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第19章:翠の一番長い日

 学園祭当日。それは、穏やかな日差しが降り注ぐ秋らしい朝だった。
 実行委員会のメンバーは、7時に登校し、最終チェックを済ませる。
 私の机にいたずらをしようとした隣のクラスの連中を、私が追っ払って以来、これといって嫌がらせがあったわけではないが、私はまだ気を緩めていなかった。連中が何かするとすれば、今日こそ恰好の日ではないか。例えばマイクにいたずらをするとか、器材を隠してしまうとか、私に嫌がらせをする方法はいくらでもある。文化祭の不手際は、即ちこの私の責任になるのだから、油断はできない。私は、隅から隅まで細かくチェックしていった。

 8時、一般生徒登校。アーチ状にデコレートされた校門をくぐって、夥しい数の制服が校内に流れ込んで来る。私は、生徒会室の窓からそれを眺めながら、1時からの演劇のことを考えていた。

 『メサ・ヴェルデ』。スペイン内戦を背景に、相対立する政治勢力のリーダーの子に生まれたヒーローとヒロインの悲恋物語。ロミオとジュリエットに題材を採ったこの物語は、スペインの陽光のように明暗のくっきりした、情熱的な作品である。
 共和派のリーダーの息子・アントニオは、対立する王党派のリーダーの一人娘・ジュリオラの噂を聞き、その類い稀な美貌を一目見ようと、王党派のパーティに潜入する。
 折りしもその日は、ジュリオラの17歳の誕生パーティだった。変装したアントニオは、母・イザベラとともに現れたジュリオラの美しさに、魂を奪われてしまう。彼女もまた、アントニオの凛々しさに胸のときめきを覚え、人目を忍んで木陰で名乗りあった2人は、お互いの境遇に愕然とする。
 しかし、その障害を乗り越えて、愛は燃え上がっていく。諌める母親の手を振り切って、シェスタ(午睡)の時間に屋敷を抜け出すジュリオラ。お目付として父親の命を受け、しつこくつきまとう親友・カルロスをまいて、彼女の許に駈けつけるアントニオ。2人は、平和を願う神父ガルシアに手引きされ、教会の鐘楼で愛を交わす。
 つかの間の幸せをかみ締める2人は、それぞれの父親を説得して、長きにわたる内戦をやめさせようと誓い合う。だが、思わぬ破局が、その直後に待っていた。
 アントニオを追って来たカルロスと、母の知らせを聞いてジュリオラを探しに来た、彼女の兄・ホセが、ばったり出会ってしまう。激しい銃撃の音を聞いて、鐘楼を降りてきたアントニオの前で、カルロスは胸を打ちぬかれて死ぬ。親友の死に我を忘れたアントニオは、呆然として突っ立っていたホセを射殺してしまい、そこへ降りて来たジュリオラは、愛する兄の変わり果てた姿に絶叫する。
 もはや、戦いを止める方法はなかった。2人は狂おしく抱き合って決別し、アントニオは銃を取って戦場に赴く。
 戦局は、共和派がヒトラーの援軍を要請したことから、一気に転換期を迎える。押し寄せるドイツ機甲師団の前に、成すすべもなく殲滅されていく王党派の兵士たち。やがて、勢いに乗る共和派は、王党派の立てこもるジュリオラの屋敷に殺到する。広大な邸宅は、紅蓮の炎を上げて燃え上がり、彼女を救い出そうと飛び出したアントニオは、王党派の銃弾に射抜かれて倒れる。
 必死に入口へと這って行くアントニオ。しかし、そこで瀕死の彼が見たものは、広間の長椅子で毒を飲み、息絶えているジュリオラと母親の無残な姿であった。アントニオは、最期の力を振り絞ってジュリオラの傍らに這い寄り、その手を握り締めてついに力尽きる。屋敷を舐めつくした火の手は周囲を覆い尽くし、やがて2人の亡骸は炎の中に消えていく・・・。

 あのおとなしい紫のどこに、こんな激しい情熱が隠れていたのだろう。その紫は、ヒロイン・ジュリオラを演じる。ヒーロー・アントニオは萌黄だ。まさにぴったりのキャスティングである。アントニオの親友・カルロスは茜。カルロスを争いの末に殺してしまうジュリオラの兄・ホセの役が葵。私は、ジュリオラの母イザベラと、二人を結びつける手助けをする神父ガルシアの二役を任されている。地味な役だけれど、これも私の性格にぴったり。練習が盛り上がるはずよね。

