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いつの頃か、大平に某と云う百姓夫婦と娘がいた。夫婦は娘を蝶よ花よと、大切に育て可愛がっていたが、娘が年頃になったとき、ふとした病から娘を亡くしてしまった。手の中の玉を失った両親は嘆き悲しみ、娘のために盛大な葬儀を営み厚く供養を行って、せめてもの慰みにしたのであった。しかし、亡き娘の姿が、押し入れの前に立つようになったのは、その後間もなくのことであった。初め、両親は自分達が亡くなった娘のことを思い出しては悲しむので、、浮かばれなくて出てくるのかと考えたが、娘の姿がいつも押し入れに向かって立っているので、不思議に思い、ある日、僧にわけを話し、供養を願った。その夜、僧の枕元に娘が立ち現れ、「生前、大切にしていた着物が長持ちの中にあり、その着物に心が残り、今だに成仏出来ないでいる。」と言い、証拠の片袖を置いて消えた。僧は夢かと思い傍らを見ると片袖が置いてあった。僧は、翌日、この事を話し、片袖を見せた。母親は、娘の長持ちが押し入れに入っているのを思い出し、早速、取り出して中を調べると、底から片袖のない着物が出てきた。すると、僧は、「娘はこの衣類、持ち物に執念を持っているので、その執念を払うためには、この持ち物を売り払い、その金で追善供養をするがよい」と言ったので、その言葉に従って供養を行うと、再び娘の姿が現れることはなくなった。この夫婦の後は絶え、屋敷跡は畑になり、古井戸だけが一つ残ったそうだ。 |