| 書籍名 | 著者名 |
| クオレ〜愛の学校〜 | エドモンド・デ・アミーチス |
| 出版社 | 巻数 | ジャンル | 対象年齢 |
| 偕成社文庫 | 全2巻 | 文学 | 小学校以上 |
| 愛と誠実、そして美しい言葉と想いに満たされた永遠の名作。 1886年に出版された、この『クオレ』は、作者の生前だけで実に300版を重ね、今なお世界中の人々に愛読されている、学園・教養小説の最高峰とも呼ぶべき小説です。 愛とは?友情とは? 誠実さとは?勇気とは? そして優しい想いとは? その答えは、全てこの作品の中にあります。 学園小説『青色廃園』の根底に流れる想いの源流であるこの作品は、私にとってかけがえのない座右の書であるとともに、自分の心の在り処について貴重な示唆を与えてくれる、バイブル的な1冊でもあります。 この小説は、イタリアの少年・エンリーコの、1年間の学校生活や日々の暮らしについて、日記体で書き綴った物語です。4年生の新学期(10月)に始まり、7月の終業式まで、エンリーコ自身の日記だけでなく、彼の父母や姉が、彼を戒めたり励ましたりする文章も、そこには書かれています。そして、毎月の一番最後には、先生による『毎月のお話』という短編の物語が挿入され、この小説を一層味わい深いものにしています。 特に、5月の『毎月のお話』である『アペニン山脈からアンデス山脈まで』は、傑作の呼び声が高く、独立した短編としても日本に紹介されました。『母をたずねて三千里』というタイトルをご存知ない方は、まずいらっしゃらないのではないかと思います。この短編は、アニメ作品にもなっていますので、ご存じない方は、是非ビデオを借りてご覧になることをお勧め致します。 『クオレ(CUORE)』というタイトルは、英語の『ハート』に相当するイタリア語で、時に『勇気』や『愛』の意味にも使われるそうです。このことから日本では、大抵の訳本において、このタイトルに『愛の学校』という副タイトルをつけて翻訳されています。 アミーチスが、この作品を書くきっかけになったのは、1886年1月のある日、自分の息子を小学校へ迎えに行った際に見た、心温まる光景でした。 貧しい家の子と楽しそうにお喋りをしながら、校舎を出て来た彼の息子は、別れ際にその子を抱きしめ、キスをしたといいます。そしてアミーチスは、その美しい光景に感動し、その感動を子供たちに伝えるために、この物語を書いたのでした。 この作品の中には、さまざまな愛が出てきます。 隣人愛、親子や兄弟の愛、教師と生徒との愛、友達同士の愛、そして故郷や祖国への愛。そこには実に多くの愛の形が描かれ、読む者の心に強い感動を与えます。また、責任感や意志力、犠牲的精神などといったものも、この作品の随所に織り込まれています。それゆえにこの作品は、『説教臭が強い』とか『国粋主義的思想が鼻につく』などと言われることもありますが、それは執筆当時のイタリアの状況を考えてみれば、むしろ当然であると言えましょう。 イタリアは、16世紀までは多数の小国に分裂して互いに争い合い、そこを諸外国に付け込まれて、様々な干渉や圧迫を受けていました。16世紀半ばにはスペインに、18世紀にはオーストリアに支配され、さらに19世紀にはナポレオンに占領されて、そのためイタリアの人々は、筆舌に尽くし難い苦難を味わったといわれます。 ヴィクトル・エマヌエル2世やカブール伯爵、ガリバルディ将軍などの英雄が現われて、長い独立のための戦いの末、ようやくイタリアがイタリア人の下に統一されたのは、実に1870年。『クオレ』が出版されるわずか16年前のことでした。 このような時代背景下に、この物語は書かれたのです。苦難に満ちた戦いの果てに、ようやく手に入れた祖国を、当時のイタリアの人々がいかに大切に思っていたか。それを考えれば、アミーチスが繰り返し祖国愛を説いているのも、自然なことではないでしょうか。そのようにして獲得した平和が、いかに貴重なものであるか。彼はそれを、若い世代の人たちに教えたかったのだと思います。 それにしても、この物語に登場する子供たちの、何と生き生きしていることでしょう。 エンリーコだけでなく、ひょうきんな『左官屋くん』、頼もしいガルローネ、勇敢なロベッティ、お金に細かいガロッフィ、病弱だが優しいプレコッシ、そして豊富な知識を持ったデロッシ・・・、どの少年も個性にあふれ、紙面から飛び出してくるような気がします。 また、この少年たちを教え導く先生たちも、それぞれが魅力的なキャラクターを持っています。教え子たちを、時には厳しく叱り、時には優しく諭し、共に考え、あふれんばかりの愛情を注ぐ先生たちは、まさに理想の教師像と言えるでしょう。 貧しくとも、豊かな感情の交流のあるこの学校は、まさに『愛の学校』と呼ぶにふさわしい学び舎であり、そこで展開される物語は、限りなく美しい色彩に彩られています。 エドモンド・デ・アミーチス(1846-1908)は、イタリア北部リグリア地方の町、オネーリアで生まれました。オネーリアは、なだらかな丘の麓の、オリーブ林に囲まれた小さな町で、明るい陽光と豊かな自然に恵まれていたといいます。 彼は後に、この町からやや北部にあるトリノに移り住み、その地で一生の殆どを過ごしました。『クオレ』の舞台となっている小学校は、ここで彼が通った小学校がモデルであるといわれます。 1867年、当時歩兵将校であったアミーチスは、フィレンツェに派遣され、ここで新聞の編集に携わることになりました。これが、彼の文筆生活のきっかけです。翌1868年、軍隊時代の経験を書き綴った『軍隊生活』という作品で、一躍脚光を浴びた彼は、1871年に軍隊を退役し、以後は文学に専念することになります。そして、1886年に発表した『クオレ』が爆発的な大ヒットとなり、彼の名は『クオレ』の作者として、不動のものとなりました。以来、彼は1908年にリグリア地方のポルティゲーラで急死するまで、生涯作家としてペンを執り続け、彼の人柄そのままの誠実な作品を、次々と生み出していったのです。 現代人が忘れて久しい素直な感動を、この作品は与えてくれます。読み終えた後、皆さんは必ずや、美しいものに触れた喜びを得られることでしょう。いくつかの貴重な示唆を見出す方も、いらっしゃるのではないでしょうか。 この小説は、子供たちを対象として書かれたものですが、そういう意味で、むしろ大人の方たちにこそ読んでいただきたい作品であると、私は思います。 |