 セリフを一通りさらい終わった頃、時間は9時になった。さあ、学園祭の開場である。
 校門から、来場者たちが次々と入って来る。私は、マイクを手にとって、その人たちに呼びかけた。
 「おはようございます。明陵祭にようこそ!」

 午前中は、目の回るような忙しさで、あっという間に過ぎていった。各教室の巡回、催し物のタイムキープ、迷子の案内や落し物の管理。私は、生徒会室に設けられた文化祭実行委員会本部で、次々に持ち込まれる書類や事務に追われた。
 ふと気がつくと、いつの間にか12時を回っている。私は、副会長に後を引き継ぐと、慌しく食事を済ませ、アリーナに駈けつけた。

 控室では、もう舞台衣装に着替えた4人が、最後の読み合わせを行っていた。
 「遅いよ翠ぃ」ライトブルーのスーツに縁なし帽といったいでたちの茜が、声をかけてくる。「もう30分もないんだよ。」
 「ごめんごめん。すぐ着替えるから。」
 私は、手早く地味なグレーのドレスに着替えると、三つ編みを解き、ひっつめたように高く結い上げて、鼈甲の髪留めでとめた。両側の後れ毛をかき上げ、ピンで留めていく。私としたことが、緊張しているのだろうか。手が震えてうまくいかない。総一郎からもらった指輪を右手の薬指にはめると、少し気持ちが落ち着いた。
 萌黄が、持ってきたMDコンポの使い方を簡単に説明する。音響効果も出演場面の一番少ない私の担当だ。渡されたメモには、各場面ごとに使用するBGMと効果音が、踊るような字体できっちりと書き込まれている。さすがは萌黄、短期間によく必要な曲を集めたものだ。
 「みんな、頑張っていこう。」
 萌黄のガッツポーズにみんな顔を引き締めて頷く。
 そして、開演のベルが鳴った。

 礼装に身を固めた萌黄が、颯爽と舞台に出て行く。湧き起こる拍手の音は、かなりの観客がアリーナに集まっていることを窺わせた。私はすかさず、MDコンポのスイッチを入れる。軽快なオープニング曲が流れ出し、張りのある声で、萌黄が最初のセリフを口にする。物語の導入部、アントニオがジュリオラの家で開かれているパーティに、変装して潜り込もうとする場面だ。
 舞台のそでから見ていると、萌黄の演技は堂々としていた。まるで宝塚の男役を見ているようだ。無造作に撫でつけたショートカットの髪に、黒い礼装と蝶ネクタイが良く似合っている。『男装の麗人』というあだ名も伊達ではない。観客席から歓声が上がるのは、きっとファンクラブの子たちだろう。萌黄の美貌と演技は、たちまち観客を引き込んで行く。まずは順調な滑り出しだ。

 萌黄が下手に去ると、いよいよ私と紫の出番だ。パーティ会場で母とジュリオラが会話を交わす場面。17歳の誕生日を迎えたジュリオラが、アントニオと運命的な出会いをするシーンだ。
 「行くわよ、紫」
 私は、傍らで蒼ざめたまま指を組み合わせている紫に笑いかける。
 「翠ちゃん、わたくし・・・」
 「大丈夫、観客は味方よ。私がついてるから、ね?」
 「う、うん・・・」
 「茜、音楽の方、任せたわよ。」
 「おーけいっ(^^)v」
 尻込みしそうになる紫の肩をたたいて、私は舞台へと歩み出した。

 艶やかな紫色のドレスをまとった紫の登場に、観客席がどよめく。
 豊かに波打つ長い黒髪を引き立てる銀のティアラ。スポットライトを弾いて煌く大粒のイヤリング。細く長い首から大きく開いた胸元を飾るダイヤのネックレス。勿論全部イミテーションだけれど、紫の優雅な物腰を見ていると、本物としか思えない。傍らに立つ私は、まるきり引き立て役である。こらこらっ、照明係。紫にばかりスポットを当てるんじゃないっ(^^;
 紫の唇がふっと開き、澄んだ声が流れ出る。
 「お母様、あの方はどなたでしょう?・・・ほら、バルコニーに佇んで、こちらをご覧になってらっしゃる・・・」
 桜色に上気した頬が、初々しさをかき立てる。同性の私でさえ、ぞくぞくするほどの愛らしさ。これでは男はいちころである。アントニオだって例外じゃない。思わず見とれていた私は、はっと我に返る。いけない、私のセリフだ。

