である。読み応えのあるドキュメンタリーだった。



●2006.02.25. 吾妻ひでお「失踪日記」★★★★
 マンガであるが、昨年からひそかに話題になっていたもの。今回、何かの賞をもらったとのことで、賞好きな私としてはさっそく古本で買い求めた。
 なるほど、素晴らしい。ホームレスになるということは、アル中で入院するとはこのようなことかと手に取るようにわかった。しかし反面、怖い本である。ここに書かれていることは、明日の自分の姿のようでもある。人生とは何と難しさに満ち溢れていることか。男性諸氏にお勧めしたい。


●2006.02.23. 藤原正彦「国家の品格」★★★★★
 数日病床に臥せった。気分が良くなったときに、ふと思い出して買っておいたこの本を読む。現在、大ベストセラー中である。
 昔、西洋かぶれの本を出していたこの著者は、いつのまにか愛国主義者に変貌している。しかし数学者だけあって、非常にていねいな展開の論を張る。
 今回は日本が精神的に落ちぶれた理由を「西欧の合理主義を信じたため」と断じ、論理の組み立てた合理主義では、人間社会は決して成功しないと説く。
 日本人の持っていた情緒と形こそが、いま世界に発信すべき重要な価値観だと説くその姿に、圧倒され感銘を受けた。うすうす感じていたこの合理主義への疑念を見事に言い当ててくれて、正直言って「やはりそうだったのか」と目からうろこが落ちた気分である。
 評論を読んでいて、涙を流したのはこの本が初めてだ。もういちど、日本人をやりなおしたいと思う。


2006.02.09.最近読み散らしている本など。
 「パイの物語」が終わってほっと一息。次は何を主体的に読もうかと、楽しい思案の日々、とおもいきや、実はすでに次の大作に手をつけたところ。今日はまだ明かさないが、久々のサイボーグまたはレプリカントのハードボイルドで、早くもぞくぞくしながら読んでいる。
 ほかにも、小野不由美の大作「十二国記」にやっと手を染めることができそうだ。これもたのしみ。本はいつも私を裏切らない。
 

●2006.02.05. 「パイの物語」ヤン・マーテル ★★★★
 インド人の少年が一家で船でカナダに移住中に船が沈没。少年のみがトラと一緒にボートで漂流する想像を絶する物語。
 かといってシリアスでもなく、ややコミカルに描いており、笑いをそそる場面も多々ある。大洋を二百数十日も漂流する、その狭い世界がていねいに描かれている。
 しかしこの本はただものではない。前半に自己の内面での宗教論争を描いてみたり、最後に救助された直後の話は虚無的ですらある(ちなみにここで日本人が相当に揶揄されている)。
 青少年のための物語の範疇だと思うが、かなり読み応えのある本だった。2003年度Booker賞受賞作。


●2006.01.25. 「東京タワー」江國香織 ★
 20歳前後の二人の男子大学生の、年上の恋人との情交をつづる。
 一昨年もっとも売れた作品らしいが、こうして読んでみると、なるほど丁寧な文章であるものの、中身の無い本だとわかった。
 昔、片岡義男などのつまらん作家が流行ったことがあたが、この江國という人物も同じようなものか。実につまらん本である。


●2006.01.22. 「夏の庭」湯本香樹美 ★★★☆
 平凡な小学生3人組は、死者を一度見てみたいと思い、近所に住む一人暮らしの冴えないおじいさんを見張るが、おじいさんに感づかれてしまい、奇妙な交流が始まる・・。
 友人から勧められて読んだが、みずみずしい感性の小説だ。おそらく児童文学を目指したのだろうが、大人が読んでノスタルジアを感じるような小説だ。そういう意味では先述の「夜のピクニック」と通じるものはある。
 まあしかし題材がシンプルすぎて、満点はあげられないか。良い小説だと思う。若い人にすすめたい。



●2006.01.12. 「夜のピクニック」恩田陸 ★★★★★
 2004年吉川英治文学賞新人賞および本屋大賞受賞作。かねてより読みたいと思っていたが遂に読むことができた。
 世評にたがわぬ、素晴らしい作品だ。進学校の少年少女たちが学校行事の夜間歩行祭で、真夜中に80kmを歩くその過程を描いただけなのだが、彼らの心を丁寧につむぎだす才能には感服させられる。本来何もないはずの歩行祭(事実なにもないのだが)で、このような心のドラマが描けるとは。
 終章あたりで物語が一気に加速して団円を迎えたとき、不覚にも涙が出そうになった。そんないじらしくも純情な主人公たちである。
 歳の初めから素晴らしい本に出会った。
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