イタリア旅行(その4 初めての汽車旅)
ローマでは殆ど鉄道に触れる事が出来ませんでした。市内にトラムが走っているのは見ているのですが、路線数も少ないようですし、観光地付近には走っていないようです。おまけに地下鉄に乗ったらスリに出会うし・・・。出発前からの予定でしたが、丸一日ある自由時間を利用してイタリア南部の港町であるナポリ経由でポンペイの遺跡まで足を延ばす事にしました。もちろん、イタリア国鉄を利用しての汽車旅です。

さて汽車に乗るためには駅で切符を買わなくてはなりません。今回の汽車旅に2人が同行していまして、私を含めた3人は仕事柄ある程度の英語は理解できますが、イタリア語となるとさっぱりで、英語のone two threeがイタリア語で何と言うのかさえ怪しくなっています。どのようにして買うのか?、これが出発前からの悩みの種でした。そこで持参したトーマスクックの時刻表に掲載されている自分達が乗りたい列車に印をつけて窓口に提示して、指を3本立てて、「3men、second class、one way」と告げると、窓口も理解してくれて、難なく発券してくれました。この程度の英語なら十分に通じるようです。
さて、次はホームに向かいます。ローマ・テルミニ駅はヨーロッパの他の駅と同様に改札が有りません。低いホームがずらりと並ぶ駅構内に立ち入ると、あちこちのホームに列車が到着していて、朝の活気を感じます。発車の掲示を確認してナポリ行きの特急?のホームに行くと、もう入線していました。機関車を先頭に堂々たる10両以上の編成で、低いホームから眺めていますから、より大きく感じます。おそらく「2等・自由席」とイタリア語で書かれている(実は違いました)サボが付いている車両に乗り込みます。日本のようにシートが並んでいる車両も連結されていましたが、ヨーロッパの汽車旅の雰囲気を味わうためにあえてコンパートメントタイプの車両を選びました。お世辞にも新しいとは言えない車両でしたし、窓も汚れています。しかし新幹線とほぼ同じ大きさの車体に8人の定員ですし、シートの間隔もゆったりしているので、窮屈な感じは受けません。

と、ここまでは冷静に書いていますし、現地でも同行者がいるので落ち着いた風を装っていたのですが、実際の現地での私は興奮状態でした。念願のヨーロッパの汽車に乗れる!、そして今まさに動き出そうとしているのです。鼓動は高まり、発車の時を待ちます。そして自動ドアが閉まる音がして、私の興奮状態とは対照的に、何のショックも無く列車は動き出しました。ローマ・テルミニ駅のホームを離れ、複雑なポイントをいくつも渡って線路が落ち着くと、列車はスムースにスピードを上げて行きます。ローマ郊外の住宅地を抜けて、田園地帯にさしかかると、ますますスピードを上げて行きます。速度は日本の在来線よりはるかに早く、時速100マイル(約160キロ)程度は出ているようです。列車はノンストップでナポリに進んで行きます。
イタリアの国旗は赤と白と緑に彩られています。そのうちの緑は豊かな大地の緑を表しているようで、車窓の風景はまさにそのものでした。車窓に顔を出すティレニア海とのコントラストが素晴らしい風景を展開しています。そして時折に通過する小駅、ふと途中下車したくなりますが、幸か不幸かノンストップでナポリに運んでくれます。

ナポリは思った以上の都会でした。車窓から見る限りローマ以上に発展してるかもしれません。ローマ・テルミニ駅より建物の色彩が明るく、より南国を意識させます。さて雑然とした駅前広場を抜け、ポンペイへと結んでいるチルクムヴェスヴィアーナ鉄道Ferrovia Circumvesvianaの駅へと歩きます。約300メートルの道のりですが、何とも雑然とした道路を歩く事になります。路上駐車が横行し、道路も渋滞していて、それをかき分けるように車とバス、トラムとトロリーバスが走ってきます。ある意味ではイタリアらしく、クラシカルなビルとクラクションの騒音、今までイメージしていたイタリアの都市の風景が目の前に広がっています。
チルクムヴェスヴィアーナ鉄道のナポリ側の始発駅であるチルクムヴェスヴィアーナ駅Staz Circumvesvianaの駅前はバスターミナルになっており、ホームは半地下にありました。駅舎にはバスの切符売り場も併設されているようで、何処が鉄道の窓口なのか解りません。おまけに英語の表記も無く、こちらは立ち往生してしまいました。意を決して「Pompei 3men」と告げると何やら言って返してきます。こちらは何を話しているのか全く解りません。ローマ・テルミニ駅ではトーマスクック時刻表に印をつけて、という手段を使ったのですが、ローカル私鉄は時刻表には掲載されていませんでした。そこでイタリアのガイドブック(もちろん日本語版)のポンペイのページを開き、窓口に提示し3人と告げると何の事も無く発券してくれました。後で解った事ですが、ポンペイという駅と街は有るのですが、いわゆるポンペイの遺跡とは別な場所に有るのです。それを窓口氏は言っていたのでした。しかも枝別れの路線を持つチルクムヴェスヴィアーナ鉄道のポンペイ行き(経由)の列車に乗ると、今のポンペイの街の方へ行ってしまい、遺跡の最寄り駅であるヴィラ・デイ・ミステリ駅Staz Villa dei Misteriには行きません。そんな事はガイドブックには書いておらず、車内でイタリア語の路線図とガイドブックを見ながら検討していると、親切なアメリカ人の婦人が教えてくれました。

何とか切符を買って半地下のホームに向かいます。私鉄のコンパクトな電車が止っていますが、ホームの数は8番線ほどありました。そこに汚れでくすんだオレンジ色の電車が並んでいます。レールを見てみると、どうやら日本のゲージよりも幅が狭いようで、見た感じでは1メートルか3フィート程度のようです。その狭いレールの上を、1編成が3車体4台車の連接車が、2〜3編成連結されて走っています。

いくら世界的な観光地であるポンペイの遺跡が沿線に有るとはいえ、こんなローカル私鉄に乗るのは地元の客とイタリア人の観光客ばかりで、肌の黄色い東洋人は私たちだけです。車内も観光的な要素は全く感じられず、しばらくナポリの港湾地帯を走った後、ナポリ郊外の住宅地と畑が混在する地域を、意外にも早いスピードで走り抜け、約30分ほどでポンペイの遺跡にたどり着きました。

その5に続く
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