 口を開こうとした瞬間、客席から何かが飛んで来た。
 「えっ?!」
 咄嗟に身をかわすと、それは私の立っていた位置に落ちて割れた。白い殻が割れて、黄身がどろっと流れ出す。
 「誰っ、卵なんか投げたのは!?」
 私は観客席を睨みつけ、鋭く叫んだ。
 観客からざわめきが起こる。紫は、口元に両手を当て、ショックで目を見開いている。舞台の上手から茜と葵が、下手から萌黄が走り出て来る。劇は中断され、事態が後方に浸透するにつれて、客席のざわめきが大きくなる。

 「私よ!」
 客席の中央で立ち上がった者がいる。うっ、あいつは副会長。それに続いて、何人かの制服が立ち上がる。会計に書記に風紀委員長・・・うあ、全部生徒会関係じゃないか。思わず絶句する私にたたみかけるように、副会長が声を上げる。
 「榊原さん、この場であなたの不純異性交遊について、はっきり釈明を聞きたいわ!」
 げげっ、ついにきたか(^^; でも、これはないんじゃない?
 むらむらと怒りが込み上げてくる。私は眼鏡を直すと、突っぱねるように言い返した。
 「劇の進行を妨害するような行為は、慎んでいただきたいわ。」
 副会長は、せせら笑って言う。
 「何よ、お高くとまっちゃって。私は、あなたの淫らなふるまいが、我が校の評判に傷をつけていることを弾劾しているのよ。」
 くそ、『淫ら』とは何だ『淫ら』とはっ。
 「それなら生徒会の場で動議を提出するべきだわ。あなたのしていることは、単なる妨害目当てのアジテーションに過ぎないのではなくて?」
 「よく言えるわね、そんなこと。行きずりの男とホテルに入るような女に言われたくないわっ」
 「なっ・・・!」
 客席のざわめきが大きくなる。明らかに相手は優位に立っていた。
 「うまくごまかしたつもりだろうけど、みんな知ってるわ。生徒会長がそんなことで、学校の風紀が保てるの?ここではっきりしてよ!」
 「う・・・」
 冷や汗が全身から吹き出してくる。身体が細かく震え、耳元でトクトクと血管が脈打つ。口の中がカラカラになって、言葉が出てこない。油断だった。まさかこんな所で詰問を受けるとは、思ってもみなかった。しかも、相手は生徒会役員ばかり。足元をすくわれるとは、このことだ。私は、敵を作り過ぎたことを、今更ながら後悔した。
 窮地に陥った私にとどめを刺すように、副会長が言いかける。
 「説明しなさいよ!あなたが森川さんと産・・・」
 「黙れっ、バカ野郎!」
 その時、客席の後方で、アリーナ全体に響き渡るような大声が上がった。あたりの空気がびりっと震え、副会長が思わずすくみ上がる。観客の視線が後方に集中し、照明係が気を利かせて、声のしたあたりにスポットライトを当てる。
 そこには、肩を怒らせた藤村総一郎が立っていた。

 やばっ!総一郎、お願い、コトをややこしくしないで!
 私は、安堵と心配がまぜこぜになった複雑な感情で、頭が混乱してきた。総一郎は、突っ立っている副会長たちを睨みつけながら、通路をずんずん歩いて来る。『暴力はだめよ、総一郎!』そう呼びかけたいのだが、声が出ない。スポットライトが彼を追う。今やしんと静まり返ったアリーナの中で、彼だけが動いていた。
 私の心配をよそに、彼は副会長たちを無視して通り過ぎ、まっすぐこちらに向かって来る。まさか・・・まさか総一郎・・・。私は思わず舞台から逃げ出そうとしたが、足が貼りついたように動かない。全身がしびれたように硬直している。だめっ!だめよ総一郎!

 観客が呆然と見守る中、彼は舞台に続く階段を荒々しく駈け上がり、私の前に立った。私の視線を捉えると、彼はにやりと笑う。
 「総一郎っ」
 「バカども、これが答えだっっ!」
 「ばかっ!やめてっっ!!」
 次の瞬間、彼の腕が私の腰をぐっと引きつけた。どっと彼の胸に倒れこむ私の顔を上げさせると、いきなり覆い被さってくる。
 「やめ・・・んぐっ!」
 唇をふさがれ、言葉が途切れる。彼は私を強く抱きしめ、燃えるように熱く口づけをした。私はめまいに襲われ、頭の中が真っ白になった。
 観客がどよめく。うあ、何てディープなキス。目をつぶると花火がぱちぱち弾けた。全身ががくがくと揺れ、息が止まる。私は思わず、彼の背中に腕を回して身体を支えた。

 何秒間そうしていたのだろう。観客が静まり返った頃、彼は唇を離すと、私の右手を取って高々と上げた。スポットライトを反射して、エメラルドの指輪がキラキラ輝く。
 「翠は俺の婚約者だっ!何か文句があるかっっ!」
 客席のどよめきは頂点に達した。あのお堅い生徒会長が婚約?衝撃的な事実に、先生方も信じられないという表情で私を見つめている。私は羞恥で全身が燃えるようだった。
 「・・・ばかっ」
 小さくつぶやくと、頬に血が昇って来る。喜びと誇らしさが、徐々にこみ上げてきた。彼は、私の眼鏡をそっと取ると、優しい声で言った。
 「きれいだぜ、翠」
 「・・・ばか・・・」
 再び彼の顔が近づいてくる。私は目を閉じて、彼の唇を受け止めた。

 彼の登場は、私のスキャンダルを一気に吹き飛ばした。
 盛んに照れながら舞台を降りる彼に、惜しみない拍手が贈られる。劇は再開され、大成功のうちに無事終了した。カーテンコールに出た時、意外や一番の拍手を受けたのは私だった。
 控室に戻ると、みんなほっとしたように、わいわい始める。着替えながら、ぽんぽんと軽口が飛び出した。
 「今日の主役は、翠に食われちまったな」萌黄が朗らかに笑う。「見てろよ、ボクも翠に負けないような恋をつかまえて見せるからな。」
 「相手は女だったりして」
 「パカモノっ(--#」
 「良かったね、翠」茜もはしゃぎまくっている。「見て見て、あたしも啓介から花束もらっちゃった♪」
 「てんぷらにするとおいしいわよ、それ。」
 「うう・・・いぢわる(--#」
 「藤村さん、素敵でしたわ」紫が夢見るように言う。「翠ちゃんも、すっかり慣れた感じでキスを受けて、抱き合って・・・。ふふっ。やっぱりわかってしまいましたわ。」
 「な、何がわかったって?」
 「ふふふ、ないしょ」
 「一時はどうなるかと思ったぜ」葵がいたずらっぽく片目をつぶる。「お堅い翠にしちゃ、ドラマチック過ぎる幕切れだったもんな。」
 「ありがと葵。あなたの恋も応援するわ。」
 「ばっ、ばかっ(^^; ここでバラすなよっ!」
 「えーっ、なになに?葵も恋してんの?相手は誰?教えてよー」
 「だめっ(^^; 茜に話したら、学校中に広まっちまうだろっ」
 「けちー」
 「な、終わったらマクドで打ち上げしよーよ」
 「いいね、いこいこ(^^)/」

 「おーい翠ぃっ」盛り上がっているところへ、いきなりドアが開いて、彼が飛び込んで来た。「終わったらメシでも・・・どわっっ!」
 「キャーーーーーッッ!」
 紫が胸元を隠してしゃがみ込む。私と茜は、慌てて入口に背を向けた。萌黄は思わず後ずさりし、投げつけるものを手探りする。葵だけが下着姿で平然としていた。
 「総一郎っっ!」
 「あわわ、ごめんっ!」
 「出てけっ!すけべっっ!」
 私は、胸を隠しながら振り返って、テーブルの上にあったコロンの瓶を投げつけた。
 ごんっ。
 「うぁちっ!ごめんってば!」
 ばたばたと彼が飛び出して行くと、みんなほっとため息をついた。
 「みんな、ごめん。後でよく言っとくから。」
 私が謝ると、紫が涙目で頷く。
 「いいよ、彼も悪気じゃなかったんだし。」
 萌黄が言うと、葵も笑って言う。
 「大したことじゃないって、なあ茜?」
 「うう・・・啓介にだって見せたことないんだぞ(--#」
 「なら啓介にも見せてやんなよ。」
 「ぶぁかっ」
 「紫、本当にごめんね。あいつに謝らせるから。」
 私が言うと、紫は首を振って涙を拭いた。
 「ううん、いいの。でも・・・」
 「え?」
 「藤村さんには責任をとってもらいますから。」
 「え゛?」
 ぎょっとして固まる私。底光りするまなざしで見つめる紫。一瞬、背筋が寒くなる。
 「あ・・・あの、ね、紫。彼は私の・・・」
 言いかけた私の声は、不安に震えていたに違いない。紫はそれを見て、いたずらっぽく笑った。
 「後でみんなにおごってもらいますわ、豪華ディナーを(^^)v」
 どっと全身から力が抜けた。
 冗談?これって冗談なの?紫が冗談?信じられない。
 「うう・・・紫の冗談って、きつすぎるわよ。」
 思わずため息をつくと、みんな頷く。
 「あたし、本気かと思ったよ」と茜。
 「驚かすなよなー、心臓に悪いぜ」と葵。
 「紫が冗談なんて、明日は雪だぞ」と萌黄。
 紫はにっこり笑って言った。
 「今日はそんな気分なの。びっくりさせてごめんなさい。じゃ、5時に校門に集合。それでいいかしら?」
 「う・・・うん」
 私が頷くと、紫は荷物をまとめて、軽やかに出て行った。みんな呆然として、それを見送っている。
 「恋・・・かな?」
 萌黄がぽつんとつぶやいた。
 「恋?・・・紫が?」
 葵が唖然として言う。
 「でも、あのうきうきした様子は・・・」
 私が言いかけると、茜が後を続ける。
 「恋・・・かもね」
 「うわわ、えらいこった」萌黄が慌てだす。「相手がいないの、ボクだけじゃんか。」
 「よーしっ」茜が勢い込んで言う。「今夜のディナーで、紫からバッチリ聞き出してやるから。あんたもだよ、葵。洗いざらい話してもらうからねっ(^^)b」
 「お、おいっ、いきなりこっちに話を振るなよっ(^^;」
 「これこれっ、誰があなたたちまでディナーに招待するって言ったのかな?」
 「うっそー、何さケチー(--#」

 またまた盛り上がる4人。おしゃべりはまだまだ続きそうだったが、その時ドアが控えめにノックされた。
 「翠ぃ、まだかー?」
 うあ、総一郎。あんたずっと待ってたの(^^;
 「今行くわ。」
 私はドアの向こうに声をかけると、仲間に手を上げた。
 「じゃ、5時に校門でね。」
 「おーけいっ、そうこなくちゃ(^^)d」
 「たっぷりノロケを聞かせてもらうぜ」
 「そう言う葵こそ、覚悟しといた方がいいわよ」
 また賑やかにおしゃべりが始まりそうな感じ。私は衣装を詰めたバッグを抱えて入口に向かいながら、つくづくこの連中と仲間になって良かったと思った。個性たっぷりで、騒がしくて、いつも舞い上がっていて、でも、やる時はぴしっと決める。なんて素晴らしい子たちだろう。私は、今初めて彼女たちの仲間になったような気がした。

 ドアを開けると、彼が神妙な顔つきで立っている。
 「翠ぃ、みんな俺のこと、怒ってなかったか?」
 「すけべ」
 私は、彼の頭に軽くげんこつを当てる。
 「ディナー1回分で許してくれるって。」
 「え?」
 きょとんとした彼の表情が可愛らしくて、私は思わず彼の首に腕を回し、伸び上がってキスをした。
 「5時に校門に集合。ちゃんと6人分の予約、入れといてよ。」
 「6人?え?お、おい翠ぃ・・・」
 「高くついちゃったね、総一郎。ふふっ。」
 私は彼の腰に腕を回し、胸に顔を埋めて、くすくす笑った。彼の暖かい腕が、私を抱きしめる。私の鼓動と彼の鼓動がトクトクと鳴っている。いつまでもこうしていたいな。私は、こみ上げてくる幸せな気持ちに、うっとりと身をまかせた。

 「スキ」
 私は小さくつぶやいてみる。彼の腕に力がこもる。
 出会いからこれまで、波乱だらけの私の恋。そして、これからもきっと波乱だらけの私の恋。でも、何て素敵な私の恋。
 二人の鼓動が次第に高まっていく。それにつれて、私の心もまた宙に舞い上がる。空を駈けるヒバリのように。
 どこまでも、高らかに。
 榊原 翠、17歳。
 私は今、かけがえのないものを、見つけた。